人魚の断罪と償い!
マザーの正体は八百比兵尼と呼ばれるカミシニの戦士だった。
八百比兵尼は我が子を守るためにカミシニから逃げる事を決意したのだ。
私はマザー
カミシニの力を持つ八百比丘尼。
しかし、我が子を生かすためにその力と記憶を失ったのでした。
カミシニであった時の記憶を失った私は、暗闇の中、赤子を抱きしめアスファルトをふらつきながら歩いていました。
私は誰?
何をしているの?
ただ、胸に抱いていた赤ちゃんだけは、しっかりと離さずに抱きしめていたのです。
そこに前方から眩しい光が?
あれは…車のライト?
私は車に轢かれるかと思いましたが、車は急ブレーキをかけて止まり、中から慌てて男性が出て来たのでした。
そこで、私は意識を失ってしまったのです。
それから数年後…
私は結婚したのでした。
相手は?
あの日、私の前に現れた車の男性。その男性は突然意識を失った私を病院に連れて行き、その後も心配して幾度とお見舞いに来てくれたのです。
そして、私が退院して一年くらいした後も、私の生活を援助してくれました。
私は声を失っていたため、ノートに文字を記す。
『私には何もお返し出来ません…』
すると彼は…
「お返しなんかいりません…ただ良ければ、私と一緒になってはくれませんか?」
その男性は私に記憶がない事も、声も出ない事も、それに誰の子供か解らない赤子がいる事も知った上で、私なんかと一緒になろうと言ってくれたのです。
嬉しかった…
何もかも不安で仕方ない状況の中…
支えになってくれる人がいる事が、こんなに心強く、幸せな気持ちにしてくれるなんて…
しかし、結婚と言っても身元不明な私と正式な結婚は出来ない…
しかし私は彼と一緒に生きる事に決めたのでした。
それは私にとって…
ひと時の幸せ…
カミシニであった私が普通の人間の男性と家庭を持ったのだから…
だけど、その幸せも長くは続かなかったのでした。
それは、私の子供が…
悪魔のような力を持ちはじめた時から…
人の死を予言したり、見えない何かと会話したり…
怪我した場所が、人間離れした早さで治ったりと…
次第に近所の人達からも噂されていった。
『悪魔の子供』
それでも、彼は子供の事を自分の子供のように愛してくれていた事が、私にとっての救いだったのです。
私達は逃げるように、幾度と引っ越しを繰り返していました。
そんなある日、私は子供が力を使い包丁を浮かべていた所を目撃したのです。
(ダメー!危ない!)
私は声が出ないため、直ぐに飛び出し子供は無事でしたが、私は手首を切ってしまったのでした。
(イタッ…)
血がこぼれ落ちる。
その血を見ていて…
私は、その血に魅了されていったのです?
赤い…赤い…
『血』
すると私は無意識に、零れ落ちた自らの血を舐めていたのでした。
その時、私は身体中に強烈な痛みを感じたのです!
同時に私の記憶が蘇っていく…
忘れていたかったカミシニだった時の記憶を!
そこで私は全てを悟ったのでした。
「私のせい?私の血が子供に影響を与えたの?」
その時、私はほんの少し力が目覚めていた。
霊を見る力が…
気付くと、部屋中にはうごめくほどの怨霊が集まって来ていたのです。
(子供にはカミシニの力ではなく、異常なまでの霊媒体質を持っていたの?)
その時、私の耳に声が?
《ふふふ…良い様…苦しみなさい?でも、これからよ!》
それは怨霊?女の怨霊!
怨霊は私に向かって襲い掛かって来たのです。
私は抵抗しようにも、カミシニの記憶は目覚めていたのに、抗う力までは失われたままだった。
女の怨霊に身体を乗っ取られていく…
そこに、私の子供が近付いて来たのです。
「お母さん?大丈夫?ごめんね…お母さん?」
私は…
「いけない子ね…」
そう言って、子供の手を掴むと、
「あれ?お母さん声が出せるの?」
不思議そうに私の顔を見ている子供の手を掴んだまま、床に押し当てて…
持っていた包丁で、自分の子供の手の甲を突き刺したのでした。
「いけない子!いけない子!いけない子!」
そして、何度と突き刺し床が血まみれになっていく!
悲鳴のように泣き叫ぶ子供に気付き、帰って来たばかりの彼が驚いて子供と私を引き離したのです!
「どうしてしまったんだ!?君は!」
その直後、私は彼の胸に包丁を突き刺していたのでした。
倒れていく彼に、他の怨霊が入っていく…
それを「見ていた」私は大声で泣き叫ぶ…
だけど、私は見ている事しか出来なかった…
いえ、見せられていたのです!
