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ZOO!  作者: 山口翔矢
園内
2/7

カバの櫻子

「あら、もうそんな時間ですか。いやあ、毎度毎度人間達は騒がしいわねえ」

大勢の人間達を見ながらカバの櫻子はそんなことを考えているようだ。この動物園によく通う私は、櫻子とは顔見知り(と言う事に自分でしている)関係だ。今でこそ落ち着いているものの、2・3年くらい前だったか、まだこの動物園に来たての頃は「私を捕まえた人間達が大勢で私を見ている、今度は一体何をされるの!!」と不安で仕方ない様子を見せていた。

元々カバは縄張り意識が非常に強く気性も荒い。テリトリーに入った者に対しては同族だろうが容赦なく攻撃する恐ろしい動物だ。野生のカバが生息するアフリカでは、カバによる死亡事故もよく起こっているらしい。櫻子も勿論、例外ではない。


「それにしても毎回毎回私に眩しい光を当てているあの人間は何なの?カバの気も知らないで、もう少し近づいていたら噛み砕いているところよ」

櫻子は気の短いおばさんのような事を思いながらプカプカと水の中を泳いでいる。私も櫻子の言っていたことが少し気になり、その光が焚かれている方向に顔を向けて見た。


「櫻子ちゃん、口開けて!!」

そう叫びながら爺さんがカメラのフラッシュを櫻子に向けて焚いていた。彼はさっき動物園の入り口にいたやけにテンションの高い爺さんだ。その光景は心底呆れてしまうものだった。

カバに限らず、どんな動物だってそんなに強い光当てられたら嫌になるに決まっている。ペットショップでも「ケージを叩いたり、カメラのフラッシュを焚かないで下さい。動物にストレスが溜まってしまいます」て書かれているだろう。ちゃんとこの動物園の注意書きにも光を当てないでと書いてある。周りのお客さんも随分引いた目で彼を見ている。

そんな事はお構いなしに爺さんはカメラのフラッシュを焚き続ける。そしてそのフラッシュを浴び続ける度に櫻子の怒りはドンドン溢れてくる。


「・・・・」

無言の圧を櫻子は爺さんに掛け始める。だが、爺さんはそれにも気が付かない。

これは少しヤバい、一触即発の予感だ。私は乗り気にはなれなかったが注意をする為に爺さんのもとに向かう。

「あの~、すみません」

「はい、何でしょう?」

「そのカメラのフラッシュ、どうにかなりませんかね?」

「ああ、これはこういうカメラ何でね。どうにもならないよ」

「そのフラッシュ、動物には些かキツイものなんですよ。櫻子も嫌がってると思うので止めていただけませんかね」

「そんな事言ってもね、仕方ないでしょそう言うカメラ何だから」

「でもこの動物園の注意書きにも書いてあったはずですよ、動物が嫌がるから光当てないでくれって」

「うん、だからさっきも言ったでしょう、どうにもならないって。あんたもしつこい人だねぇ。このカメラは愛着あるからね、手放したくないんだよ」

「ルールは守りましょうよ、ね?動物と私達お互いにとって大事ですから。フラッシュ焚かなければそれでいいんですから」

「さっきから君何様かな?分かったから向こうに行ってくれないかな?僕はね、今櫻子ちゃんの写真撮影で忙しいの!!いい加減にしないとこっちも黙ってないよ?」

はあ、そういうパターンか。私の一番嫌いなパターンのじじいだ。もう爺さん何て言うのは止めだ。じじいでいい。怒り心頭堪忍袋の緒が切れた。

普段はあまり喋るタイプでは決してないし怒ったり説教するのも好きではないが今回は別だ。流石にこれは許せない。

じじいはそれでいいのかもしれない。でもね、櫻子はどうなる?只でさえ気が短い彼女に余計なストレスを溜めることにならないか?そんなのも分からないのか?私よりも長い年月生きている人間がこれか、心底呆れる。

「おい、いい加減にしろうじじい・・・」、そう言いかけたとき・・・


「いい加減にしろや馬鹿共!!うるさいんだよさっきから!!」

櫻子が吼えた。私にははっきりとした言葉として、じじい含めた周りの人達には唸り声としてそれを認識した。じじい何て、驚いてカメラを落としてしまっていた。

「ああもう、今日は何て日かしら。光は当てられるわ人間共の下らない口喧嘩を聞かなきゃならないわ。だから嫌いなのよ人間は」

今も愚痴を言い続ける櫻子。勿論、その事が分かるのは私だけなのだが。一方のじじいはと言うと、

「・・・・」。言葉を失っていた。愛着あるカメラを落として本体に傷が付いてしまった為だ。

「ああ、何て日なんだ全く。俺が何したって言うんだよ・・・」そう言いながらじじいはその場を後にした。「ざまあ見やがれ馬鹿野郎、天罰だよ天罰」そんな事を心に思っていた。


すると、「ちょっと、喧嘩してたそこのあなた」と櫻子にいきなり話しかけられた。本当に喋っているわけではないので周りの人達からは私の方を只見つめているように見えている。

「はい、何でしょうか」と私は櫻子に話しかける。普通に、私達が会話をするように。

「あなたも馬鹿ね。何であそこで冷静になれないの?ああいう言い訳ばかりの人間にはあなたみたいなのは逆効果なのよ。あの逃げて行った奴は最近よく見かけるけれど、鼻息吹きかけて毎度追っ払ってるわよ。あんなの相手にしてたって何も良いこと何て無いんだから」

「まぁ、それはそうなんですけどね。結構不満気だったじゃないですかだから流石にちょっと見ていられなくてですね。」

「あんたも余計な事を口にするのね。こういう時は黙って『はい、分かりました!!』でいいのよ」

あれだけ愚痴ばかり言ってたカバが今は一丁前に説教ですか・・・心の中ではそう思いながら櫻子の話を聞く。


説明し忘れていたが、私は動物の心を読み取る事が出来るだけでなく一応会話も出来る。櫻子がこの動物園にやってきた頃はまだそんな能力は持っていなかったのだが、ここ最近いきなり出来るようになった。


話を戻そう。確かに、さっきは自分でも珍しく熱くなってしまった。それは反省すべき点だ。でも、あなたに説教される筋合いはないと思うんだがなあ・・・。

人生、そう上手くいくものではないとしみじみ感じる。


一頻り櫻子の説教が続いた後、「もういいわ面倒くさくなった。もう行って頂戴、目障り」といきなり会話を一方的に切ってしまった。

まあ、元々の性格を考えるとこういう事は普通にするようなカバなので、私は別に腹を立たなかった。

最後に「有難う御座いました、助けて頂いて」と言って私はその場を去ろうとした。周りの視線もかなり痛くなってきたしここが潮時だと思ったのだ。

「・・・。まあまたいつでも私の所来なさいな。あなたよく来てくれてるでしょ?こっちも顔見知りは居た方が気が楽なのよね」

櫻子は最後にそう呟いた。驚きだ、櫻子もたまにはそういう事言えるんだなと感心したと言うのもあるが、何よりも私の顔を認識していた事が意外だった。しかし、今はそんな事考えている場合ではない。急いでこの場から離れないと私のガラスの心が割れてしまう。

私は何も言わずにその場から逃げるように櫻子がいた所から離れる。今度はもうちょっと人がいない時に来るとしよう。


さて、今度はあそこに行こうかな。






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