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5.始まりに予告ナシ 前編

この話は第0話からの続きとなります

昭和20年3月29日 0:03

2人の歩哨が故郷よりマシだが春の訪れはまだ先の北海道の寒空の下を歩いている、この巡回が終われば彼らには少し冷めたとはいえ多少の温もりが残る夜食が待っていた。

「おい、ちょっと待ってくれ」

歩哨の一人が相方を止めた。

「どうした?」

相方はライフルの引き金に指をかけながら尋ねた。

「わりぃ、小便だ」

そう言って男はすぐ傍の茂みへと向かっていった。それを見た相方は引き金にかけた指を外し男に背を向けてタバコを取り出し火を付けた。彼らは完全に警戒を解いてしまった為、息を殺して近づく影に気付く事はなかった。

用を済ませた男は相方がタバコを吸っているのを見て自分も吸おうと思いタバコを取り出して火を点けようとした瞬間

パキ

背後から何かが聞こえた、彼は振り返ると目には自分めがけて振り抜かれようとするスコップが写り、それが彼が最後に見た物となった。

彼の相方は背後から何かが倒れる音を聞きとっさに銃を構えようとしたができなかった。いつの間にか自身の口を塞がれ、喉に銃剣が刺さっていたのだ。

このように中島小隊の面々は歩哨を排除しつつ、周辺を探索し脅威はないものと判断し本隊の方向に懐中電灯で合図を送った。

「大隊長殿、合図が」

中島隊のいる方向を見ていた藤木少尉が西野に伝えた。

「来たか、全隊に命令、作戦始め」

西野の号令で各隊は動き目標へ向かった。


「なるほど、確かに酒盛りですね」

家の壁に張り付き中の声を聞いた西野は感想を漏らした。

「如何します?」

西野に同行していた飛行服姿の竹下中尉が西野に尋ねた。

「とりあえず」

ここまで言って西野は口を閉じた。

家の勝手口が開き中から兵士が出てきたのである。勝手口から程近い西野達は石のように固まり、周りにいた者達は地に伏せ息を押し殺していた。

兵士は彼らの必死の思いとは逆に陽気な千鳥足で外にあった便所へと向かっていった、それを見た日本兵たちは安堵し一番近くにいた兵がソ連兵を始末した。

「とりあえず、相手はかなり油断していると判断します。そこで強襲をかけます。最初の予定通り一個分隊を包囲のために配置して一個小隊で玄関より突入、酒盛りの声が聞こえた所まで一気に行きます」

ここまで言って竹下と小隊長達を見たが問題はないようなので続けた。

「勝手口からは一個小隊が突入、他の部屋をシラミ潰しに捜索、残りを片付けてください」

「質問よろしいでしょうか?」

竹下中尉が手を挙げた。

「なんでしょう?」

「そうなると小隊が一つ余りますがそれはいかがしますか?」

「それについては分隊単位でバラして包囲部隊、玄関、勝手口に配置してください、少しでも数が欲しいですから、それと当初の予定通り可能ならば通信機と暗号表を抑えますが不可能な場合は諦めますので無理はせず短時間で制圧する事に専念してください」

「はい」

今度は質問はなかった。

「では時間合わせ、まもなく00:25……今。10分後に玄関から突入が開始の合図、竹下中隊長、厩舎隊に現状報告せよと伝令を」

そう言って西野は藤木を伴い玄関に足を向けた。



長くなるのでここまでにします。

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