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ドワーフのフィーネ

 神聖都市ルヴェールでシンデレラ姫に仕えていた時から、ことあるごとに騎士リュウマを守ってくれた鎧は、ラプンツェル姫による度重なるハンマーの直撃で、実戦に耐え得るものではなくなっていた。ラプンツェル姫の計らいもあり、リュウマは魔物退治に鉱山都市ピラカミオンの鎧を仕立てることになった。標準の体形に筋肉を乗せたリュウマの体は、鍛冶屋の品ぞろえを仕立て直せば十分に使用できることがわかった。鎧の仕立てに三日かかり、ちょうど騎士カイエンが到着するタイミングと一致していた。

 騎士リュウマはピラカミオンの宿屋に泊まり、ラプンツェル姫の塔に宿泊するように勧める街の人々を苛立たせた。よほどリュウマのことを評価しているのだろう。ラプンツェル姫が一人で塔にいるより、リュウマが一緒に寝泊まりしているほうが安心だといわんばかりだった。宿屋に予約を入れる時でさえ、主人に毎日ラプンツェルの塔に行くことが条件だと言われたほどである。

 確かに、ラプンツェル姫は誰かが常にそばに居る必要があった。長すぎる髪を抱える役がいないと、外出できないのだ。それでいて外出を好み、住むのは塔を好む。実に厄介な姫であり、お付きのローラントがカイエンの迎えに出ている以上、リュウマはほぼラプンツェル姫の塔に常駐せざるを得なかった。ローラントをカイエンの迎えに行かせたのは、ほかならぬリュウマであり、姫の不便を知れば、断れるはずもなかった。

 一日、二日とほぼラプンツェル姫とともに過ごし、そろそろカイエンが到着するだろうという頃を見込み、リュウマはラプンツェル姫に申し出た。さすがにリュウマも下着姿のままでは過ごせないため、鉱夫たちからもらった古着を身に着けている。

「魔物退治の前に、鉱山の様子を見てきたいのですが。実際に現場を見て、戦い方を練りたいのです」

「油断しないのは結構だ。私も、少し一人で鍛錬をしたいと思っていたところだ。夕飯までには戻れよ。今日は街に出て、英気を養いたい気分なのだ」

「承知しました」

「鉱山に行けば、見張りがいる。案内を頼め。もっとも、リュウマのことを知らない奴は、ピラカミオンにはほとんどいないが」

 ほんの数日で、リュウマはピラカミオンで有名人になっていた。塔の一階から外に出ようとした時、二階へ上がる階段にいたラプンツェル姫が声を上げた。

「ああ……魔物の見張りをしている責任者はドワーフの娘フィーネだ。ずっと鉱山にいるから、リュウマのことも知らないだろう。これを持って行け」

 ラプンツェル姫が投げ渡したのは、エンブレムだった。ラプンツェル姫の騎士が、鎧につけるべきものだ。リュウマは受け取った。エンブレムそのものは、手の中に納まる小さなものだ。それなのに、きわめて重いものを受け取ったように感じた。

「今日中にお返しします」

「いや、構わない。持っておけ」

 ラプンツェル姫は薄く笑い、階段の上に消えた。リュウマは、しばらく花と髪とハンマーをモチーフにした美しいエンブレムを見つめていた。


 ピラカミオンの街を抜け、鉱山に向かう。道はすぐに解った。鉱山から産出された鉱石を運びだすためのレールが敷かれており、レールに沿って徒歩の者が移動するための歩道も整備されていた。ラプンツェル姫が、丁寧に街づくりを行ってきたことがうかがえる。レールに沿って道を歩くと、途中でやや乱雑に作られた見張り台があった。上に二人、見たことがある鉱夫が手を振ってきた。

『騎士の旦那、いよいよ転職かい?』

 リュウマが鉱夫の服を着ているのをやゆして、声をかけてきた。リュウマは笑って手を振り返す。

「魔物は大人しくしているかい?」

『ああ。ここから鉱山の入口が見える。異常があれば、すぐに狼煙のろしをあげるさ』

 魔物を見張るためのものだったのだ。だから、急ごしらえで乱雑な造りだったのだろう。それでも、さすがに鉱山の街だけあって、とてもしっかりとした作りに見える。むしろ、壊すのに苦労するだろう。

