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Moon phase  作者: 檸檬
白銀のラウナ
94/123

New moon vol.11 【騒乱の始末】

「国立図書館が半壊だと?」


「ええ、強力な広範囲殲滅系魔術が行使されたと思われます。着弾点から300m先まで崩壊、消失しました」


「ばかなっ!」


「偶然居合わせたファング部隊副長、ラウナ=ルージュの機転により増援として到着した部隊は無事です。彼女を点として扇状に破壊を防いだようで」


「禁書は、禁書はどうなってる?」


「そちらは無事との報告を受けています。ですが一般書庫は絶望的です」


「何て事を、国の歴史と書物の価値をなんだと思っている……!」


「五国全土での指名手配を行うべきでしょうか?」


「当然だ! 軍部の技術部門が騒いでいたが悠長に構えているからこんな事になる、あの馬鹿共がっ!」


「では、その様に伝えておきます」

 敬礼をした後退室をする。特に上司と言うわけではないので敬礼をする必要は無いのだが。


 国立図書館を一部だが防衛する事に成功したラウナ=ルージュ。活動に支障が出るほどではないのだが、自慢の剣が融解し、両腕に酷い裂傷を生んでいた。

 あの攻撃の後、空を飛ぶ船から何かが発射され、スオウ=フォールス、アルフロッド=ロイル、リリス=アルナス=カナディルの3名はその場から逃亡している。その後の消息は不明だ。


 また、追走を行ったワイバーン部隊だが、船の両脇に取り付けられていた円柱状の筒から放たれた魔術砲により撃墜されたとの事。詠唱も無く瞬時発動だった為、回避も出来なかったそうだ。

 スオウ=フォールスの所持している(オボロ)と呼ばれている兵器と同系統の様だが、威力は勿論連射が可能になっていたという報告が来ている。厄介な事この上ない。

 ふぅ、とため息を付き、軍部の宿舎に向かうと副官が待っていた。


「現状が分かっていないぞあの男」


「帝国内務省ですか?」


「戦争を知らん、まぁ仕方が無いがな」


「しかし空を飛ぶ船ですか、この脅威を分かる人間が多ければ良いのですが」


「コンフェデルスとの繋がりは分からんのか?」


「はい、依然不明です。当然尻尾を掴ませるわけは無いのですが」


「あのような物が自国領土の空を飛んでいるとなるとおちおち寝れんぞ」


「やはり五国協力して叩き潰すべきでは?」


「馬鹿者、彼らは今まで民衆の味方だった、今回の件をうまく使うにせよ反感が起きる可能性がある。さらにあの威力に加え加護持ちが二人だ。今の状況では帝国が前面に出る必要が出てくる。犠牲は計り知れんぞ」


「消耗するとカナディルが出てきますか」


「今は和平派が力を持っているようだが、今回の件で変動する可能性もある。安易に敵を増やすわけにはいかん」


「技術部門が味方に欲しいと言っていましたね」


「当然だろう、あれほどの技術力、我が帝国が手に入れれば五国統一など直ぐだろう」


「スオウ=フォールスの両親を確保しますか?」


「無理だな、和平派が強固に保護している。彼らとてアキレス腱は把握しているだろう」


「スゥイ=エルメロイの親族は全て消されてますし。ライラ=ノートランドはコンフェデルスで保護、アルフロッド=ロイルは軍部の上層部に食い込んでおり……」


「リリス=アルナス=カナディルは論外だ手を出せん」


「まさかここまで考えていたわけでは無いでしょうね」


「どうだろうな、運による部分も大きいだろう。コンフェデルスへの諜報を増やせ、軍事部門諜報部(シャドウ)に連絡を」


帝国独立特殊諜報部隊(ファング)は宜しいので?」


「駄目だな、今回の件は軍で片を付ける必要が有る。帝国魔術研究所の件もあるのだ、弱みを見せれば付け入られるぞ」


「人工加護の進捗は?」


「ふん、無駄に消費しているだけで結果が伴っていないようだ。モドキは出来たようだがな」


「魔昌改造型ですか? 拒絶反応が酷いと聞いていましたが」


「まぁな、だが数体完成したようだ。体内に強化魔昌石を大量に埋め込むなど人のやる事とは思えんな」


「仕方がありません、リメルカが存続している以上力は必要です」


「余計な力をさらに呼びそうな気もするのだがな」

 そうだ、我らこそあの空を飛ぶ船のような力が必要だ、あれはおそらくだが人の犠牲を伴わない技術。あれがあれば直ぐにでもリメルカの王族を皆殺しに出来る。何故だ、何故貴様らはその様な使い方をする、世界を混乱に陥れているだけではないか。

