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Moon phase  作者: 檸檬
白銀のラウナ
93/123

New moon vol.10 【空中の要塞】

 帝国アールフォード、上空高度3万フィート。

 魔木とアルレ鋼を贅沢に使用し、全長180m、全幅88m、主機関:雷魔昌石起動型圧縮タービンを使用した、空を飛ぶ移動式空中要塞(オーディン)

 そのメインブリッジで一人の女性が指示を出している。

 

「状況は?」


「現在ラウナ=ルージュと接触、戦闘中です。どうやらこちらが押しているようですが」

 前方に座る通信士より返答が来る。通信魔昌石を使用した情報通達の為一定の距離に近づかないと正確な情報を掴めない。しかしスオウが、というよりコンフェデルスの技術者が改良を加え他国に比べるとかなりの高性能とはなっている。


「アルフとリリスの二人がかりでもとは、その状況で増援を呼ばれると面倒ですね。後何分ですか?」


「およそ12分で上空に出ます」

 

「現場の退避勧告は?」


「既に帝国から出ています」


「そう……、主砲電磁式音速射出魔術砲(グングニール)、両翼回転式魔昌石砲(ブリューナク)起動、照準ラウナ=ルージュ」

 ニヤリと笑い、指示を出す。さぁ、スオウとコンフェデルスの合作の威力を見せてもらおう。相手は加護持ち、それも月神遠慮は要らない。


「国立図書館が崩壊しますが……」


「構いません」


「了解、両門開放。エネルギー収束シークエンスに入ります」

 ゴォォン、と音がした後、船体下部より黒い魔木に包まれた長方形のアルレ鋼製バレルが降りてくる。

 左右では大型の魔昌石が装填された回転式弾倉が角度を変え、照準を合わせている。


「同時にアンカー射出、拾い上げて」


「はっ」


「私の夫を傷物にしてくれた借りは返してもらいます」

 フフフ、と笑いながら前方を見る。船首を下げ、高速で滑降している移動式空中要塞(オーディン)、周囲の雲を切り裂き帝国の国立図書館が視界に入ってきた。








◇◇◇◇◇







 止め処なく流れるように戦場を駆け回る3人の男女。既にその場所は面影を残すものは無く、増援に駆けつけた兵士もレベルの違いに手を出せずに居る。


「くそ……、俺が足を引っ張っているなっ」

 

 そう、リリスとアルフ二人であればいくら月神とはいえ、さすがに拮抗するのが精一杯と言うことは無い。圧倒的強さを誇る死の神といえど加護持ち二人を相手にするのだ、多少押せたとしてもおかしくは無い。

 しかしスオウが足を引っ張ってしまっていた。ラウナ一人だけならば良かったが、増援で駆けつけた兵士に捕縛されてしまう可能性がある。その為二人はそちらを警戒しながらラウナと戦う必要があった。


「万全であれば兵士程度なんとも無かったが……」

 はぁ、と息を吐く。簡易では有るが回復魔術を行使しているが左腕は骨折、肋骨には罅が入っている可能性が高い。吐血した事から内臓も傷ついているだろう。意識ははっきりとしており、動けないことは無いがこの状況で戦ってさらに足を引っ張る可能性が無いとは言えない。その為(オボロ)による牽制を続けるしかなかった。







◇◇◇◇◇






「ふん、思ったよりやるな。ここまで梃子摺るとは思わなかった」


「ちぃ、二人係りで持っている奴に言われても説得力がねぇよ」

 目の前に立つアルフロッドとリリスに声をかける。全身に細かい傷を付けているアルフロッドと対照的に私とリリスは無傷だ。だがダメージは無いと思っていたほうが良いだろう。さすが竜族の血が流れているだけあり、その体力は底知れない。


「だが分かっているか? 時間が経てば経つほど私に有利になる」


「あぁ、その通りだな」

 忌々しげに睨み付けてくるリリスに笑いかける。ただの魔術師だと思っていたが格闘術も相当な技量だ、まったく軍の諜報部隊(シャドウ)も使えないな。やはり我らファングが集めた情報でなければ使えん。

