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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第八章 怖くても
109/223

107th BASE

お読みいただきありがとうございます。


前回の話の真裕を見て思ったのですが、普段明るい人が突然淡々とした振舞になると怖いですよね。

真裕とか紗愛蘭が本気で怒ったらめちゃくちゃ蔑んだ目で見られそう……。


《六番ライト、稲村さん》


 ワンナウト満塁の状況は変わらず、六番の稲村が打席に入る。こうなると江ノ藤は同点、あわよくば逆転まで持っていきたい。ヒット一本、もしくは四球がもう一つでも出れば、その可能性はより大きくなる。


(咄嗟に投げたいって言ったけど、正直抑えられる自信は無い。……でもやるんだ。私には私の実現させたい理想がある。真裕たちと並んで野球できるようになりたい。そのためにはどんなに怖くても、投げることは止められない!)


 祥は深呼吸し、恐怖に震えそうな身体を鎮めてから初球のサインを覗う。菜々花の要求はインコースのストレート。勇気のいる一球になるが、祥は臆せず承諾する。


(上手くいくかどうかなんて考えるな。逃げずに投げ切ることが全てだ)


 もう後には引けない。前に進むしかない。祥は覚悟を決め、セットポジションから投球を開始する。全身を使って振り抜いた左腕から放たれた直球が、稲村の膝元を貫く。


「ボール」


 惜しくも外れる。しかし先ほどまでとは見違えるほどに球威が上がっており、稲村は見極めたのではなく手を出せなかった。


(あれ? こんなに速かったっけ? コースが良かっただけか?)


 稲村が困惑する中での二球目、祥は同じコースを狙ってストレートを投じる。逆球となってアウトコースへ行ったものの、稲村はまたも見送る。


「ストライク」


 今度はストライクとなった。これでバッテリーに少し余裕が出る。


(祥、良いボールだよ。その調子でどんどん投げてこい!)

(分かった。菜々花のミットが何となく大きく見えてる気がする。だから安心感が凄い)


 三球目もストレート。アウトハイのボール球だが、稲村は勢いに気圧されて手が出てしまう。


「スイング」


 稲村は途中でバットを止めたものの、球審にハーフスイングを取られる。テンポ良く祥が追い込んだ。


 次の四球目も祥は直球を続ける。外角低めの際どいコース。稲村は打ちにいかざるを得ない。


「キャッチ!」


 高い飛球が本塁後方のファールゾーンに上がる。菜々花はすかさずマスクを取って追いかけ、落下点に入った。


「オーライ」


 フェンス際の窮屈な場所だったが、菜々花は腕を一杯に伸ばし、打球がバックネットに当たる前にキャッチする。

 三人のランナーは動けないまま全員が帰塁。アウトカウントだけが増える。


「ナイスキャッチ! ありがとう」

「ふふっ、祥もナイスピッチ。これなら打たれないよ!」


 祥と菜々花は互いを讃え、笑顔を交わす。ただしまだこの回は終わっていない。江ノ藤のチャンスは続き、六番の長谷に打席が回る。


《六番セカンド、長谷さん》


 長谷は左打者。祥としては難敵を迎え撃たなければならない。


(腰越さん、どうしましょう? ツーアウト満塁ですけど、作戦は続けますか?)

(内野が集まって一呼吸入れてから、明らかにピッチャーの面構えや雰囲気が変わった。それが投げる球にも表れてる。けれど左打者が苦手なのは変わらないだろうし、それならこっちも作戦を変えるのはもったいない)


 江ノ藤は待球作戦を続行。徹底して祥に揺さぶりを掛ける。


(左打者ってことはまたバントの構えとかしてくるんだろうか。けどそんなのはもう関係ない。誰が相手だろうと、何をやってこられようと、私は自分のために全身全霊でこの左腕を振るんだ)


 一球目、祥が投球モーションに入る。長谷のバントの構えに動じることなく、ど真ん中にストレートを投げ切った。この試合で初めて、左打者に対してストライクが先行する。


(いきなりストライクが入ったか。まあ良い。それなら打って点を取るだけだ)

(了解です)


 長谷はヒッティングに変更。祥が初球からストライクを取ったことで、待球作戦はあっけなく終わりを告げた。


(左打者でもストライクに投げられた。この感覚を続けられればいける。私にだって抑えられるんだ)


 祥の投球は俄然(がぜん)勢い付く。二球目、直球がアウトコース低めへ。長谷はスイングしていくも、空振りを喫する。


(さっきの時よりも速く感じるな。けどこれくらいなら打てないわけじゃない。大した小細工もできないだろうし、きっとまたストレートを続けてくる)


 バットの握りを若干余す長谷。一打席目でヒット性の打球を放っているため、祥の球を打ち返すイメージはできている。


(本当だったら変化球を交えた方が良いんだろうけど、祥のリズムを変えたくはない。ここはもう少し真っ直ぐで押し込んでみよう)


 菜々花は少々迷い気味になりながらも、引き続きストレートを要求する。今の祥の勢いに懸けたのだ。


 ツーストライクとバッテリーは長谷を追い込んでいる。祥はランナーを見やることもせず足を上げ、三球目を投じる。

 真ん中やや外寄りにストレートが行った。長谷は手元まで引き付けてからバットを振り抜き、芯で捉える。


「あっ!」


 打球はショートの頭上を越え、外野に飛んでいく。祥と菜々花が同時に声を上げる中、センターの洋子が斜め前へと全力疾走する。


(この打球は捕ってやらなきゃ。チームのためにも、祥のためにも!)


 洋子は落ちてきた打球にグラブを伸ばして突っ込む。走る勢いで距離感が把握しにくいことに加え、逆シングルにもなるので非常に捕球が難しい。

 それでも洋子はボールをグラブに収める。着地時に体が一回転するも、最後はしっかりと立ち上がり、落球もしていなかった。


「アウト。チェンジ」

「やった! 洋子さんナイスキャッチ!」


 祥はバンザイして両手でガッツポーズを作る。大ピンチを招くも、一失点で乗り切った。彼女はベンチに戻る前に、引き揚げてきた洋子に礼を述べる。


「ありがとうございました。助かりました」

「祥もよく踏ん張ったよ。あんたが逃げずに投げてたから、何としても捕ってやるって思えたんだ。ナイスピッチング」


 普段はクールな洋子も、ここは柔和に笑って祥の頭を軽く撫でる。洋子だけではない、菜々花や京子、更には真裕も含めた選手全員で祥を盛り立て、窮地を脱した。


 続いて三回裏の亀ヶ崎の攻撃。一番の京子から始まるので、是が非でも追加点が欲しい。



See you next base……

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