不動明王召喚!
玄三は小角に三蔵法師の称号を授与されたのだ。
しかしそれは玄三の未来を予言された出来事である事は今の玄三には予想だにしなかった。
そして、いよいよ不動明王召喚の儀式が始まろうとしていたのだ。
『ナウマク・サマンダ・バザラ・ダン・カン!』
『ナウマク・サマンダ・バザラ・ダン・カン!』
不動寺院の中央堂にて不動明王真言が響き渡る。
寺院の中央には幾つもの結解が張り巡らされ、その中心に不動鷹仁が座していた。その正面には…
例の『パンドラの箱』が置かれているのだ。
不動鷹仁を囲むように選ばれし術者八名(俺達を含む)が五芒星を形取り、真言を唱えている。
さらに残り四名が部屋の四隅に分かれ、結解を張り巡らせながら仲間達に『力』を送っているのである。
俺は玄…改めて三蔵!
俺達は今、不動明王の召喚に立ち会っていた。
『ナウマク・サマンダ・バザラ・ダン・カン!』
『ナウマク・サマンダ・バザラ・ダン・カン!』
次第に寺院の中はただならぬ妖気が満ちていく。それは例の箱の中から漂う異質な気が原因であった。
小角「皆の者!用意は良いか?いよいよ魑魅魍魎のお出ましじゃ!気張るのじゃぞ!」
皆『おおおお!』
小角の掛け声と同時に箱の蓋が開かれ、部屋中に悍ましい悪意のオーラが広がったていく!?
晴明「あれを見ろ!」
晴明が指差した方向にはどす黒い煙り状の気が集まり、次第に形を成していく。
『ヒィギャアアア!』
そいつ達は黒い翼の生えた化け物であった。
その数は…
中央堂の中を埋め尽くさんと溢れ出して来て、数えきれる状態ではなかった。
集められし五芒星に配置されし者達が、各々の法術でその化け物を打ち払っていく。
晴明『十二神鬼!』
晴明の術札から十二体の鬼神が出現し、翼を持つ化け物を引き裂いていく!
幼少の頃には二体の鬼神を使役する事がやっとであったが、今では十二体の鬼神を同時に使役出来るまで成長していたのだ。
小角『いでよ!』
『前鬼!』『後鬼!』
小角の召喚にて二体の鬼神が出現する。前鬼と後鬼は小角の指示に手足のように動き、魔物を薙ぎ倒し消し去っていく。
くっそ~!
俺も鬼の一匹や二匹いれば楽なのによ~!
てか、言う事を聞く下僕が欲しいぜ!
俺は周りの連中を見回すと、やはりただ者達でなかったのか?迫り来る魔物を撃退していたのだ。
て、俺も遊んでる場合じゃないよな?
俺は腕に巻き付けていた数珠に気を籠めると、空中に飛び回る魔物目掛けて打ち放ったのだ!
『数珠連弾!』
魔物はマシンガンの如く撃ち放たれた数珠に貫かれ消えていく!
三蔵「よっしゃあー!」
この調子なら案外楽勝に終わるかもな?
その時!
中央の祭壇より更に凄まじい力の波動を感じたのだ。
小角『いよいよお出ましのようじゃな?これからが本当に本番じゃあーー!』
祭壇の中央に置かれし魔神を封じた『パンドラの箱』より、強烈な磁場が発生する。
クッ!
こりゃ、すげぇー!
一体、どんな化け物が現れやがるんだぁ?
すると箱がひとりでに動き出し、その中から炎が噴き出したのだ!その炎の中に見える影?その影から押し潰されるかのような重圧を感じたのだ。
『うぐわあああ!』
俺だけじゃない?周りの奴達も重圧に押し潰されそうになりながらも、突如現れた『それ』から目を離せないでいた。
凄まじい圧倒的なる力に俺達は怯み、身動き出来ないでいた。
その時!
小角「お主達!これからが正念場じゃ!」
『ぉぉ・・・おおお!』
小角の掛け声に周りの連中も再び力を取り戻す。
小角はやっぱり、すげぇ!
掛け声一つで皆が活気づいている。
そこにいた者達が小角の指示に従い連携を保ちつつ、各々配置についた。
小角は腕を上げて、炎の中に現れた影に向かって指を指す!その合図で…
小角「用意は良いかぁ?同時に縛るぞ!」
俺達は気を集中して間合いを取ると、
『今じゃ!不動金縛りじゃあーー!!』
全員同時に炎の中の影に向かって両腕に巻き付けていた縄を投げたのだ。その直後!全員の掌から気が縄を伝って行き、その影に絡みつき縛り上げる!
