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Moon phase  作者: 檸檬
白銀のラウナ
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New moon vol.8 【最初の遭遇】

「フードを被っていた為、顔は良く見ていないと?」


「うん、でも優しいおにーちゃんだったよ! あとーあとー、あ! 黒髪のおねーちゃんも一緒だった!」


「そうか、すまないなありがとう」


「はーい! ナナちゃん遊ぼうー!」

 危なっかしく走っていく子供を眺めながら考える。おそらくスオウ=フォールスとスゥイ=エルメロイ、いやスゥイ=フォールスの二人で間違いない。奴隷売買で取り押さえた犯人が自供していた内容だと、他の町にも同様の施設があるようだが詳しくは不明との事だ。


 どうやら元締めだった孤児院の院長を追い出し、まともな人間を頭に据えるまではやったが、知らぬ所で攫い、奴隷売買を継続していた為再度彼らはこの地を訪れたようだ。挙句に人が足を使って調べまわっている所で犯人を渡された。手柄は私のものにはなったが完全に手の平で踊っている、気にいらん。

 

「あの……子供達は知らない事ですのであまり触れて欲しくないのですが……」


「ああ、すまない。これで失礼するよ、忙しい所すまなかったな」


「いえ……、その……」


「なんだ?」


「彼らを捕まえるのでしょうか?」


「あぁ、そうだな。彼らがやっていることは善としても犯罪行為には変わらない」


「そうです……よね……」


「では失礼する」

 今だ不満げな顔をしながら此方を見ているようだが目を合わせようとしない。気持ちが分からないことは無いが、彼らのやり方をそのままにして置く訳にはいかない。帝国としても、法を犯すものを野放しにして置く訳にはいかないのだ。


 しかし今だ彼らの拠点となっている場所が不明だ、帝国国内に居るのは間違いないとは思うのだが。まさに神出鬼没、面倒なことだ。


 しかしここでも帝国魔術研究所の名前が出るとはな、何をやっているのだあそこは。上からはその件についての捜査は中止してシャドウに引き継げとの命令が下る、まったくもってやってられない。が、命令だ仕方があるまい。

 なんとか最後にもう一度、とドルドに訪れたラウナ=ルージュであったが、これと言って実りのある成果を得ることが出来ず、首都に帰還する事になる。








◇◇◇◇◇







「ラウナ=ルージュ只今帰還いたしました」


「おう、ラウナ帰ったか。どうだった?」


「申し訳ありません隊長、芳しい結果は得られませんでした」


「そうか、まぁしかたがあるまい。帝国魔術研究所の件は正式にシャドウが引き継ぐことになった。引継ぎは任せる」


「はっ」


「不満か?」


「いえ、ご命令とあれば」


「すまんな……、では引継ぎを頼むぞ」


「はっ、失礼致します」

 綺麗な敬礼をした後、退室していく愛娘を見つめて呟く。


「すまんな、お前の為でもあるのだ。いや、違うな俺の為、だろうな」

 血に濡れて笑う彼女が脳裏に浮かぶ、あの笑い声が聞こえてくる。あれほどの非道な実験は行われていないはずだが何が切欠で思い出すのか分からない。上層部もそれを危惧している為今回の引継ぎを急がせた。


 逆にこちらは【Crimeクライム】と呼ばれている彼らの捜索が中心になる。しかし彼らも帝国魔術研究所を調べているようだ、場合によってはまた担当を替えられるか、ラウナだけ別担当にさせられるかもしれない。


「ままならんな……」

 彼女は帝国に忠誠を誓っている、良くも悪くも、だ。それがどうしようもなく悲しい、隊長でありながら親である悩みでもあった。


 引継ぎは滞りなく行われ、ファング部隊は【Crimeクライム】の捜索に尽力する事になる。しかし直後に帝国魔術研究所への査察が行われることになる。だが何故かラウナは査察部隊から外される。

 シャドウが取り仕切っている事すら不満なのにもかかわらず外される、上からの命令なので仕方が無いとは言え本人としては不満で一杯だった。








◇◇◇◇◇







「まったく何を考えている。上の連中はシャドウとファングの仲の悪さは分かっているだろうが」

 ぶつぶつと文句を良いながら大量の本が並ぶ棚と棚の間を歩く。同行を許されなかった為、資料整理と折角なので帝国魔術研究所について調べようと国立図書館に足を運んだのだ。

