28.喰われない為のもがき
ソ連陸軍第41砲兵師団12高射砲連隊は蜂の巣を突いた様な騒ぎの最中にあった。
「早く旋回させろ!!ヤポンスキーは待ってはくれんぞ!!」
「弾薬輸送中隊か?徹甲弾なんざ持ってくんじゃない!!榴弾持って来い!!榴弾を!!何だと?車が出払ってるって?じゃあその辺の奴捕まえて人力で持って来い。このボケ!!」
「第3自走機関砲小隊は給油完了次第出発だ。弾薬、定数あるか確認しとけ」
「コッチの蛸壺、土嚢が足りないぞ。誰か持って来い」
「レーダーは目標の位置、再確認しとけ」
この状況は連隊司令部のテントも同様であり麾下部隊と師団司令部からの電話で4基設置されていた電話は直ぐに塞がり、通信機も通信士の技量を遥かに超えた為に通信士の教育を受けていない司令部要員までその補佐に駆り出され、テントの入り口には繋がらない通信に業を煮やした各指揮官達が派遣した伝令が列をなす事態であった。
その中でも数少ない喧騒から離れていた防空監視所にいた若い兵士はその喧騒を見下ろしながら監視任務に就いていた。
「すげぇモンだ。こんなトコまで怒声が聞こえるなんて」
隣の相棒に聞こえる様にぼやいた。
「ま、仕方ないんじゃないか?ここに展開してから今まで戦闘らしい戦闘なんざ時々、千歳だっけ?あそこからたまに来る偵察機程度でまともな空襲なんて初めてだからな」
咥え煙草で双眼鏡から目を離さずに言った。
「そう言うお前はなんで落ち着いてんだよ?」
「そうか?俺はクルスクの時にナチの空襲なら経験あるからな」
「ああ、経験者か。いいよな俺なんざナチが帰っちまった後でモスクワの守備隊にいたのがこの新品師団行けって言われて気が付いた時にはこんなトコだもんな」
「そりゃついてないな。おっと、こちら第2監視所。――はい。了解。おい、コッチに来るってよ」
相棒は上官からの通信で聞いた方角を指さしながら言った。
「ホントか!!くそ!!あいつか」
双眼鏡に見えた黒い粒を見ながら叫んだ。その粒はどんどん大きくなり肉眼でもその存在が分かる様になった。その時、彼らのいる監視所のしたからエンジン音が響き下を見ると2輌のZSU37自走機関砲が監視所のすぐそばに止まりその砲身を天に向け撃ち始めた。
「馬鹿野郎、こんな所で――」
監視所の二人は同じ様な事を言おうとしたが敵機から何かが白煙を伸ばしながら飛んで来たのを見て頭を抱えながら床に伏せた。それは不規則な動きをしながらZSUに襲い掛かり1輌は足元に集中して着弾しキャタピラを引き千切られて横転し、もう1輌はロケットが戦闘室に着弾し機関砲ごと乗員を葬り去った。その内1発が対空監視所の基部に命中し監視所は隣に建てられていた兵舎を巻き込んで倒れた。その様子を見る事無く航空隊は通り過ぎ。最優先撃破目標を探し始めた。