 あの国さえ無くなれば半永久的な恐怖に囚われる事は無い、そしてカナディルも滅ぼしてしまえばスイルで争うことも無くなる。戦争が無くなるのだ。


 目の前で苦しむ子に毎回手を差し伸べているのでは駄目だ、苦しんでいる子を皆殺しにしてでも苦しまない世界を作る。そのくらいではないと世界は変わらんのだ。

 貴様も分かっているはずだスオウ=フォールス!








◇◇◇◇◇







 帝国独立特殊諜報部隊、治療室

 両腕を包帯で巻かれながらもその目には一遍の迷いも無く、そして決意に満ちている。新たに支給された剣を手に持ち、刀身を抜き少しだけ光に当てる。その身は濃い赤で半透明であり、触れるだけで切れてしまいそうな輝きを放っている。

 銘は鈴蘭(スズラン)、優雅の意味を持つ花の名。アルフロッドと同様の素材で出来た剣を持った彼女に最早死角は無い。

 チン、と刀身を仕舞い立ち上がったところで扉がノックされる、入ってきたのは部下のゼルだ。


「手酷くやられましたね副長」


「ふ、ゼルか。そうだなここ数年負ける事など始めてかもしれん。勉強になったよ」


「副長が負ける所なんて予想も出来ませんでしたけど、空飛ぶ船の方がもっと予想できませんでしたね」


「それについては同感だ、くくく、さすがはスオウ=フォールスと言った所か。予想の斜め上どころか突き抜けているな」


「楽しそうですね」


「なに、私の誘いを断ったのだ。折角見つけた良い取調室(ディナー)を反故にした借りは返すよ」


「怖い怖い、ですが副長」


「あぁ、分かってるシャドウが動くんだろう? 軍の面子もあるんだろう仕方が無いさ」


「我々の任務は元々スオウ=フォールスを追う事ですからね、変わりませんよ」


「任務変更の指示を受けたんじゃないのか?」


「受けましたけど報告に来たときには副長は既に出立の後でしたので仕方がありません」


「軍規に触れるぞ?」


「忘れましたか副長? 我々は正式には軍人ではないのですよ。枠組みはそうでも命令系統は違います」


「ク、すまんな。では行く」


「御武運を」

 ああ、スオウ=フォールス、待っていろ会いに行くぞ。女性を袖にしたのだ、少々灸を据えねばならんだろう。


 おそらく彼らは帝国魔術研究所について継続して調べるはずだ、そしてこちらが動くことを見越している。ならば動いてやろう、そして帝国魔術研究所で胡散臭い研究を行っている奴ら諸共一網打尽にしてくれる。


 外に出るとファングの紋章が入った1匹のワイバーンが目に入る。その大きな体の堅い鱗、少しだけ手を這わせて軽く叩く、相棒付き合ってもらうぞ。トン、とその背に飛び乗り、その翼を大きくはためかせ、一際嘶いた後、空へ舞い上がる。

 おそらく彼ら【Crimeクライム】はほぼ常時上空で待機しているのだろう、その為地上をいくら探しても見つからないのだ。そしてワイバーンではたどり着けない高さで移動する為どの国にも自由に出入りできる。考えるに補給はコンフェデルスで間違い無い。証拠が無い以上どうしようもないがそれが理由でカナディル連合国家と不仲になれば良いのだがローズ家とカナディルの頭が親子だ、まず情報は伝わっている。


 ローズ家にベルフェモッド家にレイズ家、おそらく彼ら三家の誰かが基点となって補給を行っているはずだ。シャドウなんかに任せないで我らに任せれば良いものを。縄張り争いなどやっている場合かっ、思わず悪態を付きたくなる。しかし現状そういった指令が下っている以上仕方があるまい。さらに彼らは調査すら奪おうとしているのだ、そこまで呑む訳には行かない。

