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Moon phase  作者: 檸檬
次の名はスオウ
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phase-7 【知識の流用】

「いよう……」

 全身から不機嫌オーラをこれでもかと撒き散らせながらアルフが声をかけてきた。

 いつもの朝の鍛錬の時間がまるでお通夜の様な陰湿な雰囲気を醸し出している。


 ところどころに生傷があるその姿は恐らく壮絶な親子喧嘩の後だろう。


 竜族であるアルフの父グランは街で唯一アルフと渡り合える騎士であり、カルディナ連合国家の第一騎兵隊の副長である。

 どこぞの誠を背負う鬼の副長なんてことは無く、温厚篤実を地でいったような性格である。


 しかし武に対しては愚直に厳しく、それは実の息子相手でも変わらない。


 恐らく魔術学院の件で揉めたのだろう。

 

 己の向上、自身の鍛錬につながるにもかかわらず文句が有るとは何事か!


 と言ったところか。


 



 文句ありまくりに決まってるだろう。


 せめて事前に話しておくのが常識では無いのか……。



 流石の俺もこの状態のアルフにさらに追い討ちをかけるのも不憫と思いやめた。


「なんで野郎二人で仲良く学校なんだよ、普通はかわいい美少女と一緒に行くもんだろ、俺の薔薇色の学園生活を返せよ!」

 どうやらまったく違うことで喧嘩をしたようだ。半泣きで訴えて来たので取り敢えず昨日父上もといルナからもらった剣で問答無用で斬りつけた。





「ふむ、加護による常時強化魔術の上からでもダメージを与えられるか、いやはや予想以上の業物だなコレは」

 その剣は刃渡り五十㎝と少しの両刃であり、淡い青色を帯びている。短剣よりは長く長剣より短い。中途半場な長さの為最初は使い勝手を懸念したが予想以上に体に馴染む。

 刃の両面には強化と不滅の魔術言語が刻印されており、斬れ味、耐久力とお墨付きなわけだ。

 許容量を超えてしまえば折れるだろうがそうそう無いだろう。

 流石は金鷹半ぱ無い。



「こら、スオウてめぇ! 人の頭カチ割っておいて何剣に見惚れてんだ! というかなんだその剣、強化魔術ごとぶった切られたぞ!」


「加護だけだったからな、その上にさらにお前の強化魔術で重ねがけをすれば問題ないだろう」


「そういうことじゃねぇだろうがっ」


「あーはいはい、とりあえず剣の試し切りも出来たし俺は帰るぞー」


「ふ……、ふふふ…………、ぶっ飛ばす! そこを動くなこの野郎っ」

 こめかみに青筋を浮かべ鬼の形相でこちらに向かってくる、その動きはまさに疾風、右腕を後ろに回し俺に向かって振り下ろそうとする前に視界から消えうせた。


「ふ、俺が何も準備していないとでも思ったか」

 ドスンと音がして見事に落とし穴に落ちたアルフに向かって言い放つ。

 昨日の夜頑張って掘った落とし穴だ、落ち込んでいるようだったから使うか悩んだが、役に立ってよかったほんと。


「ふ、ふふふふ、ふふふふ、てめぇぇぇぇえええええ」

 アルフの絶叫が聞こえる、穴の深さは5m程、アルフの跳躍力なら難なく飛び出してくるだろう。

 そう、普通の落とし穴なら。


 怒りに任せ全力で足に力を込め、地面を蹴り上げた瞬間急に空気を切るような感覚。


「ぎゃあぁぁあぁあああああああっ」

 アルフの馬鹿力に耐え切れなかった地面が崩壊し、2段仕込の落とし穴が発動した。


「さて、と朝御飯はなにかなーっと」

 アルフが騒いでいる間に唱え終えた加速魔術で足早に帰宅する。

 後ろでは町にまで聞こえそうなほどの大絶叫が聞こえた。
















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
















 朝御飯を食べた後魔術言語の教本を読む、珍しい魔術、もしくは便利な魔術を検討する為だ。


「あと、入学までに2,3個程利益が出るような物を父上に教えておくか、金が全てとは言わないが魔術学院には各国から優秀な人間、また未だ残る貴族も集まるだろうからな、あるに越したことは無いだろう。」

 学園長の弱みでも手に入れば完璧でもあるが、まぁ高望みはするべきでは無いな。

 もしくは入学するであろう貴族連中全員の弱みでもいいが。


 黒すぎる考えを隅にやり、まずは魔術の検討に入った。



 便利となると生活に密着した魔術だろうか、派手すぎず目立たず、しかし優秀だと認められるもの。

 うーん、なにが良いだろう。魔術が当たり前となっている世界だ、たかだか7年しか居ない人間がそうそう新しいものを考えられるわけが無い。

 となると、やはり日本に居たときに使っていたもので便利なもの、そして此方の技術、魔術で作れるものか。

 物理学から魔術に流用できるものは多々あるだろうが、どうも攻撃に寄ってしまうからなぁ。


 あまりのオーバーテクノロジーは避けなくてはなら無いとして、便利なもの……。


 どうせなら苦手な火で出来る魔術にしてみようか、苦手な火なら全力で頑張ってもたかが知れてるし、頑張ってる感もアピール出来るだろう。

 んーなら火を基本とした内容で便利な物、さてさて、なにがあったかな。







「………………………………」


「……………………」


「…………」






「…………ねぇぞ」



 こまった、生活に密着しているような魔術はすでに存在してる、考え付くものは全て、しかも略式化された物だからこれ以上改良するのはさすがの俺も無理だ。


「生活系はあきらめるか、悪用される可能性もあるが攻撃系か、もしくは現存する魔術で適度に試験を流してしまおうか」

 なんかもうどうでもよくなってきた感があるので魔術は後回しにすることにした。


「次は利益が上げられそうな商品か技術か……」

 やはり無難なのは食品関係だろう。醤油は未だに諦めてはいないが保留だ。

 塩が出来たことだし、今度はそうだな砂糖あたりか?しかし砂糖の精製は思っていたより品質が良く、サトウキビ(に似た食物)から精製するのがメジャーな様だが所詮煮詰めるだけだ。さほど高等な技術も必要ないのだろう。


