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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第七章 また、始まる
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98th BASE

お読みいただきありがとうございます。


一回戦が終了し、次回からは二回戦に入っていきます。

今回はそれに向かってのお話です。


 夏大一回戦が終わった。私たち亀高は辛くも勝利を挙げ、宿舎へと帰ってきた。


「はあー、疲れたあ」


 私はというと、荷物を置くや否や風呂場に直行。体に纏わりついた汗を流し、部屋へと戻って床に寝転ぶ。


「お疲れ様。今日は大活躍だったね」

「ありがとう。とにかく勝てて良かったよ」


 同部屋の紗愛蘭ちゃんたちが私を迎え入れる。ただ三人とも部屋着には着替えておらず、運動着のままでいた。


「あれ? 皆今から何かするの?」

「うん。少し体を動かしてこようと思って」


 そう言って立ち上がった紗愛蘭ちゃんは、バットを差した鞄を待つ。京子ちゃんと祥ちゃんも呼応して腰を上げる。


「えー、何それ。私だけ置いてけぼりじゃん。私も行きたい!」

「駄目だよ。真裕は今日完投したんだし、次に備えて休まなきゃ」

「でも行きたいよ。これじゃ私だけ除け者じゃん……」


 私は頬を膨らませる。紗愛蘭ちゃんはそんな私の頭を撫で、優しく説き伏せる。


「気持ちは分かるけど、ほんとに今日は止めときな。無理してどこか痛めたら大変だよ」

「うう……。分かった。我慢する」


 こればかりは紗愛蘭ちゃんの言い分が正しく、私は納得するしかない。あと撫でられるのが予想以上に気持ち良かったので、心が落ち着いた。


「じゃあ行ってくるね。ちゃんと体を休めるんだよ」

「はーい。行ってらっしゃい」


 部屋から出ていく紗愛蘭ちゃんたちを見送り、私は再び横になる。とりあえずスマホを開いてみると、三〇分ほど前に椎葉君からメッセージが来ていた。


《お疲れ。試合にはちゃんと勝てたか? 俺は明日に向けての練習が今終わったとこ!》


 椎葉君のいる男子野球部は現在、甲子園へと繋がる地方大会に臨んでいる。ここまでエースの彼が中心となって順調に勝ち進んでおり、明日が準決勝。去年はここで敗退して甲子園への道は絶たれた。


