来園
開園30分前、ちょくちょくと駐車場に人が集まり始める時間。大勢の人間達が日本では見られない動物達を見たり書いたり写真を撮ったりその他諸々をする為だけにここへやってくる。
ある者は車で1時間かけて、またある者は東京から態々飛行機を使ってまでやって来る。動物園なら東京にもあるだろうに、何故この北の大地まで来る必要があるのかと駐車場を見るたびに考えてしまう。
開園15分前、ぞろぞろと人が夢の空間の玄関口に移動し始める。
「お父さん、僕最初にキリンが見たいな」、「パパママ、私鳥さん見たい!!」、「はあ、今日はどれくらい歩き回る事になるんだろうか・・・・」、「今日は櫻子の口を開けてる姿、写真撮れるかね~」。
まあ開園前からよくもまああんなにテンションが挙げられるものだと感心する。
開園5分前、今にも来場者達の興奮がマグマの如く爆発しようとしている。
私はそんな熱を感じながら、今日は誰の言葉を聞きに行こうかと考える。人間達は彼らを好奇の視線で見つめる。だが、見られている側はどうだろうか。人間に対してどのような視線を向けるのか。動物の心の叫びが聞こえる私は、毎回それが知りたくてここに来る。
勿論、動物の心が聞こえたところで私はただ顔をニヤニヤさせるだけだ。ただ、動物が抱いている感情が分かると言うのは少し得した気分になるしそれなりの接し方が出来るようになるから便利なものではある。
そうこう考えているうちに開園の時間がやってきた。「さて、今日はあいつの所から行くか」。そう呟いて私はあいつに会いに動物園の中に足を踏み入れた。