 剣を相手へ水平に構える。周りには駆けつけてきた兵士がいるが、この場では役に立たない、気に食わないが帝国強襲突撃部隊あたりが来てくれれば助かるが……。


 まぁ、良い、最悪帝国の本隊がくれば良い。時間がかかるかもしれんがこの二人相手ならば数時間持たせられるだろう。やはりスオウ=フォールスに感謝しなくてはならないな。


「考え事かい? んじゃぁ、今度は俺からいくぜぇっ!」

 赤い大剣を振りかぶりアルフロッドが突撃してくる。後ろではリリスが雷を腕に纏い射出の準備だ、なかなかに連携が取れている。学院の頃から一緒だったと聞いていたが此処までとはな。

 少しだけ感動し、そして寂しさを覚える。今の私には背中を任せれるほど実力が拮抗している人は居なくなってしまった。別にそれに不満が有るわけではない。帝国を守るためには力が必要だ、その為に強くなった。そしてその資格も力もあった。後悔はしていない、私は帝国の剣なのだから。


「はぁぁぁっ」

 横薙ぎに振るわれる剣を後ろに下がり避ける。その速度は残像が出来るほどに速く、そして流麗だ。避けると同時に雷魔術が寸分狂い無く射出される、一つは首を傾けてかわし、他は剣を振るい散らす。当たらない物は全て無視、剣を持つ手がブレて消え、神速の突きをアルフロッド目掛けて放つ。


 ガン、と甲高い音が鳴り、赤い大剣の腹で防がれる。


「ほう、良く止めたな」


「今回ばかりはこの幅に感謝だな、正直半分勘だ」


「それでも見事だっ」


「そいつはどうもっ!」

 剣を振るう、当たった瞬間に直ぐに引き戻しさらにもう一撃、手がブレて剣が何本にも見える。いいぞ、何処までも、何処までも早く駆け抜けろっ!


 段々と抑え切れなくなったアルフロッドの皮膚を切り裂いていくが、黙ってみているリリスでは無い。彼が稼いだ数秒で技を放つ。左の手の平に浮かび上がる雷球、バチバチとスパークを放ち今か今かと放たれる瞬間を待っている。


「アルフッ!」

 前方でラウナの剣を押さえ、いや斬られながら抑えているアルフに声をかける。意味を理解したのだろう、ダメージ覚悟でラウナを蹴り飛ばし距離を離す。やはり無傷では行けなかった様で肩口に一撃を加えられており、血が舞い散る。

 だがアルフロッドに蹴られ一瞬バランスを崩したラウナを逃すほどリリスは甘くない。


「受け取れ!」






【Tonnerre Une balle Un pistolet】《雷弾砲(ブリッツ・ブラスター)







 ヒュゴッ、と言う空気を切り裂く音が聞こえたと思うとラウナに向かって一直線に凶悪な雷球が迫る。タイミングは完璧、避ける事は不可能。倒すのは無理だとしてもダメージを与えられるはずだ。そうすれば先ほどの天秤はこちら側に傾くはず。


 迫る雷球を睨む、避ける時間は無い、ならば。





 斬るだけだ。




「はぁぁぁぁぁぁっ!」

 彼女の口から出ているとは思えないほどの大声を出し、剣を振りかぶる。【月涙演舞(ゲツルイエンブ)】薄いマナに包まれた刀身が一際輝きその力を一瞬高める。そして切り裂かれる雷球、二つに分かれた雷球は地面を焦がし、空気を焼き、そして後ろに待機していた兵士を巻き込み轟音を鳴らす。


 当然ラウナも無事ではない、直撃を避けたとは言え腕に火傷を負い、髪が少し焦げている。だが、彼女には怪我の内にも入らないだろう。


「まじかよ、あの時からかなり威力が上がってただろ……」


「甘く見ていたのは私達の方だったようだな」


「そう卑下する事は無いぞ、私が傷を負うなど数年ぶりの事だ」

 ゆっくりと剣を振るい、構える。口元には微笑が浮かぶ、今のは中々に楽しめた、どうやら情報よりかなり上方修正するべきだろう。コンフェデルスの広域魔術結界を破壊しただけの事はある。しかし、残念だ、アルフロッドの肩の傷は浅くない。この後も先ほどと同じ時間私を抑えられないだろう。リリスの攻撃力は脅威だが接近戦に持ち込めば私の勝ちは揺るがない。この勝負終わりが見えてきたな。


