9.反撃の一手の前
4月12日4:30 横須賀
まだ朝日が水平線から顔を出していないこの時間に宇垣中将率いる第1任務部隊は横須賀から出港した。
葛城艦橋
「舵戻せ、見張り員は周辺の警戒を厳にせよ」
旗艦葛城の艦橋では北原艦長が先導役を務める掃海艇21号との距離とこの時間なら間違いなくいる筈の漁船に神経を向けながら操艦していた。
「いよいよか」
司令席でその光景を見ていた宇垣は呟いた。
「ええ、閣下、仙台までよろしくお願いします。」
丁度、艦橋に入ってきた濱中が宇垣に敬礼しながら言った。
「濱中室長か、こちらこそ陸の事は頼んだぞ。先程の打ち合わせ通り我々は、回収後速やかに撤収するが最低限の事はやってから帰るつもりだ」
「はっ、ご安心を我々はその為の部隊ですので最低限と仰られても支援があるのはありがたい事です」
宇垣が答礼しながら言った事に濱中はこう返した。
第1任務部隊は浦賀水道を抜け先導役に別れを告げた後、18ノットの速力で一路、初めの目的地である仙台港へと向かった、本来ならもう少し速度を上げたかったが今作戦の為に徴用された貨客船橿原丸の速力を考慮した為にこの速度で航行する事になった。
「参謀長」
「はい」
宇垣は葛城の飛行長と飛行甲板を見ていた岡田参謀長に声を掛けた。
「合流予定部隊の方はどうなった?」
「第四戦隊の高雄、愛宕は現在、高雄の楠艦長の指揮の下、現在仙台港にて補給作業を行っています。また、鹿島と香取も大湊から出港し待機地点である久慈港に向けて順調に航行中と報告がありました。また、東栄丸、極東丸は現在、小名浜を通過、予定では後2日程で仙台港に入港します」
「わかった、我が艦隊は銚子沖から速度を22ノットまで上げる、橿原丸にもその様に通達しろ、GF本隊が出港予定の日までには仙台に着かなければ、休息も補給もロクにできずに作戦を執り行うことになるからな」
「はっ、了解。通信参謀」
岡田は通信参謀を呼び出しさらに航海参謀を呼びこれからの航海計画の変更部分の作成を始めた。
「時に濱中室長」
艦橋から海を眺めていた濱中室長に宇垣が声を掛けた。
「なんでしょうか?」
「貴官は今まで長期の船旅の経験はあるのか?乗艦した時に貴官と部下達は何の問題もなく乗艦できていた……」
「自分らは職務上何度も上陸作戦の演習を行っていますので船自体には抵抗はありません、ウチには海軍の船と比べれば格段に乗り心地の悪い船がありますので、職務上よく乗るのですがあれと比べればこの葛城は天国です。船酔いも薬を自前で持たせましたのでそちらも問題はありません」
「うむ、そうかならいいのだ、仙台までだがよろしく頼む」
「はい、それまでは艦内の作業の邪魔にならないようにしています、何かお手伝い出来る事があればやらせてください」
「いいのか?貴官達は海の上では客人だぞ」
「はい、我々は普段は実質何でも屋扱いの部隊ですからウチの者も船室で惰眠を貪るぐらいなら雑用している方が落ち着く連中ですから」
「そうか、なら適当な所で艦長に御用聞きでもしてみればいい」
「はい、そうさせていただきます」
その後、仙台港入港までの間、彼ら特別監査室の面々は甲板掃除や士官室の給仕などをする姿があった。




