22.回収作戦 4
『葉月』
「目標はまっすぐこちらに来ます」
電探室からの報告に見張り員と共に防空指揮所で相手を確認しようとしていた艦長は見張り員にハッパを掛けた。
「いいか。少しでも早く相手を確認しろ。敵さんならすぐさま通報しないと味方に迷惑が掛かるぞ」
電探室からの報告に見張り員と共に防空指揮所で相手を確認しようとしていた艦長は双眼鏡を離さずに見張り員にハッパを掛けた。
「……!!艦長!!目標は四発。友軍機にあらず!!」
見張り員の一人が大声で怒鳴った。
「見えたのか?」
「いえ、微かに聞こえる音が単発にしては音がデカすぎます。また、一瞬だけ見えた影は下駄履きには見えませんでした」
「…………」
(どうする?もう少し近づいて相手を確認するのも手だが高度を下げてるようだから相手が敵ならこちらを見つけ次第機銃掃射されるかもしれん。それに時間も惜しい……)
数秒だけ考え艦長は決断した。
「酒匂に警報。『敵機接近の恐れアリ』だ」
「艦長、それでは……」
先任が何か言おうとしたが艦長はそれを止めた。
「艦隊に危険を知らせるのが優先だ。急げ!!砲術長、対空戦闘用意。航海長、回避運動取りつつ艦隊と合流するぞ!!」
『B24』
「目標から電波が発信」
通信士が機長に報告した。
「本機への問い合わせか?」
通信ではなく電波と言った事に疑問を持ちながら通信士に聞いた。
「いえ、周波数が違うようでそうではありません。ただ強力な電波らしく通信機にノイズが入っています」
「おい、もう少し高度落とすぞ。機銃はいつでも撃てるか?」
各機銃座から問題ない事を確認した機長は一気に高度を下げていった。
『葉月』
「見えた!!目標はB24」
この報告で『葉月』はすぐさま迎撃しようとしたが相手は高度を下げると同時に最大まで速度を上げていたのと霧で最終的な確認が遅れた為にかなり接近した状態であった為に使える物は機銃と機関砲だけであった。B24も日本の艦と確認したと同時に機銃を盛大に撃ちまくって『葉月』の機銃員を薙ぎ倒して吹き飛ばされた機銃員の体の一部が機体に当たるぐらいの接触スレスレの高度で『葉月』をフライパスしていった。
『酒匂』
「目標、『葉月』を突破して艦隊に接近中」
通信室が努めて冷静に報告した。
「いよいよか。射管、目標の追尾はどうか?」
管制室でその報告を聞いていた多川が同じ管制室に詰めていた射管長に確認した。
「問題なし。機材は異常は認められません」
管制装置を管制室に設けられた窓から目視で確認しつつ射管長が報告した。
「よし、1番用意。2番は次弾発射に備え」
この命令で発射機は仰角を付ける為に動き始めた。
「完了」
「1番発射!!」
多川は発射ボタンを強く押しながら言った。それによりカタパルトが5式誘導弾を撃ち出しすぐさまロケットを点火し空に上がっていった。
『B24』
「機長、レーダー探知艦影多数、大型と思しき物最低でも4」
レーダー員が叫んだ。
「通信、釧路に緊急電――」
「機長、目標から何かが高速で本機に向かってきます」
通信を命じようとした機長の言葉を遮ってレーダー員が再び叫んだ。
「何?銃座何か見えるか?」
通信より先に確認しようと銃座に問いかけた。
「2番より機長、何かが近づいてきます」
「何かってなんだ?もっと詳細に……」
そう言いながら自分も見える範囲で周りを見た時、霧の中から光が見えそれが直感でこちら目掛けて真っ直ぐに突っ込んで来ると思った機長はクルーへの警告なしで大慌てで機体を横滑りさせようとしたが大型機ゆえに反応が鈍く誘導弾と機体の接触は避けられず誘導弾は左翼に一番近づいた所で近接信管を作動させ翼の3分の2をもぎ取った。
「機長、左翼が殆どもぎ取られました」
だらんとした左腕を抑えながら通信員が機長席の所まで来て報告した。
「機長、機体のバランスが!!」
副操縦士が悲痛な声を上げた。
「馬鹿!!そんな泣きそうな声上げてる暇あったらしっかり操縦桿握ってろ!!不時着水するぞ。ニコ、お前も席に戻ってベルト閉めろ。皆、頭しっかり守れよ!!」
そう言って機長は必死に機体のバランスをとりながら海面を睨んだ。機体は残っていた右翼から海面に当たりそうになりながらもどうにか着水できた。
「おい、みんな無事か?」
着水時の衝撃で計器に頭をぶつけて額から血を流しながらも機長はクルーに声を掛けた。クルー達は3人が骨折し残りも負傷しているが全員生存していたが機体にはかなりダメージがあり浸水が激しく彼らは積み込んでいたゴムボートを引きずり出し救難信号を出す暇もなく機体から脱出した。
彼らは艦隊に合流しようとした『葉月』が発見しすぐさま収容して艦隊へと戻っていった。B24のクルーは損傷を見て自分達が攻撃した艦である事に気付き乗員からのリンチに怯えていたが『葉月』艦長からの『現在は戦時下である。気持ちは分かるが攻撃されたぐらいで私的制裁をした者については士官、兵下士官問わず厳罰に処す』との訓示により丁重な扱いの後に『千歳』に移乗させられ作戦終了後に捕虜収容所として機能していた宮城刑務所に収容されそこで終戦を向かえたが粛清を恐れてアメリカへ亡命した。




