ナウマク・サマンダ・バザラ・ダン・カン!三蔵よ!炎【罪】を背負って生きよ!
小角の願いを聞き受けた三蔵は決意した。
しかし、それは過酷な試練であったのだ。
幼少編・少年編 【小角の章】 完結!
小角…
小角の願い…
俺は三蔵
くそったれぇー!!
小角は俺に炎の魔神を託すために、あんな事を…
俺は…
俺は逃げちゃダメだ…
俺は…
逃げない!
『ウオオオオオオ!』
俺は気合いと共に雄叫びをあげると、炎の魔神に向かって再び駆け出したのだ!
不思議だ…
さっきまで怯えて、震えていた自分が嘘のようだ…
これが覚悟ってやつか?
俺は燃え盛る業火の中へ!炎の魔神に向かって飛び込んで行ったのだ!
俺の身体が炎に包まれて行く!
『ぐおおおお!』
纏っていた衣が燃え、身体中が火傷に負われ強烈な痛みが走る!
息が出来ない…
苦しい…
熱いのか何だか解らないような激痛が走る…
小角『三蔵…苦しかろ…
じゃが、これは…試練なのじゃ…
儂達は大きな罪を背負っておる。罪を背負うと言う事は、苦しく、まるで炎で身を焦がされるような痛み…
いっそう忘れられたらどんなに楽か…
じゃがな、儂達はそれから逃げてはならぬのじゃ…
逃げず、背けず、その全てを受け入れ、背負った上で、それでも己を保たねばならぬのじゃ!
それは、耐え難い十字架を背負う事になろう…
儂はそれを神が与えた試練なんじゃと考えておる…
じゃがな?その試練を乗り越えた時!それはきっと、これからお主の未来に起きるであろう…世界をも巻き込む絶望という名の災厄に立ち向かうための『力』となって戻って来るのじゃ!』
『三蔵…』
『炎(罪)を背負うのじゃ…そして、己が魂の力とせよ!三蔵よ!』
どこからか解らないが、小角の声が聞こえたような気がした…
俺の肉体は炎に包まれ灰になり、その魂だけが炎の中を突き進んで行った。
そこで俺の魂は…
炎の魔神と対峙していたのだ。
自分の何倍もある炎の魔神の姿を見上げる。炎の魔神は思い掛けぬ来客者(俺)に興味を抱いているようであった。
魔神『小僧、お前はここに何をしに来た?お前のような人間の小僧が、ここまで来れた事は認めよう…だが、お前には既に引き返し戻るための肉体はないのは解っておるのか?とんだ無駄骨だったようだな?』
…無駄?
フザケルなよ…
俺は強欲なんだ…
此処まで来た以上、俺は全てを手に入れる!
三蔵『おぃ!貴様が不動明王か?』
魔神『紛れもなく私は不動なる明王!』
三蔵『そうか…だったら…』
魔神『だったら?』
三蔵『俺の手足になりやがぁれ!そしたら、俺のシモベにしてやる!』
魔神『…………』
魔神は面食らったかのように動きを止めた。
その形相は憤怒の顔で俺を見下ろした。
そして…
魔神『ガハハハハ!戯れ事を抜かす人間の小僧よ!俺は冗談は嫌いだ…この俺にそのような口を叩いてただで済むと思っておるのかぁ?』
魔神の業火が、俺の魂をも燃やさんと放たれたのだ!
魔神『ほんの興味本意でお前の魂を消さずに割れの前に導いて会話を試みたのは無駄だったようだな?我が前より消え失せよ!人間の小僧よ!』
魔神より放たれた業火は俺の魂を消し去る勢いで、俺の存在を燃やしていく!
クソッ…
たかだか神の分際で!
この俺が下手に出ていれば調子に乗りやがって…
神が何だ!!
フザケルナ…
俺は…
俺はな?あの!
『三蔵ダァーッ!』
その時!消えかけていた俺の身体から、何か解らぬ力が解放されたのだ??
凄まじい勢いで魔神の炎を飲み込んでいくそれは?金色に輝く炎であった!俺の魂から放たれた金色の炎は消えかけていた俺の身体を見る見るうちに蘇らせていく。
魔神『フンヌ?その力は何だ?金色に輝く炎だと?小僧!お前は何者…』
『!!』
その時、魔神は俺の異変に気付いたのだ!
それは!?
魔神『その瞳!!その瞳の輝きはまさか!?』
魔神が見た俺の瞳は金色に輝き、その輝きは俺の身体をも覆っていく!
三蔵「…何を意味解らない事を言ってやがる?俺もそろそろ限界なんだ!だからよ?せめて一発でもテメェに一矢報いてやるぜぇー!!」
俺は金色の炎を纏いながら魔神に向かって飛び上がり、その顔面目掛けて渾身の拳で殴りかかったのだ!!
