11.それぞれの反応 その2
4月12日 7:13
金井上等兵は朝の朝礼が終わった為に自分の乗車である4式チト43号車が駐車している場所へと足を進めていた。
「今日も兵糧狩りか……、いつになったら新しい戦車使えるんだろ、せっかく砲手になれたってのにこれじゃ意味がないぜ」
ブツブツと呟きながら彼は車体をよじ登って彼の持ち場である砲手席に腰を下ろした。彼は照準器やトリガーなどを一通り点検し点検表に一つ一つ記入し最期に点検者の欄に「金井」と署名して一息ついた後に、砲手席の下のスペースから雑嚢を取り出した。
「ま、うだうだ言っても仕方ないか」
そう言って彼は雑嚢からコンビーフと黒パンを取り出し、食べ始めた。先日の物資集積所襲撃の際におそらく高級将校用として手配されてだろうその高価な品々は特別配給として将兵に配られた後たちまち、時間潰しの賭け事のチップ替わりとなり、千葉自身も不要の酒やタバコをチップにして得られた戦果に彼の胃袋は歓喜の勝どきを上げた。
「正直、この黒いのは悪くないけど、やっぱり米がいいな。今度のヤツで都合よく米があればなぁ……、できれば、この間の飯に出てきたあの『かんらん』(キャベツの事)とこのコンビーフの炒め物で白飯を丼でさぁ、あれは塩気がいい感じでしっかりしていてかと言って肉の味もかんらんの甘さも消えないからほんの少しでも飯が進みやすくって――」
彼の食に対する願望は整備班長の「次、43号車の整備始めるぞ」の声が聞こえるまで続いた。
同時間帯 岩手県久慈港沖
第12戦隊の香取と鹿島は昨日までの釧路方面の監視任務を終え、束の間の休息を取っていた。
香取 士官室
「しかし、我々に出番があるとはな」
戦隊司令の石塚宏少将は先程受け取った電文を見ながらタバコをくゆらせていた。
「司令、灰が」
参謀長に声を掛けられて気づいた石塚は慎重にタバコを灰皿に運び、タバコを消した。
「参謀長、今回の命令どう思う?」
「は、自分としては道案内には不服はありません。このフネでは艦隊戦はおろか船団護衛も難しいでしょうから」
「まあ、この艦より足の速い民間船が普通にあるからな、そもそも練習艦の我々がここまで出張ってきた時点で相当無理してる気がするな」
「ええ、念の為、機銃の増設要求は通りましたが対艦能力は相変わらずですから」
「とは言え、命令が下った以上、我々は仕事をこなさなくてはいかん。参謀長、航海参謀と出港予定と航路の確認を頼む。確か、そろそろ霧が出るはずだな」
「はい、そろそろ濃霧の可能性があるとの事です」
「やはり出るか」
石塚は窓から北海道の方向も見ながら新しいタバコに火を着けた。




