prologue:変身
初めましてコメコパンです。
駄文ですかと思いますがどうぞよろしくお願いします。
路地裏で、俺は仰向けに倒れていた。
今は夕方、昼と夜との教会の狭間。
くすんんだ灰色だった筈の大地は今や赤色に染まりつつある。
「グギ、ガガァ」
俺の真横から、くぐもった獣のような唸り声が聞こえる。
いや、実際それは獣だった。
俺の真横にいるソレはガチガチと、裂けた口から覗く歯を鳴らしながらこちらを見つめている。
爛々と輝く赤い瞳は眼前の贄に欲を抑えきれず、蕩けてしまっており、今すぐにでも俺を食べつくしてしまいたいようだった。
足は五本、無理やりつなぎ合わせられたようなソレは体に似合わず、雌鹿のもののように細い。
全体的に見るならばその獣はRPGなどでよくあるキメラ——合成生物——のようだった。製作者の趣味の悪さが伺える、本当にグロテスクな生物だ。
「う———う”ぅ…」
痛みに耐えかねて、俺の口から声が漏れる。
くそ、脇腹が灼けるように痛い。痛いだけじゃない、さっきから妙な脱力感、寒気も感じている。
きっと血でも流れてしまっているのだろう。
俺の苦悶の声に獣は悦に浸ったような醜い嬌声をあげる。
とにかく、ここから逃げ出さないと。
這いつくばってナメクジのようにゆっくりと出口を目指して進んでいく。
路地裏の出口は20メートルほど先だ。少し遠いけれど、たどり着けないほどではない。
幸いなことに獣はこちらを舐めきっている。あと少しのところで俺にトドメを刺す腹積もりなのだろう。
その手前で奴の意表をついて外に助けを呼べばいい。そうすれば多少は助かる可能性が上がる。
「———、」
唐突に、俺の意識に霞がかかる。
さっきまで鬱陶しいまでに感じていた痛みも曖昧だ。
なんだ。何が起こっている。
———キミは助かりたいかい?
中性的な高い声が俺の脳内に響く。白昼夢でも見ているのだろうか。痛覚だけじゃない、触覚、嗅覚も曖昧だ。
とにかく、俺は生きるためなら藁でも躊躇なくすがる主義だ。それが助かる道だと言うのなら、どんなものでも俺は構わない。
———ふふ、威勢がいいことだ。
なんか笑われた。死ぬ間際だと言うのに向こうは随分と気楽なようだ。俺は少しだけ、いや結構腹が立った。
———ああゴメンゴメン。さっさと契約するとしよう。
待て、今すごい死亡フラグを聞いた気がする。
具体的に言うならゾンビ兵となってこき使われそうな、そんな予感だ。
契約、なんて胡散臭い言葉だろう。是非とも内容をご教授願いたいものだ。
———…、よし、契約完了だ。
コイツ、無視だと…!
なんて悪質な、親の顔が見てみたいぜ。本人の顔すら見てないけど。
———えー、キミは何でも良いっていたじゃないか。それに最初にキミはYESと言っていた。ボクは何も不正なんてしてないと思うけどなあ。
ぐぬぬ…。確かに俺は最初になんでもいいとは言ったが、あくまで心の中でだ。
言葉を介しての腹の探り合いが人間の本分ではないだろうか。
———まーまー。とにかく変身するよ。結界が持たないからね。
変身…?どう言うことだ。なんと言うか、説明不足が過ぎるような。
———そうそう。変身って叫ぶんだ。もう定型文は設定してある。
…色々気になることはあるが、とにかく今はヤツの言葉を信じることにしよう。
俺は精一杯声を張り上げた。不思議と、脇腹が割かれているというのにその声は掠れることすらなく、滑らかに声帯から紡ぎ出された。
「変身!!」
直後、俺は眩ゆい光に包まれた。
既に痛みは引いている。心なしかさっきまでと一転してスキップでもしたくなるほどに清々しい気分だ。
さあ、眼前の魔獣に正義の鉄槌を下そう。
「変身完了!!」
光が晴れ、顕れた俺の姿は一変していた。
俺の身体はゴスロリ風の紫のドレスを纏い、元々、肩ほどまであった髪は背中を覆うほどに長くなっている。手には短めの杖を持っており、先端には黒色の宝石があしらわれていた。
ってちょっと待て。
「ドユコト?」
———魔法少女だよ。テレビとかで見てないかな?
いや、そう言うことじゃなくて。
「どうして俺なんだ?」
そう、何故男である俺が魔法少女なのか。色々とアレじゃあなかろうか。
———もう、そんなことどうでもいいじゃないか。
アカン、コイツ絶対笑ってやがる。
———とにかく、精霊フランマの名を以って祝福しよう。キミは今日から魔法少女だ。まあ、存分に楽しんでくれたら幸いだよ♪
そんな腹立たしい祝詞とともに、俺の魔法少女生活は始まりを迎えたのだ。
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ではでは