 ここは帝国の首都に存在する帝国最大の図書館、保管されている本の数は億に届くといわれているが本当かどうかは不明だ。3mはあると思われる高い天井に届くほどの棚、そこにびっしりと本が入れられている。当然禁書も扱っており、厳重な扉をいくつか潜った先にそのフロアがある。どうやら帝国魔術研究所の資料は地下にあるその禁書フロアに存在しているとの事なのでファングの肩書きを使い、職権乱用と言われるかもしれないがそのフロアに足を運んだ。


 魔術の光で前が見え無いということは無いが、ぼんやりと薄暗いフロアに入る。どうやら先客が居たようだ、灰色のローブを纏い顔を半分隠したフードを羽織っている男は私が入ってきたのに気づいたのかちらりと此方を見た後一瞬硬直し、そのまま何もなかったかのように本を読み出した。

 以前のドルドでの検挙のためかなり名前が売れてしまっている。おそらくそれで少し驚いたのだろう、まぁ騒がれるより数倍ましだ。


 まったく有名になるのも面倒事が増えるだけで嫌なものだ、ため息を付きならが目的の本を探す。


 ほんの順番は題名ごとに並んでいるのではなく分類事だ、まぁ、当然では有るのだが……。棚の上に取り付けてあるプレートを見ながら魔術研究所関係の本を探す、とどうやらあの先客が居る周辺が目的の本がある場所の様だ。


「失礼するよ」

 棚と棚の間は狭い、詫びを入れた後横を通り抜ける、相手も会釈で返してくる。フードの隙間から黒髪が見える。黒髪か珍しいな、帝国にも居ないわけではないが……。


 まずは歴史かな、と思いながら帝国魔術研究所縁の本を一つずつ見ていくと丁度歴史関連の本が無い、あれ、と思い横の男を見るとどうやらその男が読んでいるのがその歴史の本だったようだ。

 まぁしかたがあるまい、と関連性のある本をいくつか見繕い近くにある机に向かう。

 

 禁書の本はフロアから出すことが出来ない。持ち出し禁止でありこれはたとえ帝国最大の権力者であるグリフィス=ロンド=アールフォード帝王が言ったところで変わらない。そのため禁書フロアには机と椅子が用意されてあり、そこで読むことが出来る。当然書き写すことも不可のため、退室後身体検査を受ける。ちなみに入室の際、武器は預けるし、鞄も全て預ける。まぁ、覚えてしまうので問題ないのだが。


 そういえばあの男ずっと立ったままで読んでいるが椅子の事を知らないのか? ずいぶん真剣に読んでいるが。


「ああ、すまないそこの貴方、椅子があるのだからそこで読んだらどうだ?」

 呼びかけるとどうやら自分のことだと思っていなかったようで少しだけ周りを見渡した後、指で己を指した。


「そうだ貴方だ、ずいぶんと真剣に読んでいたようだが立ったままでは疲れるだろう。余計なお世話かもしれないがよければと思ってな」

 どうやら椅子の存在は知っていたようだ。目はフードに隠れて見えないが、覗く口が微笑み変わり話してきた。


「これは気を使って頂いて恐縮です。お言葉に甘えましょう」


「それとすまないが、貴方が持っている帝国魔術研究所の歴史関係の本だが、終わったら次に読ませて頂けないかね?」

 ローブを翻し此方に近づき礼を述べてくる男。そのまま正面に空いていた椅子に座り、また本を読み出そうとしたところで声をかける。


「ああ、それは構わないけど、急ぎでしたら先に読まれますか?」


「いやいや、構わんよ。生憎と暇を持て余している状況でね」

 フードで目は見えないが此方を向きながら本を差し出す仕草をするが、手を振って断る。生憎と査察チームから外された私は今は唯の連絡待ちの暇人だ。

 

「それはなんとも、貴方ほどの美人が暇を持て余すとは帝国の男性は見る眼が無いですね」


「それはありがたい話しだが、立場もあってな。ん……? 貴方は私を知っているのではないのか?」

 くすくすと笑いながら言ってくる男、美人など言ってくれる人は義父だけだったなそう言えば。大体の奴らが戦闘狂だの銀の悪魔だの好き勝手言いやがって、くそう腹が立ってきた、部隊が戻ってきたら殴ろうゼルを。


