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猫捨て奇憚  作者: 九丸(ひさまる)
3/5

変わる

 あの日以来、私は変わった。人の顔色を伺うこともなく、言いたいことも言えるように。


 家内が一番驚いていたのかもしれない。


 結婚して十五年になるが、恋だの愛だのがあったわけではなく、ささやかだが安定した私の仕事に魅力を感じ、一緒になったのだろう。だから家内は私に興味など一欠片も持ち得ていなかった。私も私で恋愛経験もなく、このまま独身かと思っていたが、世間体も考えて登録した相談所で家内と出会い、そのまま結婚に至った。互いの思惑が一致しただけだったのだ。だから、結婚生活も当初は上手くいっていた。仲睦まじくということではなく、干渉がないという意味で。だが、それも時が経つに連れて崩れていった。始めは小さな小言から始まり、段々に存在すら邪険にされるようになっていった。やれ男らしくない、すぐに顔色を伺う、自分の意見がない、あまつさえ稼ぎが少ないと、散々な言われようであった。

「結婚して失敗したわ」とは口癖になっていた。


 こうして私は居場所を無くした。そこに居ることはできるが、無防備な状態では居られない。帰りたくないが、他に行き場所もない。いや、作ることも出来なかった。


 これは別に家に関したことだけではない。勤務先でもそうだった。言われたことしか出来ない、ことなかれ主義以下、居ても居なくても一緒、何を考えてるか分からない、何処に居ても言われることは同じだった。


 それがあの日から一変した。家内の謂れのない小言には反論し、それが男らしく映るらしく、私に甘えるまでになった。勤務先でも自発的に仕事に取り組めるようになり、遅まきながらも評価が上がっていった。


 全ては猫を捨てたおかげだった。


 私はその後も勢いを殺すことなく、今までの人生を取り戻すかのごとく、自我を解放し続けた。私は酔いしれていた。こんなにも生きるとは易いことなのだと感じて。


 しかし、それもある時から綻び始めた。家内も含め、変わった私を受け入れてくれてると思っていたが、徐々に周りが遠ざかり始めた。家内の目には怯えが走り、勤務先でも、仕事が出来ると認められ、それによって付いてきていた同僚や部下も距離を置くようになっていた。


 それでも私は気にすることなく謳歌していた。何事にも縛られることのない、まるで王にでもなった気分だった。


 そして私は孤独になった。

家内は家を出て行き、勤務先でも孤立し、扱い辛いと、まるで独居房のような部所に配置変えを言い渡された。


 私はまた生き難さを感じていた。

猫を捨てる以前よりもはるかに。

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