8.第1任務部隊発足
海軍側の準備の話になります
3月30日 横須賀
濱中室長が市ケ谷で来号作戦を知る2日前、試験評価隊司令宇垣中将は横須賀に停泊中の鳳翔を訪れた。
「試験評価隊司令、宇垣だ小沢長官との面会の約束がある、乗艦許可を」
出迎えた当直士官に用件を伝えた。
「乗艦許可します、鳳翔へようこそ」
当直士官は乗艦許可を出し、傍らの副直の中尉に案内を命じて中尉は宇垣を小沢が待つ長官室へ向かった。
「試験評価隊司令宇垣纏中将、出頭命令により参りました」
「うむ、ご苦労。座ってくれ」
入室してきた宇垣を労った小沢はソファーを勧めた。
「長官、自分を呼び出した要件は?」
宇垣は本題を切り出した。
「ああ、単刀直入に言おう、君に艦隊を率いてやってもらいたい作戦がある」
「?、自分にですか。その作戦とは?」
「近い内に、我々は反攻作戦として釧路に停泊中のソ連艦隊と一戦交えることとなった。君にはその海戦の最中に北海道に向かい敵勢力圏内に孤立している部隊の救出作戦をやってもらう」
「そうですか、質問よろしいでしょうか?」
「何か?」
「なぜ自分なのでしょうか?大湊の部隊ではダメのですか?」
「今回の海戦では連合艦隊は現状で動かせる艦艇は可能な限り動かすが相手はどう出てくるかわからん、海戦に参加せずに別働隊として行動する艦艇もいるかもしれん、また苫小牧沖には函館を牽制するために小規模な艦隊が張り付いている。また、潜水艦の発見の報告もあるため、大湊の掃海艇や水雷艇では役不足だ、可能な限り有力な艦艇で向かうのが最善なのだ、そこで君が現在指揮している試験評価隊にやってもらいたいのだ」
「なるほど、ありがとうございます。そのような理由ならお受けします」
質問の答えを聞き宇垣は礼を言った。
「受けてくれるか、なら第4戦隊の高雄、愛宕を預ける。また、目標地点への先導役を務める艦艇も合流後、作戦終了までは指揮下に編入させるので使え」
「はい」
宇垣の返事を聞き小沢は宇垣を起立させ手元の紙を読み上げた。
「本作戦時は試験評価隊は戦闘部隊として扱う為、任務部隊制度を適用、連合艦隊司令長官の解隊命令まで第1任務部隊と改称す。宇垣纏中将は第1任務部隊司令官を命ずる」
「第1任務部隊司令官の任、承りました」
宇垣が返答した。
「よろしい、これが作戦命令書だ、陸さんでもこの作戦に携わる者が決まり次第、君のところに向かわせるそうだ、頼んだぞ」
そう言って小沢は『来号作戦 作戦要綱書』と書かれた冊子を宇垣に渡した。




