玄三の初恋!?
孤立し引きこもる玄三の前に現れたのは、役行者と呼ばれる謎の老人であった。
この出会いが、玄三の未来に何を与えるのか?
俺は今、牢屋の中で過去の自分を振り返っていた。
そう…
あの日の思い出…
もしかしたら俺の人生の中で、一番の…
安らげたひと時…
俺《僕》は玄三…
僕は役行者と呼ばれる老人と旅をしていた。
何故ならあれだけの事をしでかした僕は寺にはいられなくなったのだ。
寺にいた者達からは畏怖の対象だったから。
と、言っても…
別に未練は何もなかった。
だって…
あの寺にいた時の自分は生きる屍のようなものだったから!
そして、
役行者と旅を始めて二年が経っていた。
役行者…
本名を『役小角』と言い、僕は『小角』と呼んでいた。
玄三「小角!右斜め上に三匹!左は10メートル先に二匹!真上に一匹!」
僕は小角に向かって叫ぶ。
小角「後は正面に六匹じゃな?」
『ガアアアアアア!』
僕が指さした場所から襲い掛かる魑魅魍魎達!
小角と僕は依頼を受けては魔物退治をして旅を続けていたのです。しかし、この現代に魔物だなんて?
最初は本当に信じられなかった。
この世界にこんなに魔物が跋扈していたなんて…
僕は最初こそ使い物にならなかったが、今では立派に小角の助手として働いていた。
玄三「来たよ!」
僕の合図で小角は九字の印を結ぶ。
『臨・兵・闘・者・解・陳・烈・在・前!』
小角は素早く掌に血文字を書くと、両手を地面に向けて差し出す。
小角「さぁ!現れよ!我が下僕達よ!」
すると…
《ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…》
地面が盛り上がり二つの大きな棺桶が現れたのだ。
棺桶がゆっくりと開くと、その中から…
二体の鬼神が現れる。
『前鬼・後鬼』
こいつ達こそ小角が使役する強力な二体の鬼神なんだ!
小角の巧みな指示に二体の鬼神は命令に従い、襲い掛かる魑魅魍魎達を引き裂いていく!そして全ての魑魅魍魎を消し去った後、前鬼と後鬼は再び棺桶に入り消えていったのだ。
玄三「小角!やったな!」
小角「では、仕事も終わったようだし美味いものを食べに行くかのう?」
玄三「やったぁー!」
まあ、手伝いと言っても魔物の探知が主なのだけど。
小角と一緒に旅をして来てから、自分は少し変わってきたような気がする。
最初はそれこそ無口だった自分も、次第に小角のペースに?ついツッコミを入れたり…
笑ったり、怒ったり…
泣いたり、喜んだり…
感情を表に出せるようになったのだ。
僕が小角に連れられてやって来た場所は、横浜中華街の高級な店だった。
どうやら化け物退治での謝礼金は思ったより高額だったみたいだ。
まぁ、実際に命懸けの仕事だし…当然と言えば当然なのだけど、小角にかかれば本当に他愛もない仕事なのだ。
小角は僕と出会う前から全国各地を旅をしては、そういった仕事をして来たと言う。そんな訳だから語学が達者で、全国のありとあらゆる言語を喋れるそうだ。
学校に行ってない自分は小角に全国の言語を教わったりしていた。
おかげで、今では多分…
見知らぬ部族の言葉以外は喋れるんじゃないかな?
その他にも…
法術・体術・武器の扱い方や、戦術なんかも教わったのだ。
どうやら僕は飲み込みが早いらしく一年ちょいで、まるで今までの無駄な時間を帳消しにするかのように吸収していったのである。
あ…別に僕は退魔師になるつもりはないのだけど、小角と一緒に旅をしているとそれでも良いかな?みたいに感じる。
そもそも自分の忌まわしい力の使い道は、他にないのかもしれない…
小角にそれを尋ねると、
小角「強くなり、学ぶ事は、後々自分自身が危機に陥った時に生き延びるための選択肢から答えを導き、自信を与えてくれよう。無駄にはならんぞい?」
…とか言っていた。
僕と小角は近くにあった寺にお邪魔しては、ホテル代わりにしていた。
変なところで安く済ませる所はケチ臭いな…
まぁ、修行僧がホテルというのも微妙だけど。
まぁ…一応はお偉い御坊さんらしいから、結局は寺が一番落ち着くのかな?
そんなある日、
小角が僕に言ったんだ。
小角「明日はお前に紹介したい者がいるんじゃが…楽しみにしておくんじゃよ?」
紹介したい奴?
珍しいな…
正直、小角は顔が広いし顔が利く…
ちょっとした有名人なのだが、僕に会わせたい奴だなんて?
