その1-1
それは学校からの帰り道、居残り勉強をしていて、遅くなってしまったぼくは、近道をしようと林を切り開いて作られたような道の途中にある公園を通ろうとしたときだった。
そこに、『それ』はいた。
そのときの公園の雰囲気は、実に妙だった。
所々に、鳥・・・いや、森にいる様々な生き物の死骸が散らばっていた。
それらは、まるでなにかの軌跡を描くかのように、なにかの儀式の魔法陣を描くかのように、不規則に、しかし規則的に散らばっていた。
そして、その死骸たちの中心には、一人の人影。
身長は、平均的な女性と同じくらいだろうか。
辺りが暗かったのもあり、顔は見えない。
だが、一つ、すごく不可解な点があった。
誰が見ても、少なくとも見た者が人間であるならば、畏怖や、恐怖を感じだろう。
その人影は、身の丈の2倍ほどの大きなムカデのようなものを咥えていたのだ。
しかも、そのムカデは時折ぴくぴく動いている様に見える。
これはやばい。
絶対に公園に入ってはいけない。
逃げなくてはならない。
そう、一度は思った僕だったが、次の瞬間、気が変わってしまった。
月を隠していた雲が退き、月明かりが射してきたときだった。
人影が月明かりに照らされ、姿がはっきり見えた。
それは女性だった。
化物のような行為とは裏腹に、その表情は、愁いに満ちていた。
その愁いに満ちた表情に見とれていると、いつの間にか、彼女がこちらを見ていた。
未だにムカデを加えたままだが。
目が合う。
というより、目より下はおぞましい巨大ムカデだから、できるだけ見ないようにしていた。
綺麗な目だ。
吸い込まれそうなほど魅力的なのに、その瞳からは、意志を感じなかった。
まるで、どこか遠い場所を見ているような・・・。
「あなたは逃げないの?」
彼女が、口からムカデを離して、言葉を発した。
ぼくに話し掛けているのか?
正直、逃げたいと最初は思ったけれど、なぜか惹かれるその表情と瞳を見てしまってから、動けずにいる。
どう答えようか・・・。
言いよどんでいると、彼女が両手に持っていたムカデを突き出してきた。
「食べる?」
ぼくは全力で首を横に振った。
さすがに、ぼくは現代日本人をやめたくはない。
「そう・・・。」
彼女は、無関心そうな目でそう言うと、またムカデを齧りだした。
何を思ったのか、ぼくは公園に足を踏み入れていた。
そして、近くにあったベンチに腰掛けた。