大蛇の王の復活??
蛇塚の無謀とも思える決死の戦いが、蛇眼の闇の空間に捕らわれていた座主と赤髪の男を救い出したのだった。
俺は蛇塚軍斗…
今、俺の目の前で親父であった夜刀ノ神と、赤髪の僧侶が戦っていた。
しかも赤髪のアイツの姿は
「ハアアアアア!」
背中から新たに六本の腕が現れて額に第三の眼が見開く。
奴も化け物?
いや、あれは神の姿なのか!?
驚く俺に、綺麗なお姉さん[座主]が説明してくれた。
座主「あれは降三世明王の化身です!彼は神の魂をその身に宿す者!」
俺は綺麗なお姉さんの説明を聞きながら感じていた…
声も素敵だ…と…
とにかく、この女性を例えるなら、天使?…女神?モデル?女優か?
いやいや…
近所には絶対にいなそうなお姉さんは好きですか?
みたいな感じなんだ!!
やべぇ…惚れたかも…
一目惚れってやつか?
と、俺が違う世界に浸っている間も降三世明王と化した赤髪と、夜刀ノ神と化した親父が戦っているのだ。
夜刀ノ神と降三世明王が突進し、お互いの拳が激突する!
一瞬の静けさの後、凄まじい衝撃が俺達を襲う。
二人は幾度と繰り返し激突した!
俺達は吹き飛ばされないように堪えていた。
俺は、その信じ難い現実を目に、
蛇塚「この世のものとは思えない…」
当然だろう。
蛇塚「この女性は神秘的過ぎる!」
俺は綺麗なお姉さんにメロメロになっていた。
って、誰が空気を読めない奴だって?
ふざけるなよ!
あんな綺麗な女性を見たら、どんな男だって…
てか、あんな美しい女性がいたなんて…
俺は妹の詩織より綺麗な女は存在しないと思っていたが…
まさか…
存在するなん…ん?
詩織?
し…
『しぃおりぃー!』
俺は今思い出したかのように、捕まっていた詩織を見て叫んだ。
詩織は蛇達の身体の自由を奪われて、儀式の祭壇に寝かされていたのだ。
兄ちゃんが、絶対に救い出してやるからな!
てか、何か…ごめん。
俺は詩織のいる場所に向かおうとしたが、二人の激しい戦いの余波に近寄る事はもちろん、身動き一つ出来なかった。
くそぉ!あんな近くにいるのに!後少しで手が届くというのに!
神(明王)と蛇神の戦いは人間の俺から見たら、既に常識の粋を越えていた。
まるでハリウッドだぜ…
明王の八本の手から光りの矢が蛇神に放たれる。
蛇神もまた、口の中から牙にも似た黒い矢を放つ!
交差する矢がぶつかり合い、その中をお互いが接近しつつ激しい攻防が繰り出されていた。
二人の覇気が祭壇の床を揺らし、俺は立っている事も出来ないほどである。
祭壇から落ちたら…
祭壇の下を覗くと、そこは異空間になっていた。
しかも、その暗闇の遥か奥からは何かとてつもない巨大な化け物の目が、こちらを覗いる。
ゾクッ…
俺は鳥肌で身震いする。
座主「安心してください!この下の異空間とは結解が張ってあります…」
美しい座主のお姉さんが俺に教えてくれた。
そうなのか?
だが、今にも底から這い上がって来て、簡単に俺達をひと飲みしそうなんだけど?
その直後…
戦いに動きがあった。
夜刀ノ神の身体が降三世明王の身体に絡み付き、締め上げていたのだ!
身体に食い込み、その身体が紫色に変色していく…
痣か?
いや…違う…
あれは夜刀ノ神の身体より染み出した毒が、明王の身体を犯しているだ。
夜刀ノ神『例え貴様が神であろうと、我が毒は貴様の身体を蝕んでいくのだ!』
だが、赤髪の明王は顔色一つ変えずに答えた。
赤髪「毒か…我が守護神・降三世明王とは三つの世界を降伏する。三つの世界とは、現在、過去、未来のことを指す。これを三世と呼び、そして降三世明王が降伏させるのは三世にて人心を犯す三毒と言い、三毒とは貪る事!怒る事!愚かである事という三つの煩悩をさす!これをまとめて貪瞋恥と呼ぶのだ!その三毒に比べれば、貴様の毒など他愛もない!」
すると明王と化した赤髪の手に、光り輝く弓が現れたのである。
赤髪「我が降三世明王の奥義を見せてやろう!」
『降魔三千天弓!』
降三世明王は弓を掴むと同時に赤く光輝く矢が上空へと放たれ、それは赤い雨の如く夜刀ノ神に降り注いだのだ。
赤い雨は夜刀ノ神の身体を貫いていく!
