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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第八章 怖くても
105/223

103rd BASE

お読みいただきありがとうございます。


自分の苦手なところをしつこく突かれるのは嫌いですが、相手の苦手なところをしつこく突くのは好きです。


「さあ祥ちゃん、二イニング目も思い切っていこう!」

「うん。ありがとう」


 真裕に軽く腰を叩かれ、祥は再びマウンドに向かう。初回の時よりも表情は随分と和らいでいた。


「二点は入ったけど、それを守ろうなんて考えちゃ駄目だよ。初回と同じように投げれば抑えられるから」

「分かった。頑張る」


 投球練習を済ませた祥に菜々花が一声かける。味方が得点すれば、投手はどうしてもそれを守りきろうと考えるもの。しかしそのせいで力んでリズムを崩してしまい、それまで良かったピッチングが悪くなるなんてことは多々起こる。特に経験の少ない祥には、点差を気にせず自分の投球に専念した方が良い結果が得られるだろう。


《二回表、江ノ藤高校の攻撃は、六番ライト、稲村(いなむら)さん》


 江ノ藤は下位打線での攻撃となる。右打者の稲村が先頭で打席に入る。


 一球目、祥は内角にストレートを投じる。稲村は手を出さない。


「ストライク」


 二球目は外角へのストレート。こちらは僅かに外れる。だが捕球した菜々花は好感触を得たという様子で、何度か頷きながら祥にボールを返す。


(まだ二球見ただけだけど、一回の時と同じように投げられてる。ひとまず点差は意識せずにいられてるかな)


 三球目、菜々花はカーブを要求。祥の投球は外角から中に曲がってくる。稲村は打って出るも、打球はショート正面へのゴロとなる。


「オーライ」


 京子が危なげなく処理し、一塁に送球する。まずはワンナウト目を取った。


《七番セカンド、長谷(はせ)さん》


 七番の長谷に打順が回る。彼女は左打席に立った。


(また左か……。これで三人目だよ)


 祥は気を重くしながらロジンバックを触り、長谷と対峙する。その初球、アウトローに向かって直球を投げる。


「ボール」


 狙いよりも低めに外れた。上手く指に掛からなかったみたいだ。


 二球目も同じコースへのストレート。今度はストライクゾーンからボール二つ分を外に行ってしまった。


「むう……」


 どうしても祥は思うように投げられない。稲村や他の右打者と対している時とは別人のようだ。

 亀ヶ崎の選手は祥が左打者を苦手としていることは知っているが、江ノ藤ベンチにもそれとなく違和感を持っている者がいた。先ほど敬遠気味の四球を選んだ主砲の腰越である。


(また唐突に制球が乱れ始めたな。稲村にはあんなにテンポ良かったのに。どこかに理由があるのか?)


 腰越が訝し気に見守る中での三球目、祥の投げたストレートが真ん中高めに行く。ボールになるかと思われたが、長谷はスイングしていった。


「ファール」


 バットには当てたものの、前には飛ばせなかった。打球はバックネットを越えてスタンドに入る。


(ファールにはなったけど、おそらく今のも狙ったところには投げられていない。これはもしや……)


 腰越は何か策を思い付いたみたいだ。そして亀ヶ崎側に気付かれぬよう、ネクストバッターズサークルで控えていた八番の由比(ゆひ)を呼び寄せた。


 一方マウンドの祥は、長谷への四球目の投球に移る。投げたのは低めのストレート。ただ若干腕の振りが鈍く、威力が弱まっている。

 長谷はセンター方向に向かって弾き返した。鋭いゴロが祥の左を通って二遊間を襲う。


「セカン!」

「オーライ」


 愛はダイビングキャッチを試みた。転がってきた打球をグラブの芯で掴み、すぐさま立ち上がって一塁に投げる。


「アウト」

「よっしゃ!」


 長谷も懸命に走ったが、一歩分ほど送球の方が早かった。愛はグラブを叩いて自らを称える。


「ナイスセカンドです。愛さんありがとうございます!」

「えへへ、守備は任せておきなさい」


 礼を述べる祥に対し、愛は得意気な顔をして応える。跳び付くタイミング、捕球した後の処理も完璧で、本当に見事なプレーだった。


《八番キャッチャー、由比さん》


 ツーアウトとなり、八番の由比が打席に立つ。彼女も左打者。先ほど腰越から何やら言伝を預かってきた。


(この人も左打者なのか。二人続けて相手にするのは辛いよ)


 祥は気を重くしながら初球を投じる。内角高めにストレートが外れた。由比は微動だにしない。


(ん? 何だ今の見送り方は。全く打つ気が感じられなかったけど)


 何となく不審に思う菜々花。如何にボールだったと(いえど)も、もう少し反応があっても良い。


 二球目、祥の投げた直球がアウトローの際どいコースを突く。しかし判定はボール。これにも由比は動きを見せない。


(おかしい。今のなら打ちにいこうとくらいするはず。ほんとに打つ気が無いのか?)


 三球目、菜々花は試しに真ん中に構えてみる。祥の投球は少々ズレたが、ストライクゾーンに行っている。由比はまたもや棒立ちのまま見逃した。


(ど真ん中に近かったし、打つには絶好の球だったけど、これで良いんだよね?)


 由比が打席からベンチの腰越と目を合わせた。腰越は静かに大きく頷く。

 祥の左打者への対応力を把握するため、腰越は由比に待球を指示していた。キャッチャーの菜々花は、今の一球でその作戦に勘付く。


(きっと待てのサインか何かが出てるんだ。ストライク入った後もしてくるのだろうか)


 菜々花はもう一度祥に真ん中目掛けて投げさせる。ところが祥は引っ掛けてしまい、投球は低めへと外れた。


(しまった……。真ん中にすら投げられないなんて)


 祥は思わず下唇を噛む。左打者を苦にしているとは言っても、いつもならもう少しまともに投げられている。夏大のマウンドというプレッシャーが、普段以上に苦手意識を強めていた。


(待球なんて続けられたら祥は苦しくなるな。とにかくこの打者は歩かせても仕方が無い。一旦落ち着いて手を考えよう)


 五球目。菜々花は敢えて外角低め一杯にミットを構える。ただ今の祥にそこに投げ切れるコントロールは無い。


「ボール、フォア」


 ミットの位置よりも投球は更に外角へと行った。由比がバットを置き、一塁へと歩く。


(これで良いんだ。次の打者を切れば問題無い。それに二点のリードがあるんだから、余裕を持って守れば良い)


 祥が投げることに集中する分、菜々花が点差や試合状況を鑑みて配球を組み立てる。そうしてバランスを整えてゲームメイクをすれば、大崩れすることはないだろう。


《九番ピッチャー、鎌倉さん》


 ラストバッターの鎌倉が右打席に入る。バッテリーとしては上位に繋げさせるわけにはいかない。



See you next base……


祥’s DATA


★ストレート(最高球速98km:常時球速90~95km)

スライダー(球速80~85km)

カーブ(球速70~80km)

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