「さぁ、そろそろ大人しく捕まるつもりは無いか?」


「残念だが無いな、俺達に逃走はあっても敗北はねぇんだよ」


「同義ではないのか?」

 へっ、と自慢げに胸を張り剣の切っ先を此方に向けて言い放ってくる。不思議に思い聞き返すとぽかんとした顔をして横に立っているリリスと話し出すアルフロッド。


「あ、いや、どうなんだ?」


「私に聞くな……、どうせ考えていった事でも無いんだろ……」

 はぁ、とため息を付いている。少しだけ同情的な視線を送ってしまう。どうやら苦労しているようだ。


「まぁいい、捕まるつもりが無いのなら強制的に行かせて貰う。腕の1本や2本は覚悟しておけよ」

 ぐっと足に力を入れて剣を構える。視界に映るは二人の加護持ち、中々に楽しませてもらったが後ろには弓兵の部隊も付いた、本隊がくるまでもない私がここで引導を渡してやろう。

 剣の柄を握り攻撃を加えようとしたところでアルフロッドとリリスの後ろに居たスオウがゆらりと立ち上がり声をかけてきた。


「残念だなラウナ…、時間が欲しかったのは此方も同じだったのさ」


「なに? お前が参戦するのか? 死に損ないが大人しく寝ていれば良いものを。悪いが手加減は出来んぞ」

 彼にはそれなりに愛着はあるが、事戦いでは遠慮するつもりは無い。そこそこ体力を回復しているようだが彼が参戦した所で倒す時間が若干伸びる程度だ。むしろ無視できる程度のレベルだろう。

 たしかに一般的に見れば彼は強い。ファングの部隊でも十分やっていけるだろう、だがしかし加護持ちの戦いになるのなら話は別だ、彼は唯の足手まといに過ぎない。


「さすがに人外魔境に足を踏み入れるつもりは無いさ、俺には俺の武器があるんでね」


「その(オボロ)とかいうおもちゃか? ふん、その程度で何をするつもりだ?」


「それこそまさかだ、ラウナ、君にはもっと豪勢なプレゼントを上げるよ。先ほどは済まなかった君ほどの女性に失礼だったね」


「なに?」

 口元に流れる血を腕で拭い、こちらに笑いかけながら話して来るスオウ=フォールス。なんだ? 彼の自信は何処から来る? 面倒な、この状況で反撃が出来るとでも思っているのだったら妄想家も良いところだ。先ほどの攻撃で頭でも打ったか?


 愚かな、夢想も妄想も終わることを思い知らせてやろう。


 正面に立つ3人を睨み【月涙演舞(ゲツルイエンブ)】によって延びた刀身で切り払おうとした瞬間、空が割れた。








◇◇◇◇◇







「対象、照準入りました。リリス魔術部隊隊長の防御結界を確認。エネルギー充填シークエンス完了。主砲電磁式音速射出魔術砲(グングニール)撃てます」


「撃て!」


「発射! 総員反動衝撃に耐えてください」

 主砲のバレルが放電し、周りを包む魔木の魔術刻印が淡く輝く。







―――――キュィィィィイイイイイ







 甲高い音が周囲に響き、淡く輝いていた魔術刻印が一瞬閃光のように光り、バレルの放電が一瞬収まったかと思ったら。






―――――ゴォォォオオオオオオン






 耳を劈く轟音と、閃光が辺りを照らす。その威力はコンフェデルスで広域魔術結界を破壊した《雷神の吐息(ゴット・ブレス)》程ではないが、それに近い威力を生み出している。


 辺りを照らす閃光が収まったとき、帝国最大の国立図書館、その半分が粉塵と化し、消滅した。


「……やりすぎた」


「ス、スゥイ副長!?」

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