少しずつ…
少しずつ!
影から放たれる重圧が抑えられていく。
小角『もう少し慎重に…慌てるでないぞ…ゆっくりで良い…正確にじゃ…』
口で言う程簡単な作業ではなかった…
簡単に説明すると、口でくわえた糸を針の穴に通す感じだ。
あっ、当然解っていると思うが?
ジェットコースターに乗りながらだぞ?
俺達は気を抜く事なく驚異的な集中力でこなしていく。
小角『今じゃあー!』
全員同時にその影に最後の捕縛術を放ったのだ!
それを待っていたかのように、祭壇の中央に座禅を組んでいた不動鷹仁の奴が目を見開き…
『明王体封忠意法!』
※ミョウオウタイフウチュウイホウ
炎の中の影が吸い込まれるかのように、己の体内に取り込んだのだ。
その瞬間、静寂が…?
静まり返る中央堂。
暫くすると不動鷹仁が口を開いた。
鷹仁『ようやく手に入れたぞ…長かった…
あの日…
西暦2000年の終末の戦乱の中、俺達の前に突如現れたお前を目にした時…
俺はお前の計り知れぬ強さと美しさに…
まるで、乙女の恋心にも似た近しい感情を覚えた!
そう…これは恋心…
不動明王!!
お前を我がものとする強烈な欲求心!
はは…あはは…はははははははははは!』
不動鷹仁は念願の想いを遂げた途端、大笑いをあげたのだった。
不動は右手に意識を高めると炎の玉が出来上がり、その手より放たれた無数の炎の弾丸が新たに箱の中より抜け出して飛び回る魔物を一瞬で消し去ったのだ。
鷹仁「凄まじい力だ…まだまだ力が溢れ出してくるようだ!」
が、その時?
俺達は不動鷹仁の変化に目を奪われたのだった…
炎の弾丸を放った不動鷹仁の腕が…消滅していたのだ!?
鷹仁『なっ?』
その直後…
鷹仁の身体がムクレ始め、至る部位から炎が不動鷹仁の身体を突き破り噴き出したのだ!
腹から…
足から…
目や口から…
噴き出した炎は止まらずに、不動鷹仁は炎に包まれながら生き絶えてしまったのだった。
突然起きた惨劇に誰もが状況を理解出来ずに身動き出来ないでいた。
晴明「一体、どういう事なんだ!?」
小角「やはり無理じゃったか…!」
晴明「えっ?やはり無理とは?それはどういう?」
そう…
小角は知っていたのだ!
不動鷹仁が炎の魔神を支えるだけの器ではなかった事を!
だから…
小角は俺と晴明を置いて道場から抜け出した時、
てっきり、キャバクラに行ったと思っていたのだが…
実は不動鷹仁の部屋に出向いていたのだ。
小角「明日の儀式は必ず失敗に終わる!今からでも遅くはない!止めておくのじゃ!」
不動「ふっ…私が不動明王に相応しくない器と?」
小角「残念じゃがな…」
不動「これは正直におっしゃられる!」
小角「確かにお主は力もある呪術者だと儂も認めよう!じゃが神を使役するには器と資質が必要なのじゃ!資質とは相性…骨髄の移植よりも確率の低い…まさに神に選ばれた者のみ…それこそ世界に一人だけかもしれぬ数百億に一つの割合なんじゃ!」
不動「まぁ、見ていてください!私は必ず神を手に入れてみせますよ!アハハハハハ!」
小角の忠告虚しく、不動鷹仁は長年の目的達成を目の前にして、聞く耳を貸そうとしなかった。
小角「言わんこっちゃない…不動鷹仁よ!哀れな男じゃ…神の力に魅いられおって!」
(…じゃが、これもあの日見た記憶通り…)
すると小角は再び皆に合図を送ったのである。
小角『再び魔神を封じる!皆の者!力を合わせるのじゃ!』
その時…
《ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!》
燃えかすになった不動鷹仁の残骸より、炎を纏いし巨大な人の形をした何かが出現したのである!
小角「ようやく現れおったか…あれが炎の魔神…不動明王じゃぁああ!!」
次回予告
三蔵「まさか不動鷹仁が死ぬなんてな・・・
実は、裏世界だと英雄的存在だったらしいぞ!?
そして、次話!俺にとって、とんでもない状況に、
小角の秘密?謎が解るらしいぞ?
俺は絶対に負けない!ナウマク・サマンダ・バザラ・ダン・カン!
生き抜くぜぇーー!!」