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ハーフタイム

ハーフタイム


 

 思い切って水鳥中学の通学路で佐川さんを待ち伏せしたのは、「佐川書店」で三十分待ってもレジ裏に現れる気配がなかったからだった。

 今から行きますと連絡したわけでもないし、佐川さんだっていきなり、あの梨南ちゃんみたいな感じで私が追いかけたら不愉快な思いをするだろう。そのことくらい、自覚はしていた。二月に起きた事件の大きさを考えて、生徒会の人たちが私を見てすぐに何か勘付く可能性だってもちろん考えていた。

 ──健吾にばれたら。

 そう、健吾に噂が流れてしまう可能性だって、考えなかったわけじゃなかった。

 でも、今は佐川さんに会わないと、私がこなごなに壊れてしまう。

 佐川さんしか、私を救ってくれる人はいないんだもの。

 健吾じゃ、だめなのだから。


 佐川さんは私に気がつくと、すばやく目で合図を送ってくれた。

 隣の、お下げ編みの女子に二言三言何かをつぶやき、手も振らずに私の方へ走ってきてくれた。

「佐賀さん、どうして」

「ごめんなさい」

 そっと後ろの彼女を窺うけれど、もうすでにいなくなっていた。どこに行っちゃったんだろう? そんなことを考える余裕もなくて、私は息を切らして呟いた。

「私、今、佐川さんにどうしても、教えてほしいことがあるんです」

「けどここにいたらまずいよ。生徒会連中に見られたりしたら、ほら、おとひっちゃんに」

 さっきの彼女を気にしているわけでないのが、少し嬉しかった。

「私、もし健吾にばれてもいいって思ってるんです。佐川さん、だから」

 佐川さんは私の顔を一瞬、大きな瞳でぎゅっと見つめてきた。今まで見たことのない、びっくりぎょうてんって感じの顔だった。私、何か驚かせることをしたのだろうか。

「いつものとこに行こう。ばれたらまずい」

 だんだんブレザーだけだと身体が冷たくなってくる。手がほんの少し、ささくれていた。佐川さんを私は、ほんの少し追う格好で影を踏み、歩いていた。

 大人ばかりが通る街並まで出て、佐川さんが足早になる。私も合わせてついていった。追うのは辛くなかった。学生服が少したぼっとした感じの、健吾よりもずっと背の低い人なのに、どうして私はこの人でないと、本当のことを話せないのだろう。今はただ、胸一杯に詰め込んだ驚きの言葉を、すべて佐川さんに受け止めてもらうしか、どうしようもなかった。

 たどり着いた先は、いつものところ、「青潟市郷土資料館」だった。


「そうなんだ、そういう話になったんだね、佐賀さん、だからなんだ」

 私が勢いづいて話しつづけた支離滅裂な言葉を、やはり佐川さんは黙って受け止めてくれた。外にいる時は健吾と思わず比較してしまうこともあるのに、こうやってふたり隣り合っていると呼吸がだんだん楽になっていくのがわかる。

「さっき、びっくりしたもん。俺だってまさか、佐賀さんが校門まで来てくれたなんて思わなかったしさあ」

「ご迷惑なのはわかってました。でもそうしないと、私、どうしていいかわからなくて」

「いいよ、そんなの」

 佐川さんはいつも通りあっけらかんと言い放った。

「ばれたらばれたで、いくらでも言い訳考えつくから大丈夫だよ」

 決して、「俺が責任取るからさ」と健吾のような男気たっぷりの言葉を口にする人ではない。淋しいようで、ほっとする部分だった。私のこと、どう思っているんだろう。私のことを褒め称えてくれるのに、突然ぱっと手を離されるような時があって、ふと泣きたくなる。目が潤んでしまいこすっていると、

「もっと詳しい話聞きたいんだけど、いい?」

 佐川さんって、やはりどこか、幼い。

 健吾みたいにもっと、べたっとしてくれたっていいのに。

 誰も、見てないんだから。

 私はさらに、風見さんと渋谷さんとの関係と、霧島くんの存在について簡単に説明した。どこまで推測を混ぜていいのかわからなかったけれども、たぶん佐川さんなら見抜いてくれるに決まっている。ところどころ佐川さんが質問を投げかけてくれた。

