15.僅かな可能性のために
(ピーーン)
その音はソナーマンでなくともL16の乗員全員に聞こえた。
「!!潜望鏡、ソナー、どこからだ?」
艦長が上がりきる前の潜望鏡に取り付きながら言った。
「音源は方位190、距離は……約700」
「何!?」
その情報を半信半疑ながら彼は潜望鏡を向けた。そこには波でよく見えなかったが上空に『何か』がいた。
「敵航空機発見、潜望鏡下ろせ。ドミトフ、ただちに急速潜行、深さ50。魚雷戦、用意」
矢継ぎ早に傍らの副長に命じた。
「深さ50、潜ります。手空きの者は速やかに艦首へ」
艦内マイクで副長が指示を出すと何人かの乗員が発令所を通り抜け艦首に向かっていた。中にはウォッカの木箱等の重しになる物を持っている者もいた。
「艦長、魚雷の目標は?」
「目標はあの兵員輸送船だ。あの艦隊は何の目的であれが重要な物である事は疑いようがない。それなら、あれさえ沈めるか、損傷を与えて動けなくすれば、その救助でコチラへの攻撃が疎かになる。そうすれば我々が生き残れる可能性が上がる」
「了解」
そう言って副長は水雷科に目標の諸元を伝えた。艦長は副長から離れ手持ち無沙汰な政治士官を呼び寄せた。
「どうしました?」
「同志政治士官。艦長として要請する。最悪の事態に備えて貴方の持っている重要書類をいつでも処分できるようにして頂きたい」
「わかりました。攻撃が成功すれば無駄になりますから、無駄になる事を祈らせてもらいます」
そう言って政治士官は自室へと向かった。
「ソナー、なにか聞こえるか?」
「目標は一部を残して速度を落としました。一部がこちらに向かっている模様、速度を上げています。後、かなり離れた所で探信音が聞こえます」
「どうやら他にもいると勘繰っているというのか、相手の指揮官は疑り深い奴のようだな。ドミトフ、魚雷はどうだ?」
「はい、諸元入力は完了しました。注水はまもなく完了します」
「よし、完了次第、発射管開け」
「了解」
哨戒2号
「機長、目標から発射管開放音確認」
それまで目標の動きを確認する為に一言も発しなかった牛尾が口を開いた。
「!!森部、緊急電だ。『警戒、魚雷発射の恐れアリ』急げ」
「了解」
「上原、投下用意」
「了解。……開放確認、いつでもどうぞ」
「3号、11号、攻撃用意。投下数2つ」
「我、3号。いつでもどうぞ」
「11、待ちくたびれました」
「投下用意、投下!!」
この号令で各機が搭載していた対潜弾を2発ずつ投下した。
L16
「艦長、着水音確認。爆雷です」
ソナーが声を必死に抑えながら報告した。
「数は?」
「1、2、……6つです」
「艦首発射管、全門発射。発射次第、一気に100まで潜るぞ急げ!!」
「全門発射」
副長が復唱しL16は艦首の発射管から次々と魚雷を打ち出した。その魚雷が全て正常に目標目掛けて航走したのを確認して潜行しようとした時、哨戒機が投下した対潜弾がL16を捉え次々と起爆し彼らを東北の魚礁に変えたのであった。しかし、彼らの魚雷は第1任務部隊へと正確に迫りつつあった。