「あ……あぁ、いえ、以前の奴隷売買検挙の件でお名前と顔だけ」


「おかしいな、私の名を知ればその意味も分かるだろうに、帝国なら知らないものはいないぞ」


「ええ、加護ですか? それと美人である事は変わらないかと思うのですが」


「まぁ、いや、そうか? 一般人はそうでもないのだが……、そうか、まぁいいか」

 首を少し傾けて本当に不思議そうに話してくる。珍しい奴もいるものだ、まぁ帝国にも皆無とは言わないが少数派なのは間違いない。カナディル連合国家などならまず確実に居ないだろう。


「おかしな人ですね」


「私からしたら貴方の方がずいぶんとおかしいのだがな。そうだ、折角だから名を教えてくれ。私だけ知られているというのも不公平だと思わんか?」


「ルド、と」


「私はラウナ。ラウナ=ルージュだ」

 知っていますよ、と微笑むルド。中々楽しい読書の時間になりそうだ。顔を明かさないのが不満だが、どうやら幼い頃顔の一部に大火傷を負ってしまい見せれる物ではないとの事。正直戦場で散々見慣れているので気にしなかったのだが本人が気が進まない事を無理やり押しても問題だろう。


 ルドと名乗ったその男は聡明な男だった。帝国魔術研究所関連の資料の矛盾点を指摘し、謎を紐解いていく、いや、謎を紐解いていくのではない、帝国が握り潰している何かがある事を如実に明確にしていった。何があるのかは分からない、しかし出てきた矛盾点は何かを隠している事を明確にした。



「いやはや、大変助かったよルド。私だけではとてもじゃないがここまで出来なかった」


「はは、お役に立てたなら何よりです。さてそろそろ日が落ちます。私は此処で失礼します」


「まぁ、そう言うな。折角だから私と夜も付き合わないか? 美味いディナーを馳走しよう。今回の件の礼だ」


「いえいえ、こう見えても妻帯者でして。さすがに夜お付き合いしたとばれると後が怖いので」


「ふむ、浮気もたまには良いのではないか? なぁ? スオウ=フォールス」

 ぴたり、と固まるルド、いやスオウを見ながら話す。


「……いつから」

 少しだけ沈黙がフロアに漂う、ゆっくりと彼がこちらに体ごと向き直り聞きかえす。


「頭が切れすぎたな、調書どおりの背丈、黒髪、そして今帝国魔術研究所について調べている男といえば限られる。さらに極めつけは」


「加護持ちに対する態度ですか?」


「そうだ、私としては嬉しい事だが残念ながらお前の様な人は少ない。油断したな」


「まいりましたねぇ、見逃しては?」


「悪いが、無理だな」

 同時に放たれる手刀、間一髪でかわされるがその手刀で切り裂かれたフードからは黒髪と黒目があらわになる。

 おそらく瞬時に加速魔術を唱えたのだろう、一瞬で後方へ飛び上がり、此方から距離を取る。


「いやはや、まさか鉢合わせるとは思いませんでしたよ。此処に入るのに大変苦労したので調べ物が終わるまでは出たくなかったのですが、仇になりましたね」


「知識をくれたのは動いてもらうつもりだったか?」


「そうですね、正直我々だけではあそこは少々辛いものが有る。ご協力頂ければと思いまして」


「そうか、では牢の中で吉報を待ってるが良いっ!」

 ドン、と地面を蹴り上げ正面の男に突撃した。







 深遠暦662年 コンフェデルスで一時暴動が発生する。同時期各地で【Crimeクライム】と名乗るグループが帝国の高官及び貴族を襲撃する。今だ犯人は捕まらないが徐々に沈静化する。ラウナ=ルージュ奴隷売買等の巨大犯罪組織の検挙に尽力、表彰及び昇進。


 深遠暦663年 ラウナ=ルージュが帝国魔術研究所査察部隊から外される。同時期国立図書館が【Crimeクライム】により襲撃を受ける。偶然現場に居合わせたラウナ=ルージュによって強奪されたものは無いが、国立図書館が半壊し、犯人は以前逃走中。逃走時に使われたと思われる巨大な空を飛ぶ鉄の箱は今だ詳細不明である。

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