27.鮫に襲われた魚をカモメが食らう
ソ連海軍輸送艦「第32号」
「対空戦闘用意」
埠頭の端っこに停泊していた為に難を逃れたこの船はレーダーに捉えた影の正体にいち早く気付いた為に迎撃態勢を整えようとしていた。
「くそ、なんで輸送艦でこんな真似しなくちゃいけないんだよ」
この艦の2基しかない高角砲を指揮する砲術長がぼやいた。
「仕方ありませんよ。他があの様ですから」
隣にいた下士官が射撃管制装置に入力しながら言った。
「ったく。砲術長より艦長、高角砲および機関砲準備完了」
「よろしい。目標、射程入り次第攻撃開始」
「砲術長、了解」
彼は受話器を叩き付ける様に置いた。
「せめて、チャパエフさえいてくれれば」
「無理ですって。あの状況なら誰だって潜水艦を追い掛けますよ」
「そりゃ解っちゃいるが、今の状況ならあいつらの対空火器をあてにしたいってもんだ」
軽巡チャパエフは先程の雷撃の際に偶然、伊91の潜望鏡を見つけ攻撃しようとしたが伊91が時間稼ぎの為に放った魚雷を回避した際に伊94が別の艦を狙って放った魚雷のコースに入ってしまうという不幸に見舞われ弾薬庫および燃料タンクに計3本命中し、跡形もなく沈んでしまった。
「射程に間もなく入ります」
艦橋からレーダー員が報告してきた。
「……。高角砲、撃ち方用意。撃て!!」
赤松隊 隊長機
「盛大に(警報が)鳴り響いている割には湿気たお出迎えだなあ」
まばらな対空射撃に彼は思わず口に出ていた。
「見たところ、まともに対空射撃している艦船はあの貨物船ぐらいですね。どうします?」
「まあ、命令通りにしとけ。第3小隊にやらせろ」
「了解」
(大人しくしていれば見逃せたってのに……)
宇野に聞こえない様に胸の中で赤松は思った。
「残りは……第2小隊、あの港湾管理局の所にある高角砲狙う、ついでにレーダーも潰せ。第1と第4小隊、俺に続け。郊外にある砲兵師団の陣地に向かうぞ。第3にも片づけ次第合流しろと伝えろ第5小隊は市内にいる自走対空砲を捜索して攻撃」
矢継ぎ早に命令を出した。
赤松隊第3小隊
「よりにもよって貨物船かよ」
吐き捨てるように2番機の隊員が言った。
「まあまあ、さっさと片付けりゃいいんだから。それよりそんなこと言った相手に弾薬浪費するなよ片づけた頃には葛城に帰らなきゃならないってのはゴメンだぞ」
相棒が宥めつつ釘を刺した。
「ああ、見てろよ直ぐに片付けっから」
相手の攻撃を巧みにかわしながら彼は狙いを付けボタンを押した。それに反応して翼からは流星で運用する為に開発されたRATOをベースに開発した120キロロケット弾が放たれた。それは不安定な軌道を描きながら彼の狙い通りに艦橋を直撃し、120キロ弾の割に景気よく燃え上がった。
「どうだ!!」
「直撃だ。他も上出来だな」
貨物船を一旦フライパスして旋回するとそこに対空火器を完全に潰された姿が確認できた。
「よくやった。全機、損傷は?」
小隊長が聞いてきた。それに各機は異常なしと答えた。
「全機、編隊を組みなおせ。合流する。警戒を厳に、死んだフリしている奴に注意しろ」
彼らは編隊を組み直し味方との合流を急いだ。




