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騎士リュウマと迷宮の魔物

 二次創作小説を書くのが好きです。この企画を作っていただいたタワーオブプリンセスの運営の皆さま他関係者の皆様に感謝いたします。

 姫様たちの話し方とか性格とか、かなり違うと思いますが、物語構成やむをえずとご理解ください。あらすじ通りに展開できるか、執筆中なのでわかりませんが、楽しく読んでいただけたら幸いです。

 騎士リュウマは、地下の長い迷宮の果てに、巨大な扉にたどり着いていた。

 この先に、目的の魔物がいる。自らが使えるシンデレラ姫から、直接討伐の命を受けた強力な魔物である。

 リュウマは一人ではない。旅の途中で知り合った、頼もしい仲間たちと一緒だった。

 壁に張りつき、中の様子をうかがうリュウマのことを、鋭い眼光で見つめているカイエンは、筋骨隆々たる偉丈夫で同じ騎士の身分とは思えないほど肌を露出している。浅黒い肌は力強さを際立たせ、盛り上がった筋肉は、筋肉が多すぎるために鎧が着られないのではないかと思わせるほどだ。もう一人、セジュールという名の若者は、少し離れた場所で油断なく弓に矢をつがえていた。カイエンとは対照的ではあるが、カイエン、リュウマと同じ騎士であり、カイエンと同じように騎士には見えない。まるで夜会服のような出で立ちで、透明感のある白い肌に整った顔立ち、柔らかく巻いた髪は、性別を詐称すれば本人が姫で通用するのではないかと思うほどだ。二人ともリュウマとは仕える姫が違うものの、強力な魔物を退治するという共通の目的を持っていた。

 カイエンはリュウマより力に秀で、セジュールはリュウマより器用だった。リュウマより優れた能力を持つ二人の協力で、誰もたどり着けなかった迷宮の最奥に達することができたのは間違いない。

「行くぞ」

「早くしろ。お前を待っているんだ」

「同じくね」

 カイエンとセジュールがほぼ同時に発する。リュウマはよく手入れされ、手に張り付くようになじんだ剣の柄を握りしめ、古びた巨大な扉を蹴りつけた。

 蝶番がはじけ飛び、開くというより倒れるように、迷宮に設えられた最奥の部屋がさらされた。

 三人は松明をかかげ、その先を凝視した。

 鈍く光る、緑色の目が、松明の炎を受けて輝いた。

 魔物が雄叫びを上げる。広い室内で、魔物の全身が見えない。リュウマは素早く、手にしていた松明を部屋の奥に投げ入れた。

 巨大な牛の頭部に、無理やりたくましい手足を埋め込んだような形状をした、いかにも魔物であるということを全身で強調している物体がそこにいた。頭部だけが異様に肥大しているように見える。決して狭い部屋ではないが、大きな頭部だけで部屋の空間を満たしてしまっている。餌を捕獲にいけるはずもない。迷宮の封じられた部屋の中で、餓死することなく生き続けられるのは、何より魔物である証拠に他ならない。

「グロテスクだな」

 カイエンが吐き捨てる。カイエンは、肩に巨大な斧を担いでいた。いつもの得物である。

「でも、強そうには見えませんね。リュウマ、戦い方はまかせます。指示をしてください」

 ゆっくりとした歩調で、セジュールが二人の背後まで近づいてきていた。

 魔物は大きな一声を発した後、口から大量のよだれを流し、人間の胴体ほどもある手に、それぞれ棍棒を掴み上げた。

 三人が行動を共にするようになってから、日は浅い。だが、戦い方はすでに一つの形となっていた。

「セジュール、目を潰せ。カイエンは左に。私は右に行く」

「「了解」」

 リュウマの指揮に、二人が従う。戦闘の技量に置いては、カイエンにもセジュールにも勝っているとは思わない。だが、リュウマの指示に従って三人で行った戦闘に、これまでに遭遇した魔物は手も足も出ず殺されていった。

 カイエンが走りだしている。

 セジュールは最適な位置を求めて移動する。

 リュウマも自分で宣言したとおりに飛び出していた。

 不気味な顔が迫る。

 太い腕と棍棒が振り下ろされる。

 体をひねると、リュウマがちょうどいた場所に棍棒が振り下ろされた。

 魔物の右目と、鼻腔に矢が突き刺さり、体液が飛び散る。魔物は倒れず、しかし体を揺らしながら、咆哮をとどろかせた。

 リュウマは剣を抜き放ち、棍棒を振り下ろしてがら空きになった横面に剣を叩きつけた。本来であれば胴体があるはずの場所には、この魔物の場合は横面にあたるのだ。

 硬い手ごたえとともに、魔物の表皮が裂ける。

 魔物がリュウマを振り向いた。

 片目が潰れ、耳の根元に斧が突き刺さっていた。

 魔物がリュウマに向き直ったということは、つまりカイエンよりもリュウマを狙ったということだ。

 魔物が占領している空間の先の闇に、壁に叩きつけられて血を吐くカイエンの姿が見えた。

 魔物が横を向いたため、目があったはずの場所が腕で覆われた。セジュールが放った矢が、腕の上から突き刺さる。セジュールは器用であり、何より弓の名手だ。だが、動いている小さな的を狙うのは簡単ではない。

