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打ち切りの先へ

作者: 潮路

ぼくのかんがえた さいきょうのしょうせつ

「魔王テンタクルス、お前だけはぜったいに許さない」

「ふっ、来るがいい我修院 智人。瞬獄の騎士よ」


 天上で二人の対峙を見守りながら、女神が呟く。


「必ず勝利しなさい。煉獄の落し子よ。世界の運命は貴方に託されているのですから」  ~完~



…こんなはずじゃなかった。少なくとも中盤辺りまでは。 

…僕なら面白い作品がかける。他の奴らには、絶対に真似できない作品がかける。


…そう、こ、これは読者が…真意を理解できない低脳な輩達だったからに違いない。

…ぐ、ともかく、こんなはずでは…


 僕は小説家人生で最後の原稿を、編集部へと送った。



「さて、現実世界の物語は終わったようだし、俺も帰還するかな」


 魔族の返り血で染まった黒い鎧を脱ぎ捨て、我修院 智人は気怠そうに最終決戦の地から立ち去ろうとする。

 その後ろに、倒すべき宿敵・魔王テンタクルスがいることも知っての行動だ。

 勇者の意外な行動に、物語上では陰惨な計略ばかりを行ってきたとされるが実はそうでもなく、むしろフェアな戦いを望む武人であった魔王が呼び止める。

 

「どうした、瞬獄の騎士よ。まだ戦いは終わっておらぬぞ。向かって来るがいい。そして刃を振るえ。まさかそれすらできなくなったとは言うまいな」


 下着一枚、すっぴんの状態である現役高校性・我修院は、そのあまりにクサイセリフを聞いて辟易とした。そのセリフは確か最終回一歩手前の話で脈絡もなく登場した挙句、回想で死んだことにされた父親・我修院 達三が、30年前だかに先代魔王ベリアリズムに対してふっかけた喧嘩文句である。


 ちなみに、魔王テンタクルスと先代魔王ベリアリズムの関係は、意味深な伏線を残すも明らかにされていない。というより、いつの間にか最終目標にされていた「魔王」という存在すらも、先月の話までは全く出てきていない。連載最終月に入ってから、自分が苦労して手に入れた仲間たちを皆殺しにするという衝撃的な登場を果たすことにより、なんとか巨悪だと認識出来ている訳である。

 その上、今までの話はすべて魔王の手の上で踊らされていたに過ぎないという、本当にどうでもいい蛇足をつける始末。これによってただでさえ大きい風呂敷が、更に大きくなってしまった。

 恐らく編集部に提出してから、自分の過ちの重大さに気づいたのだろう。次号では必死に伏線を回収しようと試みるも、脳内で温めておいた父親とか先代魔王やらを諦めることができず、結局風呂敷をたたむことが不可能な域にまで達してしまった。故に、一文一文に意味深な伏線を張り、「謎だらけでしょ。ホラ、分かってよ、この広大な世界観をさ」的な流れに持ってこうとしたわけである。


 話を戻そう。つまり、今のテンタクルスのセリフは突然現れたキャラクターが突然現れたキャラクターに対して放ったセリフであり、読者からすれば記憶の端にも残っていないということ。そんなセリフを引っ張ってくるなんて、魔王、お前は本当にこの現実をわかっていない。

 名言なんていうものは、所詮は作品の知名度あってのものだ。どんなに素敵な言葉だろうと、目に触れない限りは、ただのチラシの裏に書かれた落書きに過ぎない。ましてや典型的な人気低迷型打ち切り作品の、どこに人を惹きつける要素があるというのだ。魔王テンタクルスは「この世界の全てを知っている」という裏設定を持っているが、ぶっちゃけ、こいつのデータベースは小学一年生の知識ですら載っているかどうか分からない。なぜなら、小学生だって人気のない作品はなんとなく分かるし、さりげなく敬遠するのだから。

 なのにこのアホ(魔王)は、この作品が宇宙の歴史を紐解くロゼッタストーンだとでも思っている。こいつは、いわゆる自惚れた作者自身を投影したキャラクター。作者の都合のいいように生み出され、都合のいいような性格を付けられ、都合のいいように操られているだけの、どうしようもない奴だ。