魔神『お前のその瞳…見間違う事はない…それは!』
『…救世の魔眼!!』
直後、俺の拳が魔神の顔面を捕らえて奴の額をぶん殴ったのだ。
魔神『うぐおおおお!』
そのまま俺の身体は炎に包まれ、落下しながら消えていく…
それと同時刻…
小角の身体を奪い、一匹の鬼神と化した前鬼と後鬼は?
前鬼『あの炎の魔神…動かなくなったぞ?いや、それより…あの炎の中に飛び込んだ三蔵はどうなったのだ?』
後鬼『ふふふ…あれほどの炎の中、生きてはおるまい!我々の手で始末出来なかったのは惜しいが、我々の目の前で奴の最後を見れただけでも、良しとするか…』
前鬼『待て!あれを見ろ!』
前鬼と後鬼が目の前で炎の魔神から天井まで炎が噴き上がり次第に火柱となった。そして、その中心から人影が現れたのだ!?
それは、ゆっくりと前鬼と後鬼に向かって行く…
やがて炎はその人影に吸収されながら、その姿を明確にしていったのだ!
前鬼『き…貴様!』
…ナ…ナウ…ナウマク…
…サマ…ンダ…
バザラァ・ダン・カン!
炎の人影から不動明王真言が響き渡る?
その人影の正体とは!
『三蔵!』
炎を背負い、この俺…三蔵が再び現れたのだ!
後鬼『三蔵…生きていたか!なら、それはそれで好都合だ!貴様は俺の手で殺してくれるわぁ!』
三蔵「…………」
小角…今、行くぜ?
今…今、助けてやるからな?今直ぐに…
その汚らわしい鬼野郎から、解放してやるぜ!
俺は両手を重ねて印を結び、再び真言を唱え始めたのである。
三蔵「ナウマク・サマンダ・バザラ・ダン・カン!」
『我が魂の契約により、その力を我がために解放せよ!』
『我が守護神!不動明王よ!我が行手を塞ぐ邪悪なる魔物を、その業火にて焼きつくさん!』
その直後!俺の背後に神々しくその姿を変えた不動明王が出現したのだ!
俺は…
俺は炎の魔神?いや!不動明王を手に入れたのだ!
消えかけていく俺に不動明王は言った…
『救世の魔眼を持ちし人間の若者よ…お前の力を見せて貰った!お前を我が盟約の主として認めよう!我はお前達の言う世界での明王!炎の魔神・不動明王だ!』
直後、消滅しかけていたはずの俺の魂が再生していき、失った肉体が蘇り復活したのだ!
三蔵「前鬼!後鬼!テメェ達との因縁なんか知らねぇ!だが、小角の身体は返して貰うからなぁ!」
すると前鬼と後鬼に身体を乗っ取られ鬼神と化した小角が襲い掛かって来たのだ!その手には冷気が立ち込め両手に氷の剣が出現したのだ!
凄まじい勢いで俺に斬りかかる鬼神小角!俺は紙一重で躱しつつ、その氷の剣を両手で掴み止めたのだ!
俺の腕に捕まれた氷の剣が溶けていく。
そして、炎が発火して鬼神小角に燃え移ったのだ!
鬼神小角『ウグゥオオオオ!!』
炎を振り払い、仰け反る鬼神小角は炎の魔神をその身に従えた俺に脅威を感じたのだ!それだけ今の俺からは計り知れない力が放出していたのだ!
鬼神小角『ウググ…何だ?変だ…確かに野郎の力は桁違いに…上がった!だが…まだ力を使いきれて…いないはずだ…俺の?俺の動きが鈍いのかぁ???』
そうなのだ!
前鬼と後鬼が奪った小角の身体が異常に衰弱していたのだ!それは…寿命が近い事が原因であった!
鬼神小角『クッ!…この器では…役が立たん!いや?その前に寿命が尽きれば、俺達までも消えてしまうではないかぁ?この器はそれを目的で身に俺達を呼び込んだのかぁー!!くそぉー!!』
鬼神小角は辺りを見回し他の器を探し始めたのだ!そう。俺の身体の中には既に不動明王が居座っているために奪えないと判断したからである。
そして、見付けたのだ!
新たな器を?
しかも、取って置きの力を持ち、若々しい肉体を!
それは…
鬼神小角の視線の先には、気を失い倒れていた晴明の姿があったのだ!!
鬼神小角『見付けたぞぉー!新たな肉体をー!!』
晴明に狙いを定め飛び掛かろうとする鬼神小角に気付いた俺は、
三蔵「さ…させるかぁー!!」
出遅れ、晴明を救わんと走ったのだ!
