蛇頭
幼なじみの友人達に崖から放り落とされた蛇塚少年の命運は?
俺は蛇塚軍斗…
俺は…
俺は、死ねねぇー!
絶対にぃー!
俺は変わり果てた友人達によって崖から突き落とされた。俺は落下しながら生きる事を諦める。死ぬ覚悟をした。だって、助かるはずがないだろ?
だけど、健司達は最後に言っていたよな?
詩織を儀式の贄にすると!
贄ってなんだよ?
詩織に何をするつもりなんだよ?
俺は… 詩織を守らなきゃなんねぇんだよ~!
だって、俺は…
あいつの兄ちゃんだから!
俺は落下しながら腕を伸ばし、崖の出っ張っていた岩を掴んだのだ!
体重が!重力が!
俺の指にのしかかる!
凄まじい衝撃が指にかかり、
「うぎゃああああ!」
皮が破れ、血だらけになって爪が折れながらも、俺は落下の速度を少しでも抑えようとしがみついたのだ。
激痛で意識がぶっ飛びそうになりながらも、運良く崖の出っ張りにしがみつき、俺は落下から免れたのだ。
正直、奇跡だったと思う。
身体中もたたき付けられたおかげで足腰に力が入らなかったが、それでも俺は…
蛇塚「絶対に死なない!絶対に生きる!」
痛みを堪えながら崖をよじ登り、頂上に向かっていたのである。降りる時に足元が見えない分、登る方がまだ安全だと考えたから。
身体イテェ…
指が痺れて麻痺してやがる。血が止まらねぇ!
痛い…痛い…痛い…
イテェよ…
俺は涙を流して半べそかきながらも登り続ける。
クソッタレ!
行かなきゃならねぇ…
だけど、意識が薄れて視界がぼやけ、指の力が全く入らなくなった時…
俺は掴もうとした岩から手を離してしまい、
蛇塚「あっ…」
俺は再び落下してしまったのだ!
「うゎああああ!」
もうダメだ!!
このまま俺は叩き付けられて死んじまうのか?
詩織を助けられないまま無駄死にするのか?
だが、もう俺には足掻く力すら残ってはいなかった。
終わった・・・
死を確信したその瞬間、俺の身体が不思議と浮いた感覚になった?
えっ?
落下する俺は何者かによって空中で抱き抱えられ助けられたのだ!?
一体…誰が?
その者はそのまま俺を抱えながら、絶壁の崖を難なく駆け降りて行く?
コイツ…人間じゃないのか?人間離れし過ぎだろ?俺は都合の良い夢でも見ているのか?いや、見ると他にも三人いるじゃないか?彼達も同じく崖を難無く駆け降りていたのだ?
俺は夢でも見ているのだろうか?
この急斜面の崖を命綱もなしに?
いや!身体中の痛みが夢でないと実感出来る!
何者なんだ?
まさかの天才ロック・クライマー登場なのか?いや?待て!冷静に考えてみろ?天才ロック・クライマーってのはここまで出来るもんなのか?しかし実際、俺の目の前でそれを証明しているんだぜ?こいつ達は世界クラスのスペシャリストじゃないのか?ロック・クライマーの神様?マジにすげぇー!!
俺は意味不明に感激していた。
そして、彼等は安全だと思われる場所に俺を寝かされたのである。
身体が動かない上に痛みで意識が遠退いている。
ぼやけた頭で、俺は自分を助けた者を…いや、助けてくれたロック・クライマー達の会話を聞いていた。
その声の主は落下中の俺を受け止めてくれた大男に色白の銀髪の男。それに長髪の髪の赤い男?
三人は俺の事を話しているようだった。
「どうやらこの少年は、蛇の血に魂を喰われてはいないようだな?」
「うむ。しかし、これからどうなるか解らんぞ?」
「殺すか?」
殺す?俺を??
ちょっと待てよ!ロック・クライマーの神様達よ?
意味解らない!
殺すって何言ってるの?
それに蛇の血って何だ?
すると…
「待ちなさい!彼は、殺してはいけません!」
男三人に若い子供?違うな?これは女の声か?現れた女が三人の男達を止めたのだ。顔は見えないが恐らく俺と歳が同じくらいだろうか?
女子は俺に近寄り、倒れている俺を抱き抱えながら胸に手を置く。すると身体が白い光に包まれたのだ?
なんだ…これ?身体の痛みが引いていくようだ?
何か?気持ち…良…ぃ
癒しの力に俺はそのまま眠ってしまった。
「…これで、大丈夫です。それに、この若者からは何か縁のようなものを感じました」
そして、俺を助けてくれた謎の四人は、その場から消えて行ったのだった。
「ガァハァ!」
俺が目覚めた時、辺りは既に暗くなっていた。
どれくらい意識を失い眠っていたのだろう?
それに不思議だ?身体の痛みがないぞ?傷も塞がってる?怪我していたのが嘘のようだ?あの女子が何かしたのか?
嘘と言えば、あいつ達は結局何者だったんだ?もしかしてモノノケか何かか?ロック・クライマーに出来る芸当を遥かに越えてやがるしな?
