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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第八章 怖くても
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102nd BASE

お読みいただきありがとうございます。


ノーアウト満塁は意外と点が入らないと言いますが……。


《四番ファースト、紅峰さん》


 珠音がゆっくりと打席に入る。先日の伊予坂戦でも同じ状況で回ってきたが、不運にも会心の当たりが野手の正面を付き、ホームゲッツーに倒れた。その雪辱を果たすために、自らのバットでランナーを還したい。


(このチャンスで一点じゃもったいない。私が打ってビックイニングにするんだ)


 一球目、内角にストレートが来た。珠音は思い切り引っ張っていったものの、打球はレフト線から大きく外れた地点に落ちる。ただ球足は非常に速く、これにはベンチで見ている祥も期待を膨らませる。


(凄い打球だなあ。これならたくさん点が入るかも)


 二球目はカーブが外れ、続く三球目。鎌倉の投げたストレートが高めに浮いてきた。見送ればボールだが、コースが甘かったので珠音は打っていく。


「センター!」


 高々と上がったフライが外野に飛んでいく。センターの石上が咄嗟に後退するも、それほど打球は伸びなかった。石上は落下点よりも後ろで一旦停止し、助走を付けながらキャッチする。


「ゴー!」


 三塁ランナーの京子がタッチアップ。石上もバックホームする。ただ送球は中継で一旦止められ、三塁へと送られる。二塁ランナーの洋子の進塁を防ごうとしたのだ。


「セーフ」


 しかし間一髪で三塁もセーフとなる。一方の京子ももちろんホームを駆け抜ける。


(外野の頭越えなかったかあ。ちょっと差し込まれちゃったし、待っても良かったかな)


 打った珠音は少々浮かばない表情をする。やや強引に打ってしまったことを悔やんでいるみたいだ。といっても最低限の役目を果たし、亀ヶ崎に先制点を(もたら)した。


「やった、先制点!」

「ナイスラン京子!」


 真裕と祥はベンチに戻ってきた京子を並んで迎える。ハイタッチを交わし、喜びを分かち合った。


《五番サード、外羽さん》


 尚もワンナウトでランナーは一、三塁。少なくとももう一点は取っておきたい。


(珠音でも高めをあそこまでしか飛ばせないということは、直球には結構威力があるのか。打つとしたら逆らわず右方向だな)


 江ノ藤の内野陣はファーストとサードが前進、二遊間が併殺を狙うシフトを敷く。その初球、鎌倉はインローに直球を投げ込む。


「ストライク」


 杏玖は打とうとせずに見逃した。鎌倉の制球は少しずつ定まってきているようだ。


 二球目はカーブが低めに外れる。次の三球目、外角に来た投球に杏玖はスイングしようとする。


「あ……」


 ところがボールは若干沈みつつ、杏玖から逃げていくように曲がる。ツーシームだ。杏玖は咄嗟にバットを止めるも、スイングを取られてしまった。


(追い込まれてしまった。さっきまでストライクを取るのに苦労してたのに、珠音を打ち取ったことでちょっと落ち着けたのかな? そうなるともう打って点を取るしかないか)


 三振で流れを止めるわけにはいかない。杏玖は少しだけバットを短く持つ。鎌倉が四球目の投球モーションに入る。すると一塁ランナーの紗愛蘭がスタートを切った。


(紗愛蘭走ってる! なら転がしてもチャンスはある)


 勢いのあるストレートが膝元を突く。杏玖は引っ張ろうとはせず、おっつけて流し打つ。


「セカン!」


 セカンド真正面へのゴロ。ゲッツーにはお誂え向きの打球だが、エンドランになっていたことで二塁は間に合わない。

 守っていた長谷(はせ)は諦めて一塁をアウトにする。その間に洋子が生還した。


「やった! 二点目」


 これで亀ヶ崎のリードは二点に広がる。紗愛蘭の機転の利いた走塁と、杏玖の自己犠牲のバッティングが見事に噛み合った。


(サインは出てなかったし、紗愛蘭は自分の判断で走ったのか。でもそのおかげで楽に打つことができた。助けられたよ)


 一塁を駆け抜けた杏玖は、ベンチに帰ろうとする前に紗愛蘭に向かってうっすら微笑みかける。紗愛蘭は照れくさそうに白い歯を見せ、ヘルメットの鍔を触って応えた。


《六番レフト、琉垣さん》


 まだ亀ヶ崎の攻撃は終わらない。二塁に進んだ紗愛蘭を還し、できることならもう一点追加しておきたい。


 一球目、鎌倉は外角にカーブを投じる。ストレートにタイミングを合わせていた逢依は見送り、ストライクとなる。


(カーブと真っ直ぐの緩急が決まってくると厄介だな。ここで私が打って三点目が取れるかどうかは大きな意味を持つかもしれない)


 二球目はアウトコースのストレートが外れた。逢依の見逃し方は若干差し込まれているが、球筋が追えていないわけではない。


(やっぱり打つなら今みたいな真っ直ぐだよね。大振りはしない。しっかり芯に当てれば飛んでいくはず)


 三球目。鎌倉はツーシームを投じた。コースは内角低め。逢依は打ちにいきかけたが、ストレートではないと気付くと咄嗟にバットを止めた。


「ボール」


 球審は僅かに沈んだ分だけ外れていると判定する。逢依は何か思うところがあるのか、頬を丸く膨らませて吐息を漏らす。


(今のボールになってくれたのは大きいな。きっとこれ以上フォアボールは出したくないと思ってるだろうし、次はきっとストレートでストライクを取りにくる)


 四球目、逢依は好球必打の姿勢で臨む。鎌倉は彼女の予想通り、真ん中やや外寄りへ直球を投げてきた。

 もちろん逢依は打ちに出る。バットの芯でしっかりミートし、右方向へ鋭いライナーを放った。


「おお!」


 亀ヶ崎ベンチから歓声が上がる。紗愛蘭も一気にホームインを狙って駆け出す。


 打球はライトを守る稲村(いなむら)の前に落ちるかと思われた。ところが若干伸びてしまったようで、慌てて前進しようとしていた稲村は急ブレーキを掛けて打球を持ち構える。


「オ、オーライ! おっと……」


 最後は背伸びをするような格好になりながらも、稲村は何とか捕球に成功。グラブに長又ボールを周りに分かるように見せた。


「アウト。チェンジ」

「ああ……。最悪」


 逢依は悔しそうに顔を顰める。残念ながら三点目とはならなかった。


 しかし四球も絡んだことで、亀ヶ崎はヒット一本のみ、更にタイムリーも出ていないながら二点を先制。幸先の良いスタートが切れたと言えよう。



See you next base……


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