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33.まだ続く中でのエピローグ

 昭和20年5月3日 未明 苫小牧市内

独立混成大隊に所属する工兵隊員は苫小牧市内をソ連兵の目を掻い潜りながら駆け回っていた。

「!!、富士!!」

「桜!!」

目の前の曲がり角から日本語が聞こえとっさに合言葉を叫んでしまい慌てて彼は周りを見回した。相手も辺りを見回しながら曲がり角から出てきた。

「バカ。デカイ声出すなよ」

呆れながらその下士官が言ったが、相手の少尉の階級章を見るなり慌てて敬礼をした。少尉も「悪い、悪い」と顔に出しながら答礼した。

「司令部輜重科の中原だ。曹長、君の所の進捗状況は?」

「はっ、工作第3班。9割方完了。現在、不足分補充の為、爆薬及び信管を確認中」

「よろしい、ちょうどいい。中井、林」

今度は小声で自分の部下を手招きして呼び寄せた。彼らは大きな背嚢を担ぎそれを見た曹長は行商人を連想した。

「それならいくつか運んでいた。これで足りるか?」

「少々、お待ちを……あ、これだけあれば丁度足ります」

下した背嚢を開け、不足分を計算してみるとちょうどといったところだ。

「わかった。これはこのまま置いていく。作業急げ。もう撤収始めている班がいるぞ」

「はい」

曹長の返事を聞かず少尉は部下を連れ走り去った。曹長も自分の部下に発破をかけ仕事に取り掛かった。


同時刻 同市内郊外

日ソ戦直前までの経済発展により本土からの物資の搬入、夕張からの石炭の輸出の為に発達したこの街は港湾労働者の住居確保の為に市郊外に公営住宅建設等の都市開発計画が行われていたがこの状況下では当然の様にその現場は放置され占領したソ連軍はいくつかの施設を接収し兵舎等に使用していたが交通の便が悪い基礎工事がようやく終わった程度など様々な理由で接収を免れた建物があり西野はその中の一つで積雪で道が塞がれた建設会社の事務所として使っていた掘っ立て小屋に陣取っていた。

「4時か」

小屋にあった壁掛け時計と腕時計で時間を確認しながら作業の進捗状況をまとめた紙を見ていた。小屋には通信課員が工作班から逐一入ってくる報告を受けていた。

「了解。そのまま作業を。……聞こえづらいはね。ちょっと電池」

通信士の倉間が部下にそう言った。部下は電池の状況を示すメーターを見てすぐさま手漕ぎ式発電機を電池に繋ぎハンドルを回し始めた。

「通信、状況どうだ?」

西野が倉間に話し掛け倉間は手元のメモ帳を渡しながら今までの状況を報告した。

「市内の工作班はいいな、工作班に再度準備完了した班から撤収しろと言え。弾着観測班の陣地構築が遅れているから戻ってきた工作班から応援を回せ。観測班には機材と地図の確認を並行してやらせろ。復唱よろしい」

「はい。充電どう?」

西野の命令をメモにまとめて椅子に座るなり部下に聞いたが返事を待たずヘッドホンとマイクに手を伸ばした。

「独立混成――」

(もっと早くに死んでなきゃいけない俺達がまさか反抗作戦まで生き残っているとはな正直想像もつかなかったな)

倉間の声を聴きながら西野は手元の封筒を見ながらそう思っていた。その封筒は来号作戦時に受け取りこのあ号作戦に参加せよの命令と同時に開封した命令書であった、それには友軍上陸作戦終了後に志願者の後送と除隊許可が書かれていた。しかし、作戦直前に士官経由で聞き取ると志願者はいなかった。散々苦労させられた手前おいしいトコをよそに持ってかれる事が気に食わなかった者、仲間に対する責任感、罪悪感がそうさせた者、思いはそれぞれだろうが指揮する側としては『ありがたいっちゃありがたい』そう思う西野であった。

 苫小牧奪還作戦あ号作戦まであと2時間を切っていた中の出来事であった。

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