何も出来ねぇ・・・
蛇塚より語られる過去の物語
それは出会いと別れの物語
『蛇神降ろし編』開幕!
これは三蔵が俺達の前に現れる六年も前の話。
う…う~ん…
下校の鐘が聞こえる?
いつからだろう?
確か昼を食べた後から記憶がない?
俺は机に顔を伏せて眠りこけていた。
あ…もう下校時間か?
俺が顔を上げると、クラスメートの連中がニヤケながら俺に話し掛けて来た。
友人「おぃ?いつまで寝てんだよ?軍斗!明日から夏休みなんだから最終日くらい起きてろよな?」
俺はまだ寝惚けながら答えた。
俺「夏休み?あ~そういえば…そうだったなぁ?だったら、もう少し早く起こしてくれよ!」
すると、グラスの連中は、
友人「お前の居眠り時間最高記録を賭けてたんだよ!」
俺「はっ?」
友人「下校チャイムまで爆睡かどうかをな!」
俺がいつ起きるかで、下校途中に行くカラオケを誰が奢るかを賭けていたらしい。迷惑な話だ…
友人「軍斗は夏休み何処か行くのか?」
俺は考える事なく答えた。
俺「夏休みか…無理だろうなぁ?病院に通わないといけないし、バイトもあるしな?」
すると、周りの連中は黙り込んでしまった。
悪気なく聞いた質問に対して、俺の返答を理解したからだった。
こいつ達は俺の家庭状況を知っている。
俺は幼い頃より両親と離れて住んでいる。
そんな俺には唯一妹がいるのだ。その妹は原因不明の足の病で学校近くの病院で長期入院し、車椅子生活を送っているのだ。
俺はその妹のために、毎日欠かさずに病院通いをしていた。
そんで夜中に朝までバイトに明け暮れ、昼間は学校。
それが俺の学生生活。
まぁ…学校は寝るために来ているだけなんだけどな。
しかし明日から夏休みか…
俺は立ち上がると、場の空気が悪くなったクラスの連中に向かって言った。
「気にするなよ!」
そして俺はクラスの連中を残して、笑って教室を出て行ったのだ。
悪いが同情は勘弁頼む!てな話さ…
俺の名前は蛇塚軍斗!
髪は金髪。一見、ヤンキーに見られがちだが…
ごく普通の…
いや、ほんの違うか?
少し曰くつきの高校生だ!
と、言うのは…
俺が一人廊下を歩いていると、目の前から三人連れの女子が向かって来る。
はぁ…
またか……
また、見えちまった。
俺はすれ違い様、突然、その真ん中を歩く女子に怒鳴り付けてやった。
蛇塚「テメェの身体がどうなろうと構わねぇがよ!失ったもんの気持ちを、少しは感じて見ろよ!」
そう言って、その女子の肩を軽く手で払った。
女子達は突然の出来事にア然としていたが…
「何!あいつ!セクハラ?気持ち悪い!突然、触ったわよ!」
「何かされなかった?ゆかり?」
俺に突然、怒鳴られた女子は…
「だ…大丈夫…だけど…」
この女子は「まさか?」と言う顔付きで、振り向かず歩いて行く俺を見ていた。
俺はそのまま屋上へと向かった。
蛇塚「あの女…」
見た感じ『普通』の女子高生のようだが、なおさら腹がたつ!
俺の手には、今さっきの女の肩に乗っていたソレが優しく握られていた。
守るように…
俺は屋上に上がると、周りに誰もいないかを確かめた後、ソレに向かって語り掛けたのだ。
蛇塚「俺には何も出来ねぇ…ただ、お前のために泣いてやるしかな…」
俺はソレを抱きしめ泣いていたのだ。
すると、ソレは…
(どうして泣くの?お兄ちゃんは、どうしてママから僕を引き離したの?どうして?どうして?)
ソレとは…
産まれてくるはずだった魂だった。あの女は…
肩に水子の魂を乗せていたのだ。
水子[ミズコ]とは産まれて来れなかった赤子の魂。赤子の無念の霊の事!
産まれたかった…
抱きしめられたかった…
愛されたかった…
それが叶わずに…
存在すらも気付かれずに…
切り捨てられ消えていく魂…
その魂を相手に俺は語りかけ抱きしめ、泣いてやるしか出来なかった。
そうなんだ…
俺にはそう言った霊魂が見える体質なんだ。
見える…本当に、ただ見えるだけ…
他には何も出来ねぇ…
その時の俺は知識も手段も何も解らないただのガキだった。
だから俺は、その悲しい魂のために泣いてやる。
せめて…
俺くらいは、お前の存在に気付いてやりたい…
気持ちを解ってやりたい…
お前の悲しみを!
クソッ!
あの女は、どうやら…
そう言う事らしい。
遊びの延長?本気?関係ねぇよ!身体の関係だけもって、デキテしまったら…
育てられないからと切り捨てるなんて!
学生だから仕方ない?
育てられないから諦める?
責任なんてもてないくせに…
自分自身を被害者だと言い訳して、この魂を…
オロシタ…
姿が見えないから楽だったか?
まだ表に出ていなかったから何も思わなかったのか?
ふざけんなよ!
魂はあるんだ…
あるんだよ…
お前がした事は…
オロス=コロスって事なんだよぉ!
恋愛を身体の関係だと勘違いしている連中が多過ぎる世の中、俺はそういう霊魂を何度も目にしている。
中には、姿がままならい形の魂もあった。泣いて叫んで苦しみながら、後悔しながら消えた赤子の魂…
苦しいよ…悲しいよ…
どうして?どうして?
と、泣きながら訴え消えていく…
お前達のせいじゃねぇ…
悪いのは、「今」生きている者達なのだから!