『うぎゃあああああ!』
夜刀ノ神は堪らずに赤髪の明王を手放し、悲鳴をあげながら苦しみもがいた。
赤髪「その矢はお前の邪悪な力を浄化させるのだ!」
と…父さん…
やはり、良いもんじゃない…元はと言えば、あれは父さんだったのだから…
いや、迷うな!
あれは中身は化け物なんだから!
化け物なんだ…
俺は自分自身に言い聞かせて迷いを払う。
そこに、あの綺麗なお姉さんが前に出る。
座主「夜刀ノ神よ!もうお止めなさい!貴方にはもう勝ち目はありません!」
夜刀ノ神「オノレ!ならば再び味わうが良い!我が蛇眼を!!」
夜刀ノ神の瞳が妖しく光ると、降三世明王と化した赤髪の身体を妖気が包む。
夜刀ノ神「瞼を綴じて蛇眼を見ないようにしているようだが、それで何が出来る?」
夜刀ノ神は降三世明王に向かって襲い掛かる!その手に黒い障気が籠められると、それは刀へと変わる。
夜刀ノ神「夜刀ノ剣でその身を斬り裂いてやろう!」
だが、夜刀ノ神の振るう刀は降三世明王には当たらなかった?
夜刀ノ神「瞼を綴じて何故私の剣の動きが解る?」
降三世「ふっ…簡単な事だ!お前の気配や殺気から刀を振るう軌道を読み取れるだけだ!」
夜刀ノ神「達人の域だな?」
降三世「達人?違うな?私はただの天才だ!!」
自信満々に誇らしく言い放つ降三世明王[赤髪]に俺は茫然としてしまった。
自信家のナルシスト!!
夜刀ノ神「だが、いつまでも持つかな?」
夜刀ノ神の蛇眼から凄まじい覇気が放たれ、その妖気が降三世明王の身体を縛り身動きを止めた。
降三世「!!」
夜刀ノ神「ならば強制的に開かせるまでだ!」
降三世明王の瞼が少しずつ開き始める?
夜刀ノ神の妖気が降三世明王の瞼を開かせる。夜刀ノ神の蛇眼を見たら、その魂は肉体より捕らわれてしまうのだ!
降三世明王の瞼が完全に開かれる寸前、降三世明王は弓を引き夜刀ノ神に狙いを定めた…が、そこまでだった。
降三世明王の肉体より魂が抜け出て来たのだ!
夜刀ノ神「フッ!」
勝利を確信した夜刀ノ神だったが、次の瞬間、その胸に光の矢が突き刺さる?
夜刀ノ神「これは?何が!?」
血を吐き倒れる夜刀ノ神と同時に、吸い込まれつつあった赤髪の魂が降三世明王の身体に戻って行く。
夜刀ノ神「グゥゥ…どうして?何処から矢が?」
降三世明王「教えてやろう」
それは、遺志の力と呼ぶのか?赤髪は魂が抜け出る前に己の身体に命じたのだ。それは難しい内容ではなかった。ただ、矢を放つために『指を離せ』とだけ?
人は首を切り落とされ脳を失った後も、僅かな時を身体は生前の脳の命令で動いていたという事例がある。
例えば、首を落とされた武将がまだ走っていたり、刀を降り下ろしたりと…
だから赤髪の魂が抜け出した後も、その肉体は命令に従い指を離したのだ。
魂を失った降三世明王の放った矢は、見事に夜刀ノ神の身体を貫いたのだった。
夜刀ノ神「そんな事が…」
赤髪「出来る!なにせ私は天才だからな!!」
天才…
恐るべし…
夜刀ノ神の姿だった親父は苦しみつつ、大量の血を流しながら元の親父の姿に戻っていく。
そして、不敵に笑いはじめたのだ?
