2.転進 寄せ集めの始まり
命令受領後、西野は持ち場である会計課のドアを開けた。
「気を―」
西野が入ってきたことに気づいた鈴原上等兵が号令をかけようとしたのを西野は制した。
「皆よく聞け、現時点を持ってココは放棄される」
そう聞いて課員たちはそれぞれの反応を示したが西野はそれに構わず続きを言った。
「とりあえず、我々は行動指針に基づき指定された集合地点に向かう。直ちに準備始め、質問は移動中に」
それだけ言って自分の机に向かい引き出しからイタリア出張の土産であったベレッタを取り出しホルスターに収めた。部屋にいた課員たちもそれぞれが侵攻開始から出されていた命令により手元に置いていた装備各種を取り出し装備していた。
「各自、準備しながら聞け、我々はこれよりここを出て円山の方に向かう、途中露助と交戦中の部隊と遭遇したらその部隊に転進命令を伝えてその部隊を集合予定地点に向かわせる、原隊とはぐれた者とあったら命令を伝えて我々と行動させる。集合地点到達時に指令書を開封して確認するよう命令が出ている」
西野が話しているうちに準備を済ませた課員達は最後の点検も終え、西野の次に階級が高い鮫島中尉が西野に報告した。
「課長代理殿、会計課総員12名移動用意完了」
「はい、ご苦労では行くか」
そう言って会計課員は西野に率いられ札幌の街に飛び出した。
1時間後
「大尉殿、11時方向に人影」
西野の前方で不格好な形ながら警戒していた兵が、視線を外さずに報告した。
「!、総員静かにしろ、戦闘態勢」
水筒に手を伸ばしかけた手を拳銃に添え直して西野も兵が示した方向にある暗がりに目を凝らした。
「・・・・・・誰か」
警戒していた兵は西野達よりも近かった為に暗がりのシルエットが日本兵に見えたので思い切って誰何した。
「ふ、富士!!」
向こうが答えた。
「桜」
コチラがそう答えて安心したのか物陰から周囲を警戒しながら出てきた人影は憲兵の腕章をつけた若い士官であった。
「良かった、やっと会えた。」
憔悴しきった顔で士官はそう言った。
「どこの者だ?」
残りが少なくなってきた水筒を差し出しながら西野が訪ねた。
「札幌憲兵隊、藤木少尉であります」
「司令部の西野大尉だ。少尉、君以外は誰もいないのか?」
水筒の水に口を付けかけた藤木は思い出したように言った。
「自分は負傷した仲間の救助を求めて友軍を探しておりました」
「負傷?容態は?」
「はい、怪我自体は大したことはないようですが下半身がガレキに埋もれて身動きができません」
「そうか、手を貸そう。他の者は?」
「自分とヤツ以外は・・・・・・」
悔しそうに唇を噛んでいた。
「そうか、ご苦労さん。救助は自分の所がやろう場所を」
そう言って西野は藤木の肩を叩き案内させた。
負傷者は西野達の手伝いでなんとかガレキから脱出し、西野からの通達された命令に従い行動を供にする事になった。
途中、指揮系統の分断で孤立していた中隊と遭遇し、通達をしたところ集合地点が同じだった為一緒に向かう事となり西野達は夜の内に集合地点にたどり着く事が出来たのである。