だが、俺が一人騒いでも何も変わらない…
痛いほど知っている。
過去にも何度かあった。
そん時、俺は周りから狂人扱いされたっけな?
誰も霊魂なんて信じなかったから…
何度か少年院や病院に送られた事もある。
だから、その時の俺は諦める事にした。
この世の中に救いなんてないのだと…
世の中の不条理に俺は落胆したのだった。
だから俺には、泣いてやる事しか出来ねぇんだよ…
ごめんな?
無念だよな?
辛いよな?
俺が抱きしめてやるよ…
俺が…
お前達を愛してやるから…
だから…
再び産まれてくる事を諦めないでくれよ?
きっと…
今度こそ…
お前達を愛してくれる親が現れるから…
お前達は今度こそ生きて幸せになれるからさ?
愛されるから…
お前達だけは諦めないでくれよ…
そう。諦めたら…
不幸である事を受け入れてしまう事になる。幸せを放棄してしまうんだ!
それだけはダメなんだよ!
泣いて訴える俺に赤子の霊は言った。
(泣かないで…お兄ちゃん…僕は…もう…逝くよ…
今度は…産んでくれるママに…
ママに……)
赤子の魂は涙を流しながら昇って逝った。
これで良かったのか解らない。
そして俺はその赤子の魂を見送る。赤子は最後に俺に言った…
(今度は…ママに必要にされたいな…)
と…
俺は、また泣いた。
そして力尽き、俺は一人、屋上で意識を失ってしまった。魂を送るってのは、それだけの「力」が必要なんだ…
後に俺の師に聞いたら、それもまた供養なのだと聞いた。念仏も言葉を使った言霊を使い、霊の魂を霊界へ送るのだが、俺は感情と思いを乗せた泣くと言う言霊を使い、無意識に霊界への道を作ったのだと。
俺は馬鹿だから見て見ぬふりは出来ねぇ…
だから、今みたいな供養を幾度と繰り返した事か?
馬鹿だなぁ…俺…
数時間後、
目覚めた俺は学校を飛び出し、急ぎ足で駆け出した。
急がないと…
着いた場所は病院だった。
正直、病院は苦手だ。
言わずと無駄に見えて仕方ないからなのだが、だが、アイツが待っているから仕方ない…
俺の愛するアイツに…
俺は行き慣れた病室にまで行くと部屋には一人の少女がいた。少女は俺に気づくと笑みを見せて俺を出迎えてくれた。
少女と言っても、俺より二つ下の14歳。細身の色白の透き通った肌に、整った顔立ち。髪は背中まで伸びた茶色…あ、染めている訳じゃないぜ?地毛で薄い茶色の髪なんだ。
蛇塚「遅れてごめんな?待ったか?」
その少女は俺の…
「お兄ちゃん…」
蛇塚詩織。
俺の自慢の妹だ!
蛇塚「調子はどうだ?」
詩織「もぅ!調子も何も私は足が使えないだけで、他には何処も悪い訳じゃないんだから!」
妹の詩織は原因不明の病気で足が不自由だった。なので、部屋の隅にはいつも車椅子が置かれていた。
蛇塚「そうだったな…でもよ?何かあったら心配だろ?兄ちゃんやお医者さんに何でも言うんだぞ?」
詩織「お兄ちゃん過保護過ぎだよ!」
蛇塚「そうか?全然普通だよ?」
俺は妹を車椅子に乗せて病院の外に散歩に出た。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
さっき詩織はそう言っていたが、幾度と原因不明の貧血で倒れる事があった。
それは詩織にも、少なからず俺と同じ力があったからじゃないか?
苦しみもがく霊魂の念を受けやすいのだろう…
だが、やはりその時の無知な俺にはどうしてやれば良いのか解らないし、何も出来なかった。
詩織「風…気持ち良いね」
蛇塚「寒くないか?」
詩織「うん。大丈夫」
俺が唯一心を許せ、落ち着ける時間。それが、妹と一緒の時間だった。
詩織には過保護だとか言われているが、俺が妹に救われているのかもしれない。
何故なら俺は、いつも孤独感が拭えなかったから…
俺は周りの奴達と違うから!
そんな俺が唯一、心を許せる相手が妹の詩織なのだから…
しばらく詩織と話をしてから、俺は詩織を病室に戻した後、
蛇塚「また来るからな!」
詩織「ありがとう…お兄ちゃん!」
一人、俺は住んでいるアパートに帰って行く。
辺りは、もう暗くなっていた。
正直、誰もいない部屋に帰るのはどうしようもなく虚しい。
俺はいつもの習慣でポストに手を突っ込むと、中には一通の手紙が入っていた?
差し出し人は…
俺と詩織と離れて暮らす父親からだった。
(親父?珍しいな…てか、手紙なんか初めてじゃないか?)
そして、手紙にはこう書かれていたのだ。
【軍斗、戻って来い。近いうちに儀式が行われる事になった。詩織を連れて里に戻るべし。…父より】
儀式?
あぁ…あの祭の事か…
確か十年くらい前にもあったような?
あれ?どんな祭だったかな?
記憶にない…
確かに昔…
その時、俺の視界がふらついたのである。
あれ?
記憶の中に霧が?
頭が割れるように痛む!
ダメだ…
もう考えるのは止めよう…
俺は倒れるように部屋に入り、そのまま眠ってしまったのだった。
儀式か…
行かなきゃ…な…
どうして?
解らない…
ダメだ…頭が回らない…
意識が…
そして俺は眠りについたのだった。
その儀式が俺と詩織の運命を変える事とは知らずに…
あの惨劇が待ち受けていようとは、その時の俺に知るよしはなかった。
次回予告
蛇塚「あの日の俺は・・・
まだ、何も出来ないガキだった」