そもそも僕とは面識ある奴なのか?いや?知り合いなんていないし、見当つかないや!
次の日…
僕と小角は京都へと向かったのだ。そこでは今祭が行われていて、僕は物珍しい祭の光景にハシャギ回っていた。
小角は僕に小遣いを渡すと、「どうじゃ?祭りを覗いて来て良いぞよ?」
と、僕を残して先に目的の相手の所へ向かって行ったのである。
こんなに早くから?
寄り道するつもりだな…
こんな時は必ず、子供が行ってはいけないような場所に行くのだ…
仕方ない…
その間、僕は祭をエンジョイするかぁ~
初めての祭!キラキラして、騒がしくて、でも嫌じゃなくて!
楽しい…
祭は心が騒ぐ…
今日は僕の人生で最良の日かもしれない!
僕は祭が大好きだ…
僕は祭を満喫した後、小角と待ち合わせをしていた神社へと向かう事にした。
それにしても…
一体、どんな奴なんだ?
小角が別れ際に言った言葉が頭を過ぎる…
『きっと…お主にとって良きパートナーになるぞい!』
良きパートナーって?
小角は本当に掴み所がないからなぁ…
僕が待ち合わせの神社に着くと、小角が先に着いて待っていたのだ。
ん?
小角の後ろに誰かいる?
身長から見て…
僕と同い歳くらいか?
その子はゆっくりと僕の前に姿を現したのだ。
ドキドキ…
黒いボブ髪ヘアー
切れ長のマツゲに…
大きな黒い瞳…
まるで日本人形のような美形の…
玄三「か…可愛い…」
今まで生きてきた人生の中で、こんな可愛い女の子を見た事がない…
多分…
これが…
僕の初めての…
は…つ…こ…
小角「紹介しよう!儂の知り合いの息子殿の安部晴明君じゃ!仲良くしてやっておくれ?」
《ピキィ…ピキキ…!!》
突然、自分の何かが音を立てて割れた感じがした?
なっ?
今、何て?
『息子?』『君?』
コイツ…
お…男かぁーーー!?
その日…
僕の初めての恋は音を立てて崩れたのだった。
いや!こんなのは初恋なんかじゃない!
無し!無し!
断じて許さーーん!
すると、その少年は言った。
晴明「あのぉ~小角様?誰なんですか?この平民の子供は?こんな子供と一緒に旅をするなんて嫌ですよ?」
なっ?コイツ…
初対面の僕に平民とか…
口悪!!
丁寧口調が余計に腹が立つ!イロイロ何かムカつく!
小角「これこれ?仲良くしなさい!これから三人で共に行動するのじゃからな?」
晴明「足を引っ張られるのは仕方ないとして、邪魔されたらって考えると苦労が絶えないです…」
そこに僕は晴明の前に立ったのだ。
晴明「何かな?平民の子供君?」
玄三「うるさい奴だ…女みたいに、ピィピィと…」
晴明「ナッ!」
玄三「さっきから聞いていれば僕が役に立たないって?こう見えても小角の助手をしてるんだぞ!」
晴明「そりゃ、小角様も大変だ?こんな平民を連れて肩も凝るよね…あっ!小角様?宜しければ後で肩でも揉みましょうか?」
小角「あ…ああ…そりゃ…嬉しいが…」
玄三「ふっ…こんな華奢な男女の力でマッサージされても意味ないんじゃないか?」
晴明「ムカッ!さっきから聞いていれば誰が男女だって?」
玄三「ん?気にくわなかったか?だったらカマ男で良いかな?」
《ガツッ!》
二人同時に相手の胸倉を掴んだのだ。
小角「止めぇ!止めぇーい!」
小角の制止に仕方なく胸倉を放す僕と晴明。
小角「これから共に旅をするのじゃ!仲良くせぇ!」
二人『こんな奴と一緒に??』
僕と晴明は睨み合っていたのだった。
そうか…
これが、この安部晴明との初めての出会いだったな…
安部晴明…かつて平安時代に実在した陰陽師。
陰陽道に関して類をみない才能と伝説的な偉業を残した天才陰陽師である。
この目の前に現れた少年は、過去に実在した安部晴明の生まれ変わり…
つまり『転生者』なのだ。
これから僕は、小角だけでなくこの生意気なカマ男[安部晴明]と一緒に、
三人の奇妙な旅を始める事になったのだ。
次回予告!
三蔵「あ~忘れたかった嫌な記憶を思い出してしまった~
あれから晴明とは腐れ縁なんだぜ?
さて、次の話はちょっと危うい話になるのだが・・・
何とかしなくちゃな!
ナウマク・サマンダ・バザラ・ダン・カン!
マジに何とかしてやるぜーー!!」