 見張り台はそれほど高くない。鉱山の入口は近いはずだった。

 歩いていくとすぐに、人気のない黒い口が見えてきた。入口にも、数人の鉱夫が所在なさげにしている。

 リュウマが近づくと、格式ばった礼はしないものの、親しげに声をかけてきた。

「ドワーフのフィーネという娘がいると聞いていたが」

「ああ。ドワーフは地下での生活になれているから、ずっと深いところを任されているんだ。たぶん、魔物を塞いだのと、一番近い場所で見張っているはずだよ」

「一人で?」

「毎日様子を見に、俺たちも降りるよ。今朝も見てきたばかりだ」

「……そうか。明日か明後日には始めることになるだろう。現場を見に来たんだ」

「いよいよかい?」

「ああ」

 鉱夫は片腕の筋肉を見せ、リュウマも応えた。鉱山の入口に、中に入る人間用の松明があり、火種もあった。ラプンツェル姫には見張りに案内を頼めと言われたが、鉱山の入口でさえ緊張して青い顔をしている男達に、中に入ってくれとは言えなかった。リュウマは松明を借り、一人で鉱山の奥に進んだ。


 ピラカミオンの鉱山は、坑道から街までトロッコ用のレールが続いており、迷うこともないように感じられる。しかし、鉱山自体はアリの巣のように入り組み、レールもそれだけ敷設されているため、慣れない人間はすぐに迷うだろう。観光客などを想定していないため、鉱山内の地図もない。リュウマは複雑に入り組んだ坑道に、ピラカミオンの埋蔵量の豊富さを想像した。

 鉄鉱石で有名だが、地層によって様々な鉱物を産出するのがピラカミオンの特徴で、金や宝石も含まれるという。世界でもっとも豊かな都市となっていても不思議ではないが、それだけに鉱山に頼ることになる。魔物の出現は、まさに死活問題なのだ。

 鉱夫たちから事前に教えられた配置図を脳内で広げながら、リュウマは奥に進んだ。配置図は、ラプンツェル姫に随行して酒場で見聞きした情報だ。おおむねの場所は解るが、魔物が出てから時間が経過しており、途中の明かりも燃料が切れて長い時間が経過している。リュウマの掲げる松明の明かりだけが頼りでは、初めて来た場所の地形の確認は難しい。

 それだけに、下見に来て良かったとも言える。リュウマはさらに奥に進んだ。だんだん下っている。マグマ溜まりに行き当たったというぐらいだから、相当深くまで掘ったはずだ。魔物に対するバリケードをどの位置に築いたのかは、行ってみなればわからない。

 下るにつれ、汗がにじみだしてきた。空気も重く、息苦しい。

 ――暑い……。

 いやな感じがした。明らかに、空気が熱くなっている。

「フィーネ!」

 リュウマは叫んだ。坑道の限られた空間に、リュウマの声が木霊した。

『誰?』

 答えた。少なくとも、ドワーフの娘は元気だ。リュウマは走った。汗が噴き出たが、いやな予感に突き動かされた。

 狭い坑道から、拓けた空間に出た。行き止まりだ。積み上げられた岩石の山があり、その前に、小さな背中があった。ドワーフの一族は体が小さく、小さい体からは想像もできないほど力が強く、器用である。まるで鉱山で働くために生まれたような種族でありながら、種としての絶対数が少ないため坑道で働いているのはフィーネ一人だという。

リュウマの足音に気づいたのか、ドワーフの娘が振り返った。リュウマの松明で照らしただけでも、健康的な褐色の肌がわかる。ずっと地下にいるはずなので、褐色の肌は産れつきなのに違いない。

