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23.欺瞞作戦 1

 ソ連航空機接近による存在露見の危機を脱した宇垣艦隊は回収作業を再開し、最後の収容者達が浜を離れた時、苫小牧の沖合では自分達の出番を静かに待つ者がいた。


『伊91』発令所

真木艦長は先程から何度も時計を見たい衝動を必死に押し殺していた。時間が来れば先任に声を掛けるように頼んでいたがやはり自分で確認しておきたかった。とは言え指揮官である自分がそわそわしていては士気に関わるという一点で堪えていた。

「艦長、お時間です」

発令所の時計と自分の時計を確認した先任の声で真木は先程からの思いから解放された。

「よし、配置に付け!!潜望鏡!!」

艦内は音を立てないように配置につく乗員の気配に包まれた。真木はその気配を感じつつ潜望鏡を覗き込みすぐさま獲物を確認して潜望鏡を引っ込めた。

「真正面、距離8000に特型モドキが横腹を向けている。アレを狙うぞ。航海長、進路このまま、両舷前進微速。距離を6000に詰めて確実に始末するぞ」

「進路そのまま、両舷前進微速。了解」

航海長が復唱し、海図で移動の時間の計算始めた。

「艦長、僚艦もそれぞれ動き出しました」

「よろしい、そのまま僚艦と敵艦の動きに注意」

「了解」

聴音の報告にすぐさま指示を出し、真木は艦内放送に繋がせてマイクを取った。

「達する。これより本艦は当初の命令通り苫小牧港に停泊中のソ連艦隊に対する攻撃に入る。まずはここまで敵に見つかる事なくここまでこれた事を諸君らに感謝する。あと少しで我々の苦労は報われる事になるだろうがここまで来たのだからこちらの攻撃が済むまでは敵に気付かれる事がないように細心の注意を持って任務に当たって貰いたい。後、せっかくの獲物を僚艦に取られない事も切に願って欲しい」

状況が状況なので可能な限り音量を抑えて真木は訓示をした。

その間にも『伊91』は攻撃地点にゆっくりと進み真木の指示したポイントに到達した。

「聴音どうだ?」

真木は一番懸念している事を確かめた。

「3分ほど前から機関音が上がっていますがゆっくりとしたペースです」

「…………。先任、どう思う?」

「哨戒の為に準備に入ったと言う所ではないでしょうか。どのみち一気に動き出せる状態ではないと思います。聴音、目標から機関音以外に何か聞こえるか?」

「いえ、何も聞こえません」

「艦長、すぐに撃って損はありません。あまり時間を掛けると動き出します」

先任のこの言葉に真木は決断した。

「発射管、1番、2番。注水。完了次第、扉開け」

「了解」

先任が答え発射管室へ命令を伝えた、艦首の方から独特の音が聞こえ『伊91』は戦闘態勢を整えた。この間、真木は潜望鏡で相手を確認したかったが発見のリスクを考え自重した。

「1、2番発射用意、よし」

「てぇ―――!!!」

真木の声で魚雷は景気よく飛び出した。


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