20.終わりと始まり
横須賀港に入港した「つきしお」を、多くの報道陣が待ち構えていた。
何しろ、技能大会で行方不明となった練習潜水艦が二週間ぶりにひょっこり帰ってきたからだ。自衛隊やら保安庁、はては米海軍まで引っ張り出しての捜索でも見つからなかったというのに。
「一体どこほっつき歩いてたんだ!艦は自分たちのモノじゃないんだぞ!?」
教官にお目玉を頂戴した四人だが、「ラシャ皇国の第315遊撃部隊に編入され、オーキッド連邦と戦ってました」などといっても信じてもらえるはずもなく、しっかりと3ヶ月の謹慎が言い渡されてしまった。
「ホントのことなのにー。こっちがどれだけ苦労したか!」
プンスカ怒る三咲。横では理沙が笑っている。
「仕方ないでしょう。信じられるような出来事ではないわけですから。」
「本当に不思議だったよね。夢でも見てたみたい。」
「でも夢じゃなかったな。…ふぁ~。」
ガチャリと魚雷室の扉を開ける。
「…私たち、これで戦ってたんだよね。」
目の前に置かれている、数本の魚雷たち。
「ええ…。」
「演習じゃなく、実戦としてな。」
手を触れると、冷たい感触がした。
「315部隊の人達、どうなったのかな。」
「今頃、アインシアについてますよ。本物の軍人さんたちですから。」
「うん、そうだよね。」
3ヵ月後―
「浮上!」
“ザバア!”
海面に姿を現した「つきしお」。
『空気補充始め!』
『動力をディーゼルにスイッチ!』
『水素補充、開始!』
セイルから伸びるアンテナ。黒い船体が、海面を滑るように進む。
「行動が素早くなりましたね。」
「そうだな…。指示にも迷いがなくなった気がする。」
教官の会話。ついこの間までの「少女たちの潜水艦」のイメージはなくなり、鋭い声が飛び交う「海上自衛隊の潜水艦」となりつつあるようだった。
「この前の推測航行なんかも、だいぶ良くなってましたね。いったい何があったのか。」
「技量が上がるにはいいんじゃないか?謹慎くらって意識向上したんだろ。」
どこか嬉しそうな教官の顔。
「浮上完了しました!次の指示をお願いします!」
梓の声に、腕時計を見る教官。
「おっ、早いな。じゃあ急速潜行を行う。深度300までいけ。」
「了解しました。…急速潜行!深度300!」
「アイサー!急速潜行、全ベント開け!」
「ダウントリム一杯!機関電動機に切り替え!」
“バシュウウウ…”
波間に消えていった、「つきしお」の姿…。
「でも凄かったよねー。あの時の優希ったらさー。」
とある日の街中。喫茶店で雑談を交わす、四人の姿があった。
「もうヤメロ、…恥ずかしい。」
「そんな恥ずかしがらなくても。いいことなんですから。」
理沙が笑った。梓もつられて笑顔を見せる。
「結局、浸水させてるし…。みんなを怖い目に合わせてしまったし…。」
「でもこうやって生きてるじゃん。これ聞いたら、みんな優希のこと見直すよ~。」
「べ、別に見直してもらわなくてもいい。人と付き合うのは苦手だ。」
「えー、じゃあ彼氏とかも作らないの?もったいない。」
「それは話が違うだろう。」
「あら、もういるんですか?」
「ウッソー!優希に!?」
「いるなんて、一言も言ってないだろ。それとこれとは別問題だ。」
必死になって否定する優希。
「…優希さん。」
「なんだ、梓さん。」
「…顔、真っ赤だよ。」
ぷ、と噴出す三咲。理沙も笑いがこらえられない様子だ。
「わ、わわわ…。」
「そんなに慌てないで。みんなもイジりすぎだよ。」
「だって面白いんだもん~。アハハハハ…」
「優希さんも人間なんですね~。」
「当たり前だ。人を何だと思ってるんだ。」
笑いに包まれる四人。
太陽が、サンサンと降り注いでいた。
―完―