「フィーネか?」

「うん。あんたは誰?」

 フィーネ自身は明かりを持っていない。リュウマの松明を受け、フィーネの瞳が輝いて見えた。夜行性の目を持っているらしい。地下世界を好む鉱山の住人とは、ドワーフについて語られる時に使われる肩書である。

「私はリュウマ」

 ラプンツェル姫から渡されたエンブレムを見せると、フィーネは破顔した。

「やった……ようやく騎士見習いが見つかったんだね。魔物退治はいつ始めるの?」

「明後日か、早ければ明日だな」

「……そう」

 嬉しそうにしながら、フィーネは不安げに背後に視線を向けた。リュウマは不安になる理由を察していた。

「それまで、もつかな?」

「……だと思うけど、わからない。坑道の中は音がよく響くから、壁に耳を当てると、魔物が近くにいるかどうかは解るんだ。最近までは、近づいたり遠くにいったりしていたんだよ。でも、ここ数日はずっと近くにいる。ここが出口だって気づいたのかもしれない。それに……」

「だんだん暑くなってきた……か?」

「うん。よくわかるね」

「魔物退治は初めてじゃない。フィーネは、魔物を見たのか?」

 リュウマは近づき、積み上げられた岩石に手を当てた。触れられないほどではないが、確かに岩の熱さではない。この向こうにいる魔物に、バリケードを破ることができるかどうかはわからないが、岩石を高温にするだけの力を持って居るのは間違いない。バリケードを破る力があると考えるべきだろう。岩をどかすのではなく、溶かすことによって出ることができると考えるべきだった。

「うん。私はこの鉱山の責任者だから、あいつが出てきた時も近くにいたんだ。真っ赤な体をした、馬よりも大きな奴だよ。触るものをすべて熱で溶かすから、近寄ることもできないよ。どうやって倒すの?」

「それは、マグマ溜まりから出た直後の時だろう。今でも真っ赤なのか?」

「解らない。すぐに撤退して、この場所に岩を積み上げたんだ。あいつは自分の熱で坑道を壊して、勝手に埋まって動けなくなっていたから、その間に逃げてきたんだ。この先も坑道は複雑に入り組んでいるから、一人で迷っていたはずだよ。だから、出てきて直後以外は誰も見ていないんだ」

「被害者は?」

「ううん、いない。みんな逃げたよ」

「偉い。よくやった」

 リュウマは感心して、フィーネの頭を撫でた。だが、それは無作法だったようだ。

「わ、私は小さくても、大人の女性だぞ。頭を撫でるな」

 唇を尖らせ、フィーネは横を向いた。『大人の女性』の態度には見えなかったが、リュウマがうかつだったのだ。謝罪してから、さらに尋ねた。

「外への連絡手段はあるのか?」

「ううん。一日に二回、この場所に誰かくるんだ。あたしがいるのを見て、安心して帰っていく」

「じゃあ、魔物が出てきたらどうやって知らせるんだ?」

「魔物は、坑道の中をまともに移動できないから、ここから出てくるはずがない。中は迷路になっているからね。だから、騎士の見習いを集めて、退治する準備をする時間は十分にある。あたしがラプンツェルの姉さんにそう言ったんだ。姉さんに……心配させたくなかったから。あたしが、この鉱山を任されているんだ。魔物が出てきたのも……あたしの責任だ」

 ドワーフの声が震えたような気がした。リュウマは、怒られるのを承知でフィーネの頭を撫でた。

「君の責任じゃない。マグマ溜まりを引き当てたことに責任を感じる必要もない。何しろ、世界中で強力な魔物が出現しているからね。私は旅をしてきたから、よくわかる。誰かが魔物を放っているんだ。その時、この魔物も放たれたんだろう。たまたまマグマに放たれた。もし、フィーネがマグマ溜まりを引き当てなかったら、魔物は出口を探して苛立って暴れていたかもしれない。マグマの中で魔物があばれれば、山が大規模な噴火を起こしていたかもしれないんだ。噴火の規模によっては、ピラカミオンが一瞬で失われることもあり得た。フィーネ、君はピラカミオンを救ったんだ。その上、鉱夫を一人も死なせずに逃がした。立派だよ。胸を張っていい」