夜刀ノ神『ふふふ…ふははははは!貴様達…これで勝ったつもりでいるとは片腹痛い!どうやら貴様達は大蛇の王の復活を阻止するために来たようだが…』
…何を?
夜刀ノ神『既に大蛇の王は復活なさっているのだよ!ふははははは!今、すぐそこに…あの方はいらっしゃっておられるのだ!貴様達はもう終わりだ!』
赤髪「なっ?大蛇の王が既に復活しているだと?馬鹿を言うな!」
そう言ったのは明王の姿をした赤髪であった。
夜刀ノ神『嘘ではない!あの方は五年前の儀式で…復活なさったのだよ!いずれあの方はこの人間の世を滅ぼし、我々大蛇の民を統べる王とならせられるのだぁ!』
大蛇の王が復活している?
しかも、そいつはすぐ近くにまで来ているのだと言うのか?
五年前の儀式で復活って?
って、待てよ…
俺は確かに、
その場にいた!
俺は五年前の儀式の時、この洞窟に迷い込み、この祭壇にて…
見てしまったのだ!
何故、今まで忘れていたのか?
そりゃあ…そうさ…
あんなの…
思い出したくなんてなかった。
俺は無意識に記憶を消し去っていたのか?実際は空海さんの術なのだが…
だが、今…
今、思い出しちまった!
あの日の全てを…
下半身が大蛇で、上半身が人の姿をした十メートル以上もある巨大な化け物と化した母さんが、島の大人達を丸飲みに食い殺していく。
そして、最後に残った父さんをも…
俺はそれを見て、息を殺しながらただ震えていた。
だが、そんな惨劇の恐怖の中、俺はその後も見ていたんだ。
その後に起きた事を…
島の大人達を喰らった大蛇の姿の母さんは、暫く動かなくなったかと思うと…
腹部が光り輝き、膨らみ始めたのだ?
そして、幾つもの卵を産み落とす。
俺は恐怖の中、目が離せないでいた。
すると卵が割れ始め、中から大蛇の化け物の姿をした島の皆が出てきたのだ?
そこには父さんの姿も…
そして最後に…
そいつは現れたのだ!
そいつは母さんの腹を突き破りながら抜け出てきたかと思うと、苦しみもがく母さんに向かって噛み付き、生きたまま喰らい始めたのだ!
気持ち悪い音が響き渡り…
異様な臭いが辺りを覆っていく…
卵から出てきた化け物達は自分達を産んだ母さんが喰われていく姿を見ながら、その喰らいし者に頭を下げていた。
父さんまでも…
きっと、あれは化け物達の親玉なのだろう?
血が噴き出し、骨が噛み砕かれる音が響く…
俺は吐き気をもよおしたが、堪えていた。
だが、下の方は多分ちびっていたに違いない…
目から涙が止まらない。
死んだと思っていた母さんが化け物になって、皆を食べて…更に、その母さんが突然現れたソイツに生きたまま喰われている姿を十歳そこらのガキが見るには…
堪えられるもんじゃない!
記憶が消えてなかったら精神崩壊していてもおかしくなかっただろう…
俺は…
その後、運よく命からがら逃げたしたのだったが…
今になって、ようやく全てを思い出した。
そして俺には察しがついた。あの化け物の親玉らしき者の正体を…
大蛇の王の正体を!
だって、それしか有り得ないし…
他に考えられない…
だけど、信じたくない…
だって…
お前は俺が島に来た時に助けてくれただろ?
なぁ?
嘘と言ってくれよ…
俺はその場で大声で叫んだのだ!
蛇塚『何処かで見ているんだろぉ?出て来い!お前が蛇神達の親玉だったのかよぉ!』
『光治!』
すると何時からいたのか?
祭壇の影から…
ソイツは現れたのだ。
次回予告
蛇塚「正直、俺の幼少時代って散々過ぎる不幸人だよな・・・」
三蔵「いやいや!確かに悲惨なのは認めるが、うちらの周りの連中は不幸な奴達ばかりだよな?」
蛇塚「不幸自慢が始まるよな?」
三蔵「しかし、あの赤髪だけは・・・」
蛇塚「苦労してなさそう・・・」
『天才らしいから・・・」