 ん、砂糖、砂糖、砂糖……。

 ケーキは既にあるし……、クッキーとかもあるしな。

 うーん……、あ!


 餡子! 餡子はどうだろう! いや、ケーキ類の甘さになれたこの世界の人には微妙だろうか。

 しかし物は試し、だな小豆に似た食材があったはずだ、砂糖もあることだしちょっと試してみるか。

 饅頭等作れば持ち運びが出来る甘味として売れるかもしれん。

 また求肥なんかももしかしたら人気が出るかもしれんな。なんにせよまずはやってみないことには始まらん。


 さーてやることが増えたぞ、さっそく材料を仕入れよう。


 なんか造船業から遠ざかってる気もするが、まぁそれはそれ、これはこれだ。


 餡子を作りにあたって必要な材料は、小豆、砂糖、水あめだ。

 水あめはジャガイモ(でんぷんが多く含まれているイモ類)、大根(アミラーゼが含まれていれば良い)と水だ。

 大根は無いが近い食材がある。というか今後もう大根でいいや。アミラーゼが含まれているかは疑問だが試してみる価値はあるだろう。

 

 水あめが出来上がればマシュマロなんかも作れるし、食の革命が起きるかも知れんな。お菓子限定で。


 ルナが変な目をしてこちらを見てくる。調理場を借りると言ってから一人では心配だからと付いてきたが、たしかに傍から見たら何をやっているか分からないだろう。

 食材を無駄にしているように見られるかもしれん。


 ふふふ、見てろよ度肝抜いてやるさ


 まずは芋の皮をきれいに剥いてをすりおろす。見た目は完全にジャガイモだ、表面が若干ぬめり、白い泡がわずかに見える。これならでんぷんが間違いなく含まれていそうだ。

 さらし布で包み、水の中で揉み、でんぷんを搾り出す。


 なんかルナが口を出したいようだが無視だ無視。

 というか作業場が高い、早く背が伸びてくれないかな、何やるにしても不便でしょうがない。


 でんぷんを搾り出した水をそのまま放置、上澄みが出てくるまで待機だ。


「スオウ様、白粘粉を作られているのですか?」

 ルナが遠慮気味に言ってくる。最後までおとなしく見てるように言ったが、思わず声をかけたのだろう、しかし白粘粉?なんのことだ……? あ、もしかして片栗粉の事か?


「え、それってお湯で溶かすととろみが出る粉の事?」


「はい、そうでございます。それでしたら言っていただければあったのですが……」


「あぁー……、いや、まぁうんいいや、ここまでやっちゃたし、次はお願いするね」

 まじかよ、あったのかよ、いや、まぁ確かに長い間見つからない訳無いよな……、不覚だ。


 上澄みが出てきたところで上澄み液を捨て、何度か繰り返し白いでんぷんだけが残る。


 白いでんぷんに水を加え火にかける、最初白い濁った水だったが、少しずつ透明になりのり状になったところで一旦止める。

 

 次に大根をおろす、大根の汁が溜まったところで、適度に冷えたでんぷん液に布で濾した大根の汁を注ぐ。

 アミラーゼは熱に弱い、温度計が無いので感覚に頼っている形だが、失敗したら何度か試すしかないな。

 なによりアミラーゼが含まれているかどうかも不明だ。おそらく大丈夫だと思うのだが。


 きれいに混ざり合うまで攪拌し混ざり合ったところを確認した後保温方法が無い事に気づいた。


「しまった……、ルナ、できれば高温で長時間保管できるような物ってないかな、時間で言えば7~8時間程なんだけど」


「暖かさはどのくらいが宜しいですか? 熱ければ熱いほうが宜しいのでしたら釜に置けば宜しいかと思いますが」


「うーん、熱過ぎてもだめなんだ、65度以下だから、そうだなぁ釜の温度を調節しながらやるしかないか、直ぐ出来るとは思ってないし、何度か試すしかないね」

 そう言って、ボウルの中にあるでんぷんと大根の混合液もとい水あめの元を陶器製の容器に移し釜の中に入れる。

 何個かの容器を用意し、いくつかの場所を離しながら置いておく。


 もう一つの方法も検討、湯煎による保温だ、2,30分ごとにお湯を足さなくてはならないが、まぁ本を読みながらやるとするか。


「まぁ、1個くらいうまくいってればいいなー程度かな。時間はあることだしとりあえず今はここまでだな」


「あの、スオウ様、そろそろ何をお作りになっているのか教えて頂けないのでしょうか」


「うまくいけば夕方にはわかるよ、それまでのお楽しみってことで」

 不満顔のルナに向かって笑いかける。なにより失敗してたらあれだし、言っても伝わるか分からないし。


 とりあえずは時間つぶし用の本を持ってこようと、書斎に向かった。


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