 頭を撫でられたことに、フィーネも今度は怒らなかった。少しうつむいたまま、小さく首を縦に振った。リュウマは続けた。

「だから、逃げてもいいんだ。弱音を吐いてもいい。自分の身が危なければ、まず生き延びることを優先しなさい」

「……本当に、それでいいの?」

「もちろん。主君のために死ぬのは、騎士の役目だ。鉱山の責任者が死んだら、ラプンツェル様はもっと困ることになる」

 鉱夫の服を着ていても、剣だけは佩いていた。フィーネの頭に手を置いたまま、リュウマは自分に言い聞かせた。視線は積み上げられた岩山に向いていた。魔物が出てくる。時間の問題だ。坑道の熱が上がっている。リュウマは、確信していた。

「……まだ、リュウマだって見習いの癖に」

「ああ。フィーネ、得物は?」

 リュウマは松明を岩場に向け、剣を引き抜いた。鋼鉄の技ものだが、マグマと同程度の温度には耐えられない。全身にマグマをまとっているはずがない。リュウマは祈るような気持だった。

「これ」

 巨大なハンマーを、片手で持ち上げてみせた。ラプンツェル姫が使っているものより、はるかに大きく、武骨で、品がない。しかし、強力だ。ただ剣で切り裂いて終わりという相手とは思えなかった。リュウマは心強く思った。

「魔物が出てくるまで、フィーネはどれぐらいだと思う?」

 リュウマは温度を上げ続ける岩山を顎で示した。顎の先端に、汗がたまりだしていた。

「たぶん……もうすぐかな」

「……同意見だ」

 岩の一部が、赤く変色した。リュウマは首の動きだけで指示を出し、赤く変色した岩の前に移動する。

「一部でも体が出たら、躊躇するな」

「わかっている」

 岩が溶けた。赤い岩をかいくぐり、爬虫類の顔が出た。丸く単純な造形は、まさに爬虫類そのものだった。巨大な火トカゲ、という表現に嘘はない。首から先だけが飛び出していた。

 赤くはない。赤く溶けた岩の中から、黒い岩石の塊のような顔が飛び出していた。

「フィーネ!」

「任せて!」

 リュウマ自身では持ち上げられないだろうと思われる巨大なハンマーを振り上げ、フィーネが叩きつけた。正面から頭部を叩かれた魔物の頭が引っ込む。

「やったかな?」

「そう簡単にはいかないだろう」

 魔物の頭部が引っ込んだ穴の正面に回り、リュウマは魔物の一部が赤く変色するのを見た。口が開く。

「リュウマ、どいて」

 追い打ちをかけようというのか、空いた穴に向かってハンマーを振り上げていたフィーネの体を、振り向きざまリュウマは抱いて押し倒した。空いた穴の中から、赤い物体が飛び出た。そのままフィーネがハンマーを振り上げていたら、フィーネを直撃したはずの場所だった。

 床に落ちた赤い物体が、地面に落ちて触れた地面を液状化させながら、冷えて固まる。地中の水分が蒸発して湯気が上がった。

「踏み込むときは気をつけるんだ。魔物を生物の基準で判断するな」

「う、うん。ごめん……どいて」

 リュウマはフィーネを組み敷いたままだった。リュウマは組み敷かれたフィーネがどんな表情をしているのかについて、気にしている余裕はなかった。魔物が放ったのはマグマだ。体内でマグマを生成できる魔物だとすると、鉱山の岩石を溶かして脱出するのは難しくない。リュウマは顔を常に穴に向けながら、フィーネの体を抱き起こした。ほぼ無意識の行動であり、フィーネを気遣ったわけでもない。

