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7.陸軍特別監査室の男

4月1日 市ヶ谷 帝国陸軍陸軍参謀本部

総長室のある階の廊下を一人の男が歩いていた。

長身、痩躯、黒縁のメガネ、軍服を着ていなければとても軍人には見えず、されど軍服を着ていても違和感が拭えないが着こなしがこの男の軍歴の長さを物語っていた。

彼は総長室のドアの前に立ち、一度深呼吸をしてからドアをノックした。

「濱中大尉、参りました」

「入れ」

中から返事があり濱中祥太郎は入室した。

総長室の主は濱中に目で向け次にソファーに目線を移し、「座れ」と命じて自分は机から黒表紙の冊子を取り出していた。濱中がソファーに腰を下ろしたのを見て梅津美治郎総長が口を開いた。

「貴官は、北海道戦線の事はどこまで聞いている?」

「は、かなりの部分が劣勢状態であることは」

濱中はとりあえず一般的な答えを口にした。

「その通りだ、第5方面軍は予め定められていた防衛計画に則って行動しているため、敵勢力圏内にもかなりの数の友軍が潜伏妨害戦(ゲリラ戦)を遂行し少なからず相手の進撃を遅らせているがそれにも限度がある」

梅津はそこまで言って先程取り出した冊子を持って席を離れ濱中の座るソファーの向かいに腰を下ろし冊子を濱中に見せた。

「読んでみたまえ」

その冊子には『来号作戦 作戦要綱書』と書かれていた。

「……!!これは」

「4日前、監視任務に就いていた海軍さんが潜伏妨害行動中の部隊からの通信を受信し、我々に伝えてきた。内容は暗号表と重要書類と思しき物を確保したと報告してきた、我々はその時に保護した民間人と傷病兵の後送を理由として書類も回収する事が決まった。海軍さんはソ連に対する反攻作戦の一環としてソ連艦隊と一戦交える事を決定した、この作戦はその海戦の最中に隙を突いて当該部隊に接触し収容作業と書類を回収する」

「はぁ」

濱中は自分がここに呼び出されてた理由を入室前から考えていたがひとつの仮説が頭に浮かび梅津に尋ねた。

「自分はこの作戦での役目は?」

その質問で濱中は理解したと解釈し梅津はこう言った。

「濱中室長以下特別監査室は、来号作戦参加部隊と同行し敵勢力圏内に潜入し来るべき奪還作戦に備え、特殊戦を行え、なお現地の残存部隊は好きに使って構わない」

「濱中室長、命令受領します」

(やはりか)

濱中はそう思いながらこれからの事を考えていた。その後は梅津にいくつか質問と確認を行い退室した。これが後年において帝国陸軍特殊偵察隊と呼ばれる部隊の最初の公式作戦行動であったと記録されている。

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