 結局、すべて私の考えも話す形になった。


「つまり、渋谷さんという人、佐賀さんを生徒会に引き入れるために近づいたってことなのかなあ」

 のんびりした口調で、でも目はくるくるっと動いている。佐川さんが本気になったしるしだ。私は息を詰めて次の言葉を待っていた。

「だってさ、すごい偶然が重なりすぎるよね。佐賀さん、俺思うんだけど、最初に声をかけた風見さんって人、最初から渋谷さんに頼まれていたってことは考えられないかな。そうでなくちゃ、今の佐賀さんにいきなり近づくなんて勇気が必要なことできないよ」

「私に近づくのに、勇気が、いるんですか?」

「そうだよ、佐賀さんは今、結果をばりばり出した評議委員なんだし、しかも次期評議委員長とその、健吾くんと、だろ? 他の女子たちは佐賀さんのことあこがれてるくせに、怖いから近寄れないでいる。そういう人に近づく勇気があるとしたら、相当腹が据わってると思うんだ。けど、風見さんはそういうタイプの女子じゃないなあって気、俺はするんだ」

 怖い、やっぱり佐川さん、風見さんのこと、見抜いている。

「風見さんはこういったらなんだけど、杉本さんにそっくりなタイプだと思うんだ」

 やはり。

 私は頷いた。佐川さんも首をちらっと私に動かして、続けた。

「下手したら大迷惑をかけるタイプだけど、杉本さんよりも常識持っているから、なんとかうまく泳いでいるのかなあ。それともその渋谷さんって人と契約を結んでるってことだから、うまくやりくりしていけるように渋谷さんに守ってもらっているのかなあ」

「それはあると思います」

 だんだん頭と心が整理されていく。佐川さんと私とがだんだん、言葉同じくなっていく。

「だから、孤立しないですんでいる。これって俺からしたら、すっごい楽なことだと思うんだ。そんな楽な立場を守るために、今回風見さんは、渋谷さんの命令で佐賀さんに近づいたってことだと俺は思う。もっとも、だんだん風見さんは佐賀さんが大好きになっちゃってるよ。そりゃあそうだよ。近づいたら絶対、そうなるよ」

「わかりません、でも」

 私が言葉をはさもうとすると、さえぎられた。まだ頭の中で回転している言葉がまぎれているらしかった。両手を絡み合わせながら、親指同士を叩いて、

「で、次に気になるのが渋谷さんの行動なんだけど、これもすっごく計算されてるよなあ。ここまできっちり計算されてると、かえって怪しまれるはずなのに、誰も何にも言わないのかなあ。俺、そっちの方がすごく不思議なんだけど、どうなんだろう?」

 どうなんだろうと言われても、私だって困る。

 生徒会室での様子を思い出して見ると、佐川さんの言う通り、渋谷さんの行動はいかにも私に見て見てってアピールが強かった。私なんて部外者なのに、霧島くんに言いたい放題言わせた後、生徒会長たちにもいかにもってくらい私を見せつけようとしていた。

「私もわからないのですけど」

「わからないわけないよ。佐賀さんはちゃんと知ってる」

 決め付けた風な言い方で叱られた。

「だから、変だなって思ったんだよ、俺だってそう思うよ。俺も、なんか変だなって思ったらまず、何が起こったかをゆっくり思い出して、変なところを見つけ出すんだ。きっと佐賀さんはわかってるんだけど、知らない振りしてるんだよ」

「私のこと、買いかぶらないでください」

 泣きそうになるけど我慢して、それだけ伝えるのがやっとだった。佐川さんなんで私をそんなに責めたいんだろう。ほんとは、佐川さんにみんな答えを出してほしかったのに。私がわからないから、ここに来たのだって、どうしてわかってくれないんだろう。

