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16.日常の中の異物

サブタイは最後までお読みいただければご理解いただけると思います

「8時の方向、雷跡!!」

雷撃に最初に気づいたのは艦隊左舷にいた大月であった。

「葛城に至急電、『我、雷跡視認』だ。急げ」

艦長は詳細の確認よりとりあえず報告する事を優先させてつつ部下に魚雷の数と進路と僚艦の位置を確認させた。

「艦長、雷速とコースから判断して目標は橿原丸と判断」

僚艦の位置と魚雷の進路を確認していた航海長が艦長に言った。

「葛城に追加の電文を『目標は橿原丸。数6』。橿原丸にも電文『貴船に雷撃。警戒されたし』」

「了解」


『葛城』

「大月より追加の電文『目標は橿原丸。数6』」

「哨戒機の報告と一致か。橿原丸に伝えておけ。」

「了解」

「それとこの周辺に他に(敵潜水艦)はいたか?」

「いえ、現在の所、発見の報告はありません。どうやら哨戒任務中の艦だった模様」

「そうか、引き続き警戒を怠るな。もうすぐ敵通商破壊部隊の存在が確認されている海域だ」

「了解、龍驤隊は一度下がらせて葛城隊に哨戒任務を引き継がせます」

「よかろう、龍驤隊には清酒の一本でも特配で渡しておけ」

「はい」

「橿原丸より入電」

「読め」


少し時間を戻して『橿原丸』

「大月から魚雷に関する情報きました」

通信士が船長にメモを渡した。

「左舷、見張りを厳に。海兵隊の滝本大尉がデッキに出ているから呼び出してくれ」

「はい」

航海士の一人が船内電話でデッキに繋いで滝本大尉を呼び出した。

「出ました」

そう言って彼は船長に受話器を渡した。

「滝本です」

受話器の向こうからドスの利いた声が聞こえてきた。

「田野上です。駆逐艦から情報が来ました。左舷の見張りに応援を出してもらいたい」

「わかりました。機銃員も念の為に準備してもよろしいでしょうか?」

「お願いします」

「了解」

それで話は終わり船長は受話器を一度置き、再度受話器を上げて今度は機関室に繋げた。

「機関長、機関一杯。魚雷が来るぞ」

これだけ言って彼は受話器を置いて1等航海士に指示を出した。

「速度一杯に上げろ、周辺の船との衝突に警戒しつつ取舵一杯」


『橿原丸』デッキ

左デッキは雷跡を発見する為に数人の者が双眼鏡を片手で海面を睨んでいた。その中にはこの作戦で増援として乗り込んでいた海兵隊の一部がいた。

「まだ、見つからないのか?」

海兵隊増援部隊指揮官の滝本大尉が感情を押し殺したような声で言った。

「海面の反射でよく見えません」

「機銃、どうだ?」

滝本は船内電話で自分達より高い所にいた機銃員に望みを掛けて尋ねた。

「1番、発見できず」

「2番、は……」

「2番、どうした?おい、聞こえているのか、2番」

「発見!!10時方向、まっすぐ突っ込んで来る!!」

「よし、しっかり見ていろ。大島、ブリッジに報告しろ」

報告を部下に任せ滝本は10時の方向に双眼鏡を向けようとしたが船が傾き始めた感じがあり一瞬動きを止めた。

(舵を切ったのか?間に合ってくれ)

滝本は心の中で祈った。


ブリッジ

「見えました。まっすぐこちらに来ます」

ブリッジから双眼鏡で海を睨んでいた航海士が叫んだ。

「動け……、もっと早く動け……」

海図台に張り付いていた2等航海士が唸る様に言った。

橿原丸はゆっくりゆっくりと回頭をしていたが6本の内4本は確実に外れるコースになったが残りは未だ命中コースに乗っていた。


「マズイ……、1本は確実に当たる」

機銃座にいた海兵隊員は魚雷の動きを見ていたがその中にいた元駆逐艦乗りが残り2本を見て言った。

「どういう事だ?2本ではないのか?」

上官である少尉が聞いてきた。

「はっ、1本はもう1本に比べて雷跡が薄く見えます。つまり1本は深度調整が深いという事です、深さから見て仮に命中コースにあってもアレはくぐり抜けます。この大きさの船を沈めるのですから磁気信管の可能性がありますが触接信管の場合アレは驚異ではありません」

「……念の為に知らせるか」

そう言って少尉は電話を取った。

「さらに近づく回避不能、当たります」

見張り員の怒声が響き渡った。

「総員衝撃に備え!!」

船長の声が船内に響き渡った。しかし備えていた衝撃はやってこなかった。

「…………?被害状況知らせ」

船長は狐につままれたような顔をしながら被害状況を報告させた。各部から異常なしの報告が次々と来たが三等客室の被害状況を確認していた船員からの報告がまだ来なかった。

「三等客室チーフより船長」

ようやく報告が上がってきた。

「どうした?お前らが一番最後だぞ」

思わず船長が言ってしまった。

「申し訳ありません。魚雷は三等客室部に命中しました。されど爆発しません不発の模様」

「不発だと?被害は?」

「若干の浸水あるも復旧は可能。凹みが出来た程度です」

「そうか、浸水の原因究明と排水に努めよ。必要なら応援を回す」

「はい」

受話器を置いた後、船長は一息ついて葛城に報告する為に通信士を呼んだ。


時間戻って『葛城』

「命中するも不発、被害軽微」

宇垣は報告を聞きながら橿原丸を見た。そこには何事もなく航行する橿原丸があった。艦隊も宇垣の戦闘態勢解除の命令でつい先程の喧騒が消え海も穏やかであった。戦闘がそこであった事は重油といくつもの浮遊物が物語るのみであった。

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