私の身体を乗っ取った怨霊によって…
怨霊は私の意識を残した上で、私の身体を支配していたのです…
それから…
続く悲劇…
怨霊は私の身体を使い、私の子供に虐待を続けていった。
それが、私に対しての一番の復讐と言わんばかりに…
そう…この怨霊とは…
かつて私がカミシニだった時に殺した魚神の女だったのです!
「止めて!私の子供は悪くない!殺したいなら!私を殺して!」
私の言葉に魚神の女は…
《そうよね…でもね、お前は私の大切な子供を殺したわよね?私の大切な子供を殺した…殺したんだよ!》
「!!」
何も言い返せなかった。
《ふふふ…あんたのガキも人間じゃないわよね?恐ろしい悪魔の力を感じるわ?殺しても殺したくても死なないしね…だから、私は悪魔の子供を殺してやるのよ!お前が私の子供を殺したようにね!》
私は泣き叫び訴える…
「お願い!お願いします!貴女も子供がいたなら…子供を傷付けないで…」
《ふぅ~化け物が化け物の子供可愛がっても、気持ち悪いだけだし、死のうが生きようが何の同情もないのよ!》
それは、かつて私が言った台詞でした…
私は…
私は心が引き裂かれていくような感覚に…
かつてない怒りを感じた…
この怨霊に?
違う!!
私自身の愚かさに!!
子供は悪魔の子供なんかじゃない…
子供は…
子供達は…
私がかつて殺した魚神の子供だって…
見た目やその異質な力だけで、その存在を否定し…
無慈悲にその尊い魂を、無に返した私への罪…
だけど、だけど…
お願いします…
身勝手なのは解っています!だけど…
私の子供だけは許して…
そのためなら、私はどんな罰でも受けます…
身も心も八つ裂きにされても構いません…
涙が涙が涙が…
そんな私を嘲るように、怨霊達は死んだ彼の身体さえ使い、更に子供に対しての虐待をエスカレートしていった。
許して…
お願いします…
私はどうなっても構わないから…
そんな地獄が繰り返されていく日々にも終末が訪れたのでした。
子供の力が暴走し、炎に包まれながら、家を燃やしていく…
怨霊に肉体を奪われた彼を燃やし…
その炎は私に向けられたのです…
炎は私の身体を燃やしていった…
私の中にいた魚神の女の魂さえも…
私の身を焦がし…
燃えていくさなか…
私はあの子に向かって…
「お願い…死なないで…生きて!ここから早く…」
「ニゲテ…」
だけど、子供もまた炎に包まれて消えていった。
皆、死んだ…
私が愛した彼も…
子供も…
これが私への断罪なの?
だけど、これで終わる…
その後、燃え尽きた家の中から、私の黒焦げた遺体は運ばれて安置されていた。
そこで…
私は再び蘇ったのです。
蘇った私は泣き叫び、自分の身体を幾度と傷付ける…
「死にたかった!愛する家族と一緒に!死にたかった!」
そこに、
「あらあら?どうやらカミシニの力が復活したのですね?面白いですね~」
それは紛れも無く…
本当の悪魔…
クローリー博士だったのです。
クローリーは説明した。
あの火事が起きて、私が蘇るまで十年の月日が経っていた事…
その現場から生きていた者は一人もいなかった事…
私を除く…
そしてクローリーは私に言ったのです。
「貴女に私の実験を手伝って欲しいのですよ?もし手伝ってくれるのであれば、貴女にかけられている討伐の命令を消して戴けるようにアライヴ様にお願いして差し上げますよ?」
別に死んでも構わなかった。私には何も残ってはいなかったから…
生きる目的も意味も…
だけど、クローリーの実験の話を聞いた時に私の心は変わった…
クローリーは再び新たな実験をしていたのです。
神の転生者にカミシニの力を与える事で、最強の化け物を作り出そうと!
そもそも神とカミシニの血は反発する…
不可能かと思われていた。
しかし、人神として神の力を覚醒する前の赤子に、カミシニの力を与えれば?
そこには、何処からか拐われ、産まれて間もない赤子達が眠っていたのです。
私が守らなければ…
この悪魔から、この子供達を守らなければ…
それが私の新たな生き甲斐…私が犯して来た罪への僅かながらの償い…
この子供達は悪魔でも、魔物でもない…
掛け替えのない命…
守るべき命…
そして…
(私の大切な子供達…)
生かしてあげたい…
私が死なせてしまった…
愛おしい我が子の分まで…
玄三…
次回予告
三蔵「はて?どこかで聞いたような話だな?
なんか昔・・・あれ?どこだったか?
思い出せないから、まぁ~良いかな?」