「たぶん、私を、最初から生徒会に入れたいからってことでしょうか」

「そうだよ。それは絶対合ってる。けどそうなるともう一つ疑問があるんだよなあ」

 いつもだったらほとんど人が出入りしない資料館なのに、今日は私たちの前をうろうろと、館員さんらしきおじさんが歩き回っている。まだ、閉館まで間があるはずなのに。時計の針がどのくらい動いているかを見た。まだ大丈夫。五時まであと三十分もある。

「渋谷さんは佐賀さんの前で、杉本さんが先生たちの手で立候補させられようとしているんだってことを話したんだよね」

「はい」

 佐川さんは大きく息を吸い込むと、唇を尖らせて細い糸のように吐いた。

「と、すると、当然佐賀さんと杉本さんとの間に何が起こっていたかも知ってるわけだ」

「たぶん、そう思います。風見さんも話しただろうし」

「その、風見さんなんだけど」

 いきなり佐川さんは話の矛先を風見さんに向けた。

 どうして私が一度しか出さなかった登場人物たちの名前を、佐川さんはすらすらっと言えるのだろうか。こんなに頭の回転が早く記憶力もいい人が、あの関崎さんよりも成績悪いなんて私は信じたくない。

「確か水鳥中学の学区内に住んでるって話してたっけ」

「そうです。結構海の近くです」

「品山小学校から転校してきたんだよね」

「五年の時って言ってました」

「ということは、立村のことも知っている可能性があるのかなあ」

 私はしばし考えた。思い当たる節がある。

「そういえば、風見さんは立村先輩のことをものすごく嫌っていました。先輩扱いしたくないって話してました」

「そうか、じゃあかなり、知ってる可能性もあるわけなんだよね。となると」

 佐川さんは膝を打った。

「今から俺が話すこと、全部想像だから佐賀さんが必要だなって思ったとこだけ利用すればいいよ。俺、やっぱり同じ学校でないから勘違いしたこと言うかもしれないけどさ」

「かまいません。教えてください」

「うん、じゃあ、言うよ」

 待っていた言葉を、私は全身で受け止める準備をした。といっても身体をはすに向けて佐川さんに向かいあっただけだけど。膝と膝が触れて、佐川さんがいきなりきゅっと身を逸らしたのにほんの少し傷ついた。


「俺、佐賀さんが生徒会に入ることはいいことだと思うんだ」

 いきなり切り出した言葉。少し膝を開く格好で、両手を組んだまま。

「ただそれは、杉本さんが入ってこないという前提だけどね。でもそのところは俺、全然心配してないよ。だって、先生たちが杉本さんを立候補させるのは、落とすためなんだからさ。立候補した段階でどうにでもなると思うんだ。けど、問題は渋谷さんなんだ。その人、どんな人かわからないから悪口言えないけど、風見さんを使って佐賀さんを引き入れようとしていることは誰でもわかっちゃうと思うんだ。佐賀さんだってそれ、勘付いただろ?」

 頷くだけだった。佐川さんの言うなりだった。

「一年生を生徒会長に立候補させるという方法はうちの学校でもやっているけど、それはちっとも悪いことじゃないよ。水鳥でもしおとひっちゃんが生徒会長やってたらどんなことになってたか想像つかないもん。けどさ、今の話聞いた感じだとそいつかなりプライド高そうだし、女子に冷たそうだよね。渋谷さんって人、やたらとおべっか使ってたんだよね」

 きつい言い方だけど、私の言葉そのものと重なるから頷いて答えた。

「渋谷さんの立場からすると、杉本さんを立候補させたくないよね。それ、青大附中の生徒会メンバーみんなが願っていることだよね。だけど、うっかり信任投票になっちゃったら大変なことになっちゃうし、それならば、対抗馬を立てて無理やりにでも競わせる方法を取ったってわけだよね」

 私が渋谷さんの立場でもきっとそうするような気がする。梨南ちゃんに負ける人を探す方が本当は大変かもしれないのだと、知っている。

「でも、それならどうして渋谷さんや他の生徒会メンバーが立候補しなかったのでしょうか」

「わかんないなあ。あえて可能性があるとすれば、その一年生男子、ものすごくプライドが高いって言ってたよね。女子にも頭を下げない性格だって聞いてたよね。そういう奴だから、たとえ上級生であっても、生徒会内で頭を下げない地位でない限り立候補したくないってごねちゃったかってことかな」