 リュウマに向かって、二本の棍棒が振り上げられた。そのうちの一本には、まだ新しい血が付着していた。カイエンの血に違いない。リュウマは魔物を見つめながら、魔物の腕の動きだけで棍棒が落ちる位置を図り、重い一撃、もう一撃をもかわした。

 がら空きの胴を狙えば、振り下ろした腕が再び狙っているのはわかっていた。魔物の動きは、騎士の中でも剣を得意とするリュウマから見れば、単調で隙だらけだ。しかし、それだけに気を抜くことはできない。あまりにも大振りであるがために、リュウマの視界外から振り下ろされる。腕の動きで推測はできても、推測だけですべてを判断するほど、魔物を見下しては足元をすくわれかねない。事実、カイエンは最初の一撃を甘く見過ぎたのだ。リュウマは踏み込まず、振り下ろされたばかりの魔物の腕に、自らの剣を叩きつけた。

 再び表皮が裂け、どす黒い血がほとばしる。

「カイエン! 無事か?」

 魔物の雄叫びにかき消されそうになりながらも、リュウマは叫ばずにはいられなかった。カイエンは、短い間とはいえ、同じ目的で生死を共にした仲間なのだ。仮り危機に陥ることになっても、死なせるつもりはなかった。

「リュウマ、集中しろ!」

 セジュールの声が聞こえた。セジュールも焦っている。カイエンが動けなくなり、リュウマが倒れれば、魔物がセジュールを狙うのはわかりきっていた。セジュールの得意とする弓矢は、強力だが一度放てば次の矢をつがえるのに時間がかかる。セジュール一人だけで倒すのは、絶望的といってもいいはずだ。

倒れるわけにはいかない。リュウマは、言われなくとも集中を切らせるつもりはなかった。魔物の動きを読み、傷は浅くとも、確実に打撃を加える。それにより、弱らせるこつができるはずだ。

 魔物のほとんどは、強い力でも強大な魔力でもなく、どんなに殴られてもなかなか死なないという体力こそが脅威なのだ。

 数十回の棍棒を避け、数百回の打撃を与え、腕がしびれてきた時、ついに魔物の両目がふさがった。魔物の二つの目に、共に矢が刺さっていた。

 同時に、魔物の体勢が崩れる。後ろから、カイエンが飛びかかっていた。

「カイエン、生きていたか!」

「この程度で死ぬか。俺の心配はいい。とどめだ!」

「解った。避けろ!」

 繰り返される打撃と塞がれた両目、背後からの重荷に、魔物がいらついて牙をむいた。巨大な牛の頭部には似合わない、鋭い犬歯が並んだ上あごは、リュウマにとってはさらけ出された弱点そのものだった。

 振り続けた剣を自らの体に対して中心に構え、盾を捨て両手を添える。

 赤黒い口蓋に向けて、全身で突き進むと同時に腕を全力で伸ばす。

 剣の先端が口内の筋肉にぶつかり、押し返される。だが、すべて想定の範囲内だ。

 腕の全意識を集中し、押し通す。

 何百回と振り続けた剣は、魔物にかすり傷しか負わせなかった。倒すための剣ではない。すべては、この一瞬を生みだすための剣だったのだ。

 魔物の口蓋を割り、頭蓋骨を抜け、脳に達する。魔物が完全に死ぬまで、気を抜くことはできない。リュウマはさらに力を込めた。

 剣先が、魔物の頭蓋骨を砕き、後方に抜けた。

 リュウマは予告していた。

 カイエンはその意味を理解していた。

 剣先が魔物の頭部を砕き、突き抜ける寸前に、カイエンは魔物の耳元に突き刺さったままの自らの武器を掴み、距離を取った。

 リュウマの突き出した剣は、柄の根元まで魔物の肉体に吸い込まれていた。

 後方にほとばしる黒い血が、魔物に致命傷を与えたことを物語っていた。

 リュウマは静止し、リュウマの後方から、放たれた矢が魔物の体を傷つける。カイエンが渾身の力で斧を振り下ろす。

 魔物の雄叫びは、咆哮とはもはや呼べなかった。ただの絶叫をほとばしらせ、魔物の姿が徐々に崩れていった。

 リュウマは剣をつきだした姿勢のまま、崩れゆく魔物の中心にいた。

「終わったな」

「……ああ」

 疲労により膝をついたリュウマに、セジュールが手を伸ばす。カイエンは気まずそうに斧を担ぎ直していた。

「済まない。油断した」

 カイエンは、戦闘が始まってからずっと意識を失っていた。その時間は一分とはなかったはずだが、自身の力に絶対の信頼を置いているカイエンにとっては、とんでもない落ち度だったのだろう。

「魔物がカイエンに気をとられなければ、私も一撃でやられていたかもしれない。それほど、手ごわい相手だった。三人いたからこその勝利だ。今までと、何も変わらない」

「その通り」

 セジュールはどこから見つけてきたのか、魔物が持っていた三つのローズリーフを発見し、リュウマとカイエンに一つずつ投げてよこした。ローズリーフは、この世界に災厄をもたらそうとしている魔女の魔力を退けるために必要なもので、魔女の手下である強力な魔物が守っていると言われているものだ。

 魔物を退治しにきたのはシンデレラ姫に命じられたからであり、ローズリーフが目的とは考えていなかったが、あって邪魔になるものではない。リュウマは受け取った一つを荷物のなかにしまい、カイエン、セジュールとともに迷宮を後にした。


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