26.喧騒には更なる喧騒を
苫小牧港
湾内は先程受けた奇襲の後始末で喧騒に包まれていた。
「早く砲弾捨てろ。火が回るぞ!!」
「さっき頼んだパッキンどうした?これ以上、浸水が悪化する前に交換しないと」
「ランチ、準備は?救命筏も準備しろ軽傷者はそっちに乗せて自力で陸に揚げろ」
「2番砲塔は消火不能。魚雷投棄の許可を」
「軽傷者の離艦は許可できない。応急処置後は、速やかにダメコンの応援に向かわせろ」
「第2機関室は閉鎖だ!!閉鎖!!機関科はすぐにそこから離れろ!!扉閉めちまうぞ。急げ!!」
「港湾司令部より掃海艇11号へ総員離艦を許可する。速やかに離艦し、乗員は司令部に出頭せよ」
「何度言わせればわかるんだ?襲撃だ!!日本の潜水艦にやられた。なんでもいいから索敵機出せ。ああ?そんなもんわかっとる!!1機でもいいからさっさと出せ」
「終わりだ……どっちだ?シベリアか?粛清か?」
「同志司令。そんな事している暇があったらすぐさま対処したまえこれの対応如何でシベリア送りで済むかもしれんぞ?」
このような声があちこちから聞こえる中、港湾司令部のレーダー室は必要最低限の人員を残し何とか機能していた。
「ん?」
この時レーダー画面を見ていたのは先週配属された新人であり南東に見える反応に判断に迷った。彼はとりあえず警報用に備え付けられたスピーカーで上官を呼び出す事にした。これは後々に少なくない命を救う事になるのだがこの時点では彼は分かる筈がなかった。
「どうした?」
「はい、先程から南東に反応があるのですがエラーでしょうか?友軍機でしょうか?」
「見せてみろ」
そう言って上官の中尉はレーダー画面を覗き込み光点の動きを観察し始めた。始めてさほど時間が掛からない内に彼の顔は青ざめた。中尉はすぐさまベルトに下げていた鍵束を取ろうとして手を滑らして落としたのを慌てて拾った。
「中尉?」
「よく見つけた。これは敵だ」
拾って必要なカギを探しながら言った。
「え?」
「わが軍の機体にしては数も速度もおかしい」
「そんなヤポンスキーの空母はずっと南にいるんじゃ……」
「1隻、2隻ぐらい別働隊で行動していてもおかしくなかろう」
ようやく目当てのカギを見つけた中尉はそれを警報装置に差し込んで警報を鳴らした。立ち所に空襲警報が先程からの喧騒を掻き消した。
一方その光点は
「ゴホッ」
サイダーを喉に流し込んだ瞬間むせそうになるのを赤松は堪えた。
「隊長。もうすぐですがトツレは?」
「ゲホ、もうか?よし、トツレ。すぐに整えろ。笹井隊長にもよろしく伝えとけ」
「了解」
「さあ、やるか。とんでもねぇ大穴開けてやる」
獰猛な笑顔を浮かべながら赤松は兵装の安全装置を解除した。