 ぴしっと、目の前をまた、館員さんがスリッパで歩く。

「佐川さん、それ、正しいと思います」

「あてずっぽだけどね」

 佐川さんってば、いきなり自分のほっぺたをつねるようなしぐさをした。かわいらしいなんて言ったらまたびしっと叱られそうだし、今は言わないでおく。

「とにかく、そういうご機嫌を取るのが難しそうな一年男子の場合、どういうメンバーが補佐すればいいかなってことになるけど、そうなると白羽の矢が立ったのが佐賀さんってこと。霧島くんは佐賀さんに対しては、そんなに高飛車なことわめかなかったんだよね」

「はい、たぶん」

 少なくとも渋谷さんに対するよりも、私には「先輩」らしい扱いをしてくれた。別れ際に、きちんと挨拶もしてくれた。健吾の地位に気兼ねしたのかなとか思っていた。

「佐賀さんならば、わがまま生徒会長のご機嫌を取ることができるメンバーだと見込まれたってことになる。渋谷さんが下手に出ていたのは、そうしないと霧島くんが席を蹴って出て行く可能性大だからさ。けど俺からすると、そんな面倒な奴を入れていったい渋谷さんにどんなメリットがあるのかなあ。そこのところがどうも俺、ひっかかるんだ」

「梨南ちゃんを追い出す以外にですか」

「あ、それ全然心配してない。さっきも言ったよ。俺、最初から杉本さんは落とされるために立候補させられるんだってね」

 そうだった。ごめんなさい。ちゃんと聞いていない生徒で。

「青大附中の生徒会がどういう雰囲気なのかわからないけどね、今の会長は男子生徒会長にこだわっている。でも本来だったら二年の生徒会メンバーが誰か持ち上がればいいわけだよ。渋谷さん以外に男子の生徒会メンバーがいるならそれで一件落着だよ。でも、それをさせないであえて渋谷さんが仕切るということは、つまり」

 ここで私から視線を逸らすようにして、真正面の青潟古地図を眺めた。半ば口がひらきかけて、言葉が続いた。

「本当は、渋谷さんが生徒会一番の実力者なのに、現会長がどうしても男子以外生徒会長を認めようとしない。だからしかたなく一年の霧島くんを持ってきた」

「でも本当は?」

「渋谷さんは、生徒会長をやりたかったのにやれなくて、悔しがってる人なんじゃないかな」

 佐川さんはそれを言い切ると、私の顔をもう一度見つめ直して頷いた。

 ──本当は生徒会長をやりたいのにやれない渋谷さん。

 言葉がずしんと響いた。

 渋谷さんの、前髪を軽く上げたひたいには、頭のよさげな光りがやどっていたことを思い出した。あの人ならきっと、生徒会長、勤め上げることができるだろう。女子だとしても。ううん、どうして女子だと、トップに立てないなんてみんな、思いたがるんだろう?。


 別にそんな決まりがあるわけではない。

 ただ青大附中ではいろいろな場面において「男尊女卑」の匂いが漂っていた。

 口には出さないし、表向きは男女平等を謳っているけれども、評議委員会内部もそうだった。立村先輩を委員長として認めたくない女子たちの声はほとんど無視され、三年男子たちと二年男子の一部だけで勧められていく行事の数々を、私は健吾の隣で見てきた。

 立村先輩が失敗したあとを、天羽先輩たちが大急ぎで手直ししていく様もそうだ。

 本来だったら轟先輩という女子で頭の一番切れる先輩がいるのに、ずっと影に回されているのも。他の女子先輩たちはみな、男子先輩たちに言い含められて下っ端扱いされている。

 「レディファースト」と言う人もいるけれども、私の目から見たら

 ──女子には男子の砦に手を出すな。

 そんなこわもてのメッセージにしか見えなかった。

 それでもよい。私は立村先輩たちと張り合う気はない。健吾にすべて任せておけばいい。

 他の女子先輩たちのように、自分の立場を認めてほしいとばかりに問題を起こして騒ぎ続けるなんて見苦しい。私なら決してあんなこと、しないだろう。梨南ちゃんとは違う。


 評議委員会の女子先輩たちはどうして、生徒会に立候補しようと思わないのだろう?