「フィーネ、あの穴、塞げるか?」

「うん……もう一度、埋め直すの? あたしたちも埋まる可能性もあるけど、もっと崩すこともできるよ」

 あまり大きく崩すと、坑道そのものが崩れるかもしれない。何より、魔物と決着をつけるのがいつになるのかわからない。一日も早く、鉱山の採掘は再開しなければならない。

「いや。そろそろ魔物との決着をつけよう。鉱山を塞いだままだと、ピラカミオンがもたない。遅くとも明日、決着をつける」

 リュウマの言葉に、フィーネも力強く頷いた。

「あの穴だけを塞ぐのは難しいね。でも……やってみる」

「ああ。頼む」

 魔物の頭部が再び出た。フィーネがハンマーを振り上げる。魔物が口を開けた。フィーネが足を止め、横に移動する。魔物の口から、赤い物体が飛んだ。マグマだ。さらに距離を詰めようとしたフィーネを、リュウマは手で制した。魔物は息を吸い込んだ。実際の目的は解らないが、そのように見えた。口を開け、マグマを飛ばす。フィーネが避ける。リュウマは魔物の後頭部に回り込み、剣を振り下ろした。

 ほぼ、岩石を叩き割ろうとした時の感触と同じ衝撃と、高い音が上がった。傷ついた様子もなく、魔物の頭部がリュウマの姿を求める。魔物の口が開いたままだった。

「リュウマ、危ない」

「大丈夫だ」

 フィーネの声を聴きながら、リュウマは魔物の開いた口に剣を差し込んだ。口の内側も、やはり岩石そのものだ。剣ははじき返される。

「フィーネ、頼む」

「うん」

 返事と同時に、巨大なハンマーが振り下ろされる。魔物の頭部が再び衝撃で叩き返される。フィーネの渾身の一撃の成果か、魔物の力によるものか、穴が開いた岩石の周辺が崩れた。

「よし」

「やったね」

 フィーネが嬉しそうに飛び上がり、片手を上げていた。リュウマはしばらくフィーネを見つめ、何を求められているのか理解した。フィーネとハイタッチしたわけだが、フィーネの手はほぼリュウマの胸の高さでしかない。

「しばらくは時間を稼げるだろう。フィーネ、ラプンツェル様に知らせてきてくれ。すでに魔物が外に出ようとしている。準備を頼むと」

「それだけ?」

「ああ。魔物を倒す算段はついた。そう言ってくれれば通じる。あとは……ピラカミオンに、水分が多めの果物はあるかな?」

「うん。それなら、ゴブリンみかんが有名だよ。見た目は悪いけど、たっぷり水分を含んでいて……味も悪いけど水筒の代わりになるんだ。今の時期、ちょうど収穫しているんじゃないかな」

「なら、そのゴブリンみかんをたくさん持ってきてくれ」

「水でいいじゃない」

「そのほうがいいんだ」

「なんだかわからないけど、わかった。リュウマは?」

「ここで見張っている。フィーネのようには勤まらないが、なんとかしてみる」

「大丈夫?」

「自信はないが、私は今日はじめて鉱山に入ったのでね。まっすぐに出られないかもしれない。余計に時間がかかる。その点、フィーネなら心配ないだろう?」

 リュウマは再びフィールの頭を撫でた。フィーネは嫌がらず、嬉しそうに笑って、ハンマーを担いで走り出したところで、立ち止まった。異変が生じたかと、リュウマは尋ねた。

「どうした?」

「リュウマって本当に、騎士の見習いなの?」

「ラプンツェル様に、騎士のエンブレムを渡されたばかりだ」

「じゃあ、新米ってところだね!」

 納得してすっきりしたのか、フィーネは背中を見せ、再び走りだした。

リュウマが坑道の内部に不案内だというのは確かである。だが、一度通った道だ。出るだけなら迷うとは思わなかった。フィーネを行かし、自らが残ったのは、魔物を前にドワーフの娘を一人残して心配するより、自分で相手をするほうがましだと考えたためである。

 ――特別な魔物ほど、弱点を突けば脆い。良い教訓だな。

 リュウマは、魔物を倒せることに疑いはもたなかった。問題は、どうやってラプンツェル姫が倒したことにするかだった。


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