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シーン9
目を開けると、目の前には目頭を真っ赤にして涙を溜める、尚美さんが。私を抱き締めていた。
「長谷川さん! 貴女! 今、飛ぼうと!」
看護士の尚美さんが、下着姿の私を強く強く、折れてしまうほど私のアザだらけの細い身体を抱きしめる。
帰ってきた。
帰ってきたよ。
「大丈夫です・・・尚美さん。ごめんなさい、心配かけて。」
私よりも大人な尚美さんの頭をあやすように撫で、
私はベットに備え付けられているテーブルの引き出しから、1冊の日記を取り出した。
その日記の1ページ目
『私を犯す父を殺したい』
そのページを破り取り、
丁寧に丁寧に。
折り畳んで、紙飛行機を作った。
「長谷川・・・さん?」
私は、尚美さんに頬笑み。
その紙飛行機を、窓から飛ばした。
紙飛行機は、月に照らされて空へと飛んでいく。
「・・・私は。長谷川美空はもう大丈夫です。」
そして、その日記帳も。
窓から外へと投げ捨てた。
遠くへ、遠くへ。
月の光だけが。
投げ出された日記帳を拾ってくれ______
『次のニュースです______都内在住の 長谷川鴻さんが昨夜、娘に包丁で刺され死亡するという事件が起きました______娘さんは何年にも渡り、鴻さんから性的暴行を受けており______調べに対し、娘さんは「悪夢を忘れたかった」と証言しており______』