 あれだけ「平等に扱ってもらえない」と文句をたらたら言っているのだったら、「信任投票」で当選確実な生徒会役員で活躍すればいい。それとも、落とされるのが怖いのだろうか。

三年間きっちりとお役目を果たせる場所ではなく、必ず入れ替わりが必要となる場所は恐ろしいのだろうか あれだけ可愛い霧島先輩も自分の能力のなさをばれないように振舞えばいいのに、あれだけ目だとうとするから一気に、みんなから見下されていること気付かないのだろうか。

 清坂先輩もしっかりした人だとは認めるけれども、立村先輩が迷惑がっているのにどうして張り付いて手伝おうとするのだろう。お手伝いは轟先輩に任せて、ご自分は「立村先輩の彼女」の看板でもって楽すればいいのに。

 唯一、三年の中で共感できるのは近江先輩だった。近江先輩はもともと評議委員会に関心が薄いようで、興味のあるところだけしか手を出さない。ただやる時はきっちりと事務処理とかいろいろ片付けてくれる。天羽先輩がにこにこしてくっついてこようとすると、きっぱり追っ払うので女子たちからのジェラシーも感じない。

 

 どうして私はそこに気付かなかったのだろう。

 みな、評議委員会の人たちは、置き去りにされていることに。

 あの人たち……たぶん健吾も……気づかないうちに、少しずつ生徒会は立ち上がり、委員会を一気飲みしようとしていることに、どうしてみな目を向けないのだろう。

 渋谷さんはそれを見抜いている。だから、三年男子同士でゆっくり進めている「生徒会第一優先化」を、今年中にやってしまいたいときっと思っている。私ならきっとそうするだろうから。今の三年評議委員がいかにぐらぐらしていて、ちょんとつつけばすぐに崩壊することを私は知っているから。

 佐川さんに向かい、私ははっきりとそのことを伝えた。


「私がもし、渋谷さんと同じ立場だったらどうしていたんだろうって思います」

「渋谷さんって人は、どうなんだろう? それだけの能力がある人なんだよね」

「はい。生徒会長になってもおかしくない人だとは思います」

「うん、俺もそう思うよ。それだけ頭がよくてしたたかな人がさ。もちろんその人なりに考えていることもあるんだと思うけどね。きっと渋谷さんは、周りの考えをひっくり返すよりも、実質的な生徒会ナンバーワンでいるために、霧島くんをひっぱり出したんじゃないかな。で、自分の周りには完璧なレベルの高い人たちを置いておきたいから、佐賀さんをスカウトした」

 私は首をかしげた。

「じゃあ、私も立候補した方がいいですか」

「うん、だけどちょっと待って」

 少しだけ迷った風に見えた。ほっとした自分もいる。なんだろう、私もぐらぐらしてる。

「最終的には立候補してもいいけどさ、このままだと渋谷さんの言うままだろ? そうしたらこれから先、何かあるとその人の下に佐賀さんが立つことになるよ。それはあまりよくないよ」

「下?」。

「だってさ、もう佐賀さんは、格下扱いされたくないよね? 俺もいやだよ。佐賀さんは、できるだけ高いところに立ったほうがいい。そうだよ、今までずっと押さえつけられてたんだからさ」

 びくんと言葉が響いた。

「だから佐賀さん、ぎりぎりまで立候補は待つことにしよう。公示日から締め切りまでぎりぎりまで迷っていることにすればいいよ。渋谷さんが頼みに頼んで、やっと出てきてもらった、そう思われるようにするんだ。そうすれば生徒会にも一般生徒にも、アピール度が高まるよ。いいかい、佐賀さん、これから何か変わったことがあったら、すぐ連絡するんだよ」

 ──格下扱いされたくない。

 胸苦しさに押され、私はもう一度頷いた。


 ──佐川さんに電話する口実ができたかも。

 気がついたのは、帰り間際だった。

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