 しかし、こいつの最も恐ろしい点は、「まだ話が続く」と思っている点である。作者ですらも丸投げし、永遠に来ないであろうこのストーリーの完成を、こいつはずっと待っているのだ。




 俺は、カクカクシカジカという便利な呪文(スペル)を使用して、魔王にことのすべてを話した。

 内容を簡潔に述べてやると、「脳内妄想小説乙」である。 


 魔王テンタクルスはその言葉に深く悲しみ、体育館座りをしながら右の人差し指で地面をイジイジしている。頑強な肉体に邪悪な顔つきでも、心はガラス…少年のままであったか。


(そもそも俺が訓練した描写なんて数ヶ月前から一度だってありゃしない。「あのまま」戦っていたら間違いなく惨敗だ。こればっかりは作者のさじ加減に感謝したいところだな)


 黄昏る魔王を差し置いて、俺は作品上の生まれ故郷であり、フラグが立ったまま終わってしまった幼馴染がいる故郷へと戻っていった。 

 しかし、そんな俺を待っていたのは予想をはるかに超えた打ち切りの影響だったのである。

 

 まず、俺の帰りを待っていたはずの幼馴染は寝取られていた。寝取った相手は、先月あたりからチラチラと描写はされていた、男子高校生かつ「創世の御子」である八文字 櫻である。結局コイツは本編の中で「転校してきた」のみである。しかしまあ、そんな彼が幼馴染とキャッキャウフフしており、かなりヘヴィなことをしでかしている。全然フラグ立ってなかったのに。「打ち切り後」の世界は、作者の裏設定もダダ漏れというわけか。


 俺は自分の結論に勝手に満足して、幼馴染の家に火を放った。これで悔いはなし。


 次は、本編で全く触れられていなかった母親が、実は先代魔王ベリアリズムの后であったということだ。これは少しばかりショックである。父親・辰三と先代魔王ベリアリズムは30年前に死闘を繰り広げたという設定であるが、この原因はつまり「母親の浮気」ということになってしまう。

 ちなみにこの話は、これまた本編で全く触れられていなかった俺の祖先にあたる大勇者、長曽根 蜜麻呂から聞かされた話である。俺が魔王討伐へと出発している間、「因明幻界」という裏設定の場所から、常に覗いていたらしい。この話、裏設定と、未登場の人物が多すぎるだろ。


 そして最後は超ド級。実はこの世界は「大いなる夢の賜物」らしく、もう少しで消滅する。要するにきちんと話が進んだとしても、最後にはちゃぶ台をひっくり返すわけだ。「本当は凄まじいプロットで、時間が与えられていれば超大作になっていただろう」的な展開はこれにてオジャンである。


…。

…。


 作品のキャラクターが言うのもなんだが、作者、お前絶望的にセンス無いな。これで「時の運」とか言ったら、逆に「完全版書いてみろ」って言いたくなるわ。いや、それだけじゃない、お前にはたくさん言いたいことがあるんだからな。覚悟しておけよ、この野郎。


 そう智人が言い終わった瞬間、白い霧があたりを包み込む。

 彼だけではない。この世界のすべてが霧に包まれて、消えていく。

 この霧の名前は、「昇魂の霧」。魔力錬金術師「ミゼラブル・エイダー」の持つ「今縛球」から生まれいでた「十三の神話部隊」の一つ、「第三神話」が作りあげた最高傑作である。範囲内のすべての「ゾーム」を統合・吸収していく作用を持つ。これによって、生じる結末こそが、


 夢オチである。



 ハッ


 ああ、いけないいけない。

 すっかり眠りこけてしまった。早く続きに取り掛からないと…。


 中学生はノートを広げる。


・主人公はダークなクール系主人公。美人の幼馴染と一緒に平和な暮らしをしていたところに、侵略の魔の手が…

・見るものをアッと言わせる衝撃の展開

・惚れさせる名言を多数盛り込む

・十三の神話部隊


…。

…。


 若き小説家は、にやりと笑う。

 必ずこれで有名になれる。誰もが羨む、才能あふれる小説家に。

 僕には、その才能があるんだ。


 これからの、僕の活躍をご期待下さい。   

自己満足をやめれば、人気は手に入るかもしれない。

だが自己満足をやめれば、それは作業に変わる。

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