う~~ん??
蛇塚「いや!こんな所で悩んでいる場合じゃない!考えるのは後だ!動けるなら直ぐにでも詩織を連れて、この島から出ないと!」
俺は起き上がると、急ぎ詩織のもとへと向かったのだった。詩織がいる里の付近まで来ると、昼間の賑わっていた時とうって代わり祭の準備が終わっていた。しかも準備をしていた者達が人っ子一人いなかったのだ?
俺は警戒しながら里に近付いていく。
なんか空気が重い?
なんだ?
この違和感は?
危険回避的な野性の感?
すると里の中心にあるファィヤーの前に数人の大人達がたむろっている事に気付いたのである。
何があったか解らない以上、誰かに状況を聞かなきゃいけないな?
俺は大人達のいる方向に向かおうとしたが、ゆっくりとその足を止め隠れたのだった。
俺は隠れられる木の裏に身を潜めて息を止めて、その場にいる大人達を覗くように見ていた。
嘘だろ…嘘だよな?
俺は夢を見ているのか?
俺が近付こうとした時、大人達に異変が起きている事に気付いた。
里の大人達は自分自身の首を絞めるようにもがいたかと思うと口を開いたのだ?
開いた?
そんなもんじゃない!異常だ!!
開いた口は裂かれ、顎から人間だった顔はめくれていき、現れたのは『蛇』の顔だったのだ!?
里の連中は、蛇頭の化け物へと変わり果てたのだ!
俺は信じられない顔で膝を震わせながら、口をふさぎ座り込む。
なんだ?
何だよ…あれ!
何かの催しか?
特殊メイクだよな?
違う!リアル過ぎる!!
化け物…化け物だ!
俺はパニクる頭を整理しようとしたが、納得出来る答えなんか見つかるはずもなかった。
ただ…
ここにいたら危険な事は理解した。
早く詩織を連れて、この島から逃げなきゃ…
『あの日みたいに…』
あの日みたいに?
あの日って何だ?
俺は以前にもこんな事があったのか?
だが、やはり俺の記憶に霧がかかったかのように思い出す事が出来なかった。
とにかく考えても埒があかねぇ!
俺は化け物に見付からないように身を潜めながら里に入り、建物や家の影に隠れながら詩織を探し始める。
…確か千亜が詩織を里に連れて行ったのだから?
俺が昔住んでいた家か?千亜の家か?
それとも千亜も俺を?
とにかく片っ端から探さなきゃ!
俺は昔ながらの古びた家の中を一軒一軒覗きながら、探す。
そもそも、この里の人口は二百いるかどうかだったよな?大丈夫!見つけられない数じゃない!
大丈夫!大丈夫!
自分自身に言い聞かせる。
俺は慎重に建物を梯子していった。だが、やはり見付からない…
何処にいるんだよ!
詩織!
次第に焦りが、俺を嫌な想像をかりたてる。
まさか…化け物に喰われてしまったんじゃ?
いや…贄に使うとか言っていたから、先にどうこうなんかしないはずだ!
じゃあ…何処に?何処にいるんだよ!
その時、里が騒がしくなり始めたのだ?
まさか…見付かった?
そうではなかった。
里を警備していた仲間が何者かによって殺されたのだと聞こえて来た。
まさか…さっき俺を助けてくれた連中の仕業か?
蛇頭の村人達は家から出て来て侵入者を探し始める。
ヤバい!
このままじゃ、俺も見付かっちまうじゃないか?
俺は身を隠せられる場所を探した。
その時…
置いてあったバケツに足を引っ掛けてしまったのだ!
『あっちから変な音がしなかったか?』
俺の隠れているこちらへと向かって来る化け物達!
俺は咄嗟に扉の開いていた家に飛び込んでしまったのだ。
『そこにいるのは誰?』
中から声がした?
誰かいるのか?
ヤバい!
騒がれて、外の奴らを呼ばれたら終わりだ!
そう思った時…
中にいた人間は俺の手を引っ張り、部屋の奥に隠したのだ?
俺は何が何だか解らなかったが、言われるがまま隠れた。同時に入り口から里の男達の声が聞こえる。
『今、ここに不審な奴が入って来なかったか?』
その問いに…
『いいえ?ここには私しかいませんよ?』
と?
俺をかくまってくれたのか?助けてくれたのか?
男達の気配が消えて、外の奴らがいなくなったのを確かめた後、改めて俺を助けてくれた人物を見たのだった。
その女性は俺の知る人物だった。
蛇塚『おばちゃん!』
次回予告
三蔵「なあ?今回登場したロッククライマーって、やっぱり?」
蛇塚「シャラップ!!」
三蔵「何だよ?」
蛇塚「それは、まだ秘密だ!正体が直ぐに解ったら先がつまらないだろ?」
三蔵「・・・解らない奴いるのか?」
蛇塚「ここから読んだ読者がいるかもしれないだろうが?空気読めよな!」
三蔵「そんな奴、いるか!!」