 

 そう思った瞬間すこしだけ違和感が全身を襲う、私が軍規に反抗するなど……、彼らの熱が移ったか、対等に渡り合える相手が見つかって興奮しているのか、予想できない手で翻弄してくるスオウ=フォールスに感化されたか。

 

 頭を振りかぶり考えを振り払う。どちらでも良い、私は犯罪者を捕まえる、それだけ、それだけだ。


 彼らが乗っている船、小回りは確実にワイバーンの方が上だろう、最高速度もおそらくこちらが上、だが人が乗っている状態での最高速度を考えると確実に負ける。私は耐えられても一人では攻略は無理だろう。


 となると次に出現するであろう場所が分かっている以上、あの空飛ぶ船を捜す意味はさほど無い。彼らは不必要な殺しを避ける傾向がある、そのため無差別に何かを行うことは無いだろう。まずは帝国魔術研究所で何が起こっているのか、それを調べることから始めるか。


 ラウナの騎乗したワイバーンが淡く輝き、ギュン、と加速、空へ飛び立っていった。








◇◇◇◇◇






 カナディル連合国家 総督府


「帝国で所属不明の組織が国立図書館を半壊し、あの最強の加護持ちと名高いラウナ=ルージュを退けたそうです」


「何? どこの組織だ、名は?」


「【Crimeクライム】だそうで……」


「奴等かっ、コンフェデルスからの連絡は!?」


「ありません、それに信じられない事なのですが……」


「なんだ?」


「空を飛ぶ船に乗っていたと」


「はっ? 何処の阿呆だそんな報告を上げてくる者は、常識で考えたまえ。船が空を飛ぶわけがなかろう」


「その、さらに言うのでしたら船よりも大きいようでして。正式な報告として上がっていますし、帝国では情報操作を行っている様ですが、かなり噂になっています」


「……フォールス家ならありえなく無い、と?」


「はい、そしてコンフェデルスの技術力が結集したのならばありえないと切り捨てるのは危険です」


「あそこの両親は確保できんのか」


「……それは、申し訳ありません」


「使えないな! だがしかしそれほどの力があるのなら生かしておいて良かったかも知れん」


「は?」


「利用価値が増えたのだ、なんとしてでも確保しろ。コンフェデルスには気づかれないようにな」


「し、しかし先月はフォールス家の社員を利用しようとして、こちらの諜報部隊が一つ壊滅したばかりです」


「なぜそんなに貧弱なのだ! 我が国の諜報部隊はどうなっている!」


「それが、その……」


「なんだ!」


「優秀な者のほとんどがフォールス家に引き抜かれたようなのです……」


「何をやっているんだ我が国はっ! 愚か者共の集まりか!」

 

「申し訳ありません……」

 当然だ、諜報部隊に対する報酬も扱いも格段にフォールス家のほうが上、さらにその力で家族の安全まで図ってくれている。面倒な部分は脅し、使える相手はなだめすかし何年も前から入り込んでいたのだ。


 スオウはこの世界での情報に対する甘さを認識していた。当然認識している者も多くいたが過剰とも思える程の力をスオウは情報収集に入れていた。それは圧倒的な力が無い彼だからこその考えであった。

 

 彼は数百年は先の技術力と、もはや五国内でも有数の情報収集能力を行える組織を作り上げたのだ。当然ファング等に比べれば劣る部分も有るだろう、しかしそこは技術力でカバーをした。彼らが乗る移動式空中要塞(オーディン)その船は唯の攻撃を行い奇襲を行う船ではない。この船を基点とし各所の改良型通信魔昌石と連携を取りアンテナとなっているのだ。


 つまりハブと化した移動式空中要塞(オーディン)、その情報伝達速度は他国の比ではない。圧倒的スピードで情報を把握し整理する事が出来、その上戦略的価値も戦術的火力もある。移動式空中要塞(オーディン)が有る限り圧倒的優位は変わらない。


 その危険性に一早く気づいたラウナ=ルージュの未来の副官、ゼウルス=キーラー。

 知将ゼウルスと呼ばれることになる彼もまた、時代が生んだ天才なのかもしれない。

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