倒れている晴明の周りには生き残っていた術者が二人で結解を張っていた。
が、
鬼神小角『邪魔だぁー虫けらがぁー!!』
鬼神小角の放った氷の刃が術者の結解を破り二人の術者をも串刺しに貫いたのだ!そして凍り付き絶命したのだ。結解が無くなり、既に守る者もいなくなった晴明に飛び掛かろうと腕を伸ばした鬼神小角に、
ダメだ…間に合わない!
しかし、どうしたら良い?
小角の身体を傷付けないで晴明を助けるには…
その迷いが俺の動きを鈍らせていたのだ。
その時、再び小角の声が聞こえて来たのだ!?
《三蔵…もう良い…儂の事は案ずるでない!そもそも儂の寿命は長くなかったのじゃ…儂はこの日のために生きて来た…儂の永きに渡る念願を遂げたのじゃ!本望じゃよ…》
《馬鹿言うな!俺は小角も晴明も救いたいんだ!諦めてたまるかぁー!!》
が、その直後!
《喝ッー!!》
小角の叱咤が俺の考えを願いを討ち壊したのだ!
《三蔵!判断を見謝るでない!お前が今するべきは晴明を救う事じゃ!判断を見謝れば救うべき大切な命をも失う事になるのじゃぞ!》
《そ…そんな…》
《三蔵…儂はお前に巡りあえて幸せじゃった…そして、儂もまたお主に救われたのじゃ…。だから、後は…頼む…晴明を救ってはくれぬか?同時にそれが儂の魂をも救う事になるのじゃぞ?》
そ…そんな…
だが、その躊躇が全てを失わせる。
決断!!
俺は…俺の取った行動は…
倒れている晴明に迫っていた鬼神小角の懐に入り、
俺は拳に炎を籠める!
俺は燃え盛るその拳で…
前鬼と後鬼に身体を乗っ取られ鬼神と化した小角の身体を…
貫いたのだった!!
俺の目からは一滴の涙が流れ落ちる。
小角…
小角…
俺は貴方に出会えて…
本当に幸せでした。
貴方に出会えたからこそ…
今の俺がいる!
貴方との出会いが、俺に生きる意味を…
生きる喜びを与えてくれました。
俺は生きます!
そして、貴方に生かされたこの命を…
貴方に恥じぬように…
生き抜いてみせる!
だから、見ていてくれよ?
我が師よ…
『うぎゃああああ!』
不動明王の炎に包まれ断末魔をあげながら、小角の身体から抜け出して来た前鬼と後鬼…
『また…し…て…もー!うぎゃああああああ!』
その魂事、不動明王の業火に焼かれ完全に消滅していったのだ。
三蔵「本当に…これで良かったのか…?俺は…再びこの手で大切な者を…」
俺は命尽きた小角の身体を抱きしめようとした時、
そこに…
「三蔵…お前…お前、今…今、何をしてるんだ?何を…何をしてるんだよ…?」
三蔵「ハッ!」
振り向くと、いつ目を覚ましたのか?晴明が立って俺を見ていたのだった…
目覚めた晴明が目撃したのは、俺が不動明王の業火の力にて、小角の身体を貫いた所だった。
晴明「何をしたんだぁ!三蔵!何故、小角様をお前がぁー!?」
俺は晴明に何も弁解出来なかった…
言い訳なんてない…
形はどうあれ…
小角が死んだのは、俺のせいなのだから…
俺は晴明に背中を向けたまま、炎を拳に籠める。
そして壁に向かって放つと、轟音とともに壁に穴が開き、俺はそこから飛び出し駆け出したのだった!
俺は逃げる最中、
晴明が小角の名を呼び続ける声が聞こえていた…
あの冷静な晴明が乱れるように泣き叫ぶ声が響き渡ったのだ。
だが、俺は晴明に振り向く事なく…
一人…
その場から消えたのだった…。
手に残る感触が俺を責め立てる。
『罪(炎)を背負って生きよ…』
…小角の言葉が重くのしかかる。
非情になる事で得た力は未来を切り開く力…
そのために俺はこの日、師と友、唯一の絆と幸せな日々を失った。
何もかも無くした。
そして、俺はもう一つ
あの場所に置き忘れたモノがあったのだ。
それは…
俺の…
涙かもしれない…
次回予告
三蔵「この話で俺の幼少編・少年編が終わるわけなのだが、
次話からは、俺が再びとんでもない事件に・・・
いや?あれは戦争に近かったな。
とにかく!もの凄い展開が待ってるんだぜ?
時は俺が一人になって、三年後の話だ!
ナウマク・サマンダ・バザラ・ダン・カン!
面倒事は勘弁してくれ~~」