《お疲れ様! ちょっと危なかったけど勝ったよ!》


 私は喜びのスタンプを添えてメッセージを送り返す。返信は五分しない内に来た。


《危なかったのかよ(笑)  まあ何にしても勝って良かった。柳瀬は先発だった?》

《そうだよ。一点取られちゃったけど、全部投げきった!》

《おお、そうなのか! 流石だな。俺も明日は勝つから、応援しといてくれよ》

《もちろん応援してるよ!(^^)! 絶対勝ってね》


 椎葉君も調子が良さそうで何より。決勝、準決勝と連戦となるので明日は投げるかどうか分からないが、他にも良い投手がいるのできっと勝ってくれるはずだ。


「ふふっ、一緒に勝とうね」


 私はスマホの画面を見ながら、うっすらと笑みを浮かべる。それから数件やりとりをしたところで、椎葉君からの返信は止まった。 

 家に帰ってシャワーでも浴びているのだろうか。そんなことを考えていると、急に眠気が襲ってきた。一息ついたことで試合の疲れが出てきたのだと思う。


「ふわあ……」


 瞼が独りでに落ちてくる。私はそれに逆らうことなく、ゆっくりと目を閉じた。


「……真裕、起きて。監督が呼んでるよ」

「んん……?」


 私は誰かに体が揺すられるのを感じて起きる。目の前には祥ちゃんがいた。


「ああ……、私寝ちゃってたのか」


 ふと見た外は、さっきまでの青色からオレンジ色に変わり始めていた。時刻は午後五時過ぎ。あれから一時間くらい眠っていただろうか。かなりすっきりした気がする。


「祥ちゃん帰ってきたんだね。あとの二人はどうしたの?」

「京子も紗愛蘭も一緒に戻ったよ。二人はお風呂入ってる」


 そう話す祥ちゃんは部屋着姿になっていた。二人より先に入浴を済ませたのだろう。


「そういえば監督が呼んでるよ。夕食の前にバッテリーを集めたいんだって」

「そうなの? じゃあ早く行かなくちゃ」

「うん。……でもその前に、上を着替えた方が良いと思うよ」

「へ?」


 祥ちゃんに苦笑いで指摘され、私は自分の服を見る。なんと胸元がべったり濡れているではないか。


「うわっ! 何これ……」


 寝ている間に涎が垂れてしまっていたようだ。私は咄嗟に口元を拭う。慌てて着替えを済ませ、祥ちゃんと一緒に監督室に向かった。


「失礼します」

「お、来たか。入って良いぞ」


 監督室には既に春歌ちゃんや捕手陣が集まっていた。私たちも空いた座布団の上に腰を下ろす。


 部屋の中は張り詰めた空気に包まれている。そりゃ監督に呼ばれて話をするのだからこうなって当然だ。隣の祥ちゃんの顔を覗うと、かなり緊張しているのが分かった。


「よし。全員揃ったところで話を始めるぞ。一回戦を突破し、明後日には二回戦が行われる。相手は球場で確認した通り、神奈川の()(ふじ)高校だ」


 江ノ藤高校は先ほどまで私たちが観戦していた試合で勝利し、二回戦に駒を進めていた。守りからリズムの作っていく戦い方が印象的で、多分チームカラーは私たちと似ている。


「先発バッテリーだが、祥と菜々花で行きたいと思っている」

「へ!? 私が先発ですか?」


 祥ちゃんは素っ頓狂な声を上げて自分を指さす。ただ監督は動じることなく頷いた。


「そうだ。これまでの練習試合でやってきた通りに投げれば十分試合を作れるはずだ。だから心配しなくて良いぞ」

「は、はい……」


 まさか自分が指名されるとは思ってもいなかったのだろう。祥ちゃんは見るからに不安そうな顔付きになる。

 しかし日程的なことを考えれば、この起用は尤もである。二回戦、三回戦は連戦。私としてもどちらかで休養日があった方がありがたい。それに監督の言う通り、祥ちゃんのここ一年での成果を発揮できれば良いピッチングが大いに期待できる。


「菜々花も頼んだぞ。祥を引っ張ってやってくれ」

「分かりました」


 一方の菜々花ちゃんは毅然とした態度でいる。優築さんの陰に隠れているが、彼女も頼もしい女房役として投手を盛り立ててくれる。祥ちゃんも投げやすいだろう。


「あとは美輝(みき)と春歌、いつリリーフに入っても大丈夫なように準備しておいてくれ」

「はい」

 もう一人の投手陣である波多(はた)美輝さんと、春歌ちゃんが同時に返事をする。もちろん祥ちゃんが全部投げてくれれば言うことないが、現実的には継投が必要になる。とすれば美輝さんや春歌ちゃんの存在が不可欠だ。


「とにかく次の試合は三人、場合によっては杏玖も含めて真裕を使わずに勝利する。それを目標に頑張ろう!」

「はい!」


 ということで私は次の試合はお休み。ベンチで応援することになる。自分が投げたい気持ちもあるが、それだけで抑えられるほど夏大は甘くない。皆の協力が無ければ勝ち進んでいけないのだ。


「話は以上だ。もうすぐ食事の時間だから、遅れないように部屋に戻って支度してくれ」

「失礼します」


 私たちは全員で部屋を出る。夏大での初勝利も束の間、次の試合は明後日にやってくる。先発は祥ちゃん。きっと勝ちを運んできてくれると信じている。



See you next base……

PLAYERFILE.28:波多美輝(はた・みき)

学年:高校三年生

誕生日:8/20

投/打:右/左

守備位置:投手、三塁手

身長/体重:158/55

好きな食べ物:海老グラタン

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