New moon vol.2 【忘却の死者】
フォールス家の長男がコンフェデルスのベルフェモッドと接触したとの情報が入る。
目的は不明、だが恐らくはアルフロッドの武器関係と思われる。予想に過ぎない為情報収集を続けるよう指示。
ローズ家、レイズ家、ベルフェモッド家との関係が出来るとコンフェデルスの権力者半分とのパイプが出来る事になる。これに対してカナディル連合国家の動きは無し。確実に不満に思っている人間も多いだろうが表面には出てきていない。これも継続で調査する事。
国境警備隊の現象については今だ調査中、報告を待つ。
「まったく……、余計な仕事を増やしてくれるものだスオウ=フォールス」
「どうかされましたか隊長?」
「あぁ、いやこの件の事だ」
「仕方が無いでしょう、彼らとて商売ですから、しかしアルレ鋼の買占めとは、アウロラ家もずいぶん強気ですねこの値段」
部下から報告があったアルレ鋼の価格変動、何が原因かは不明だが帝国への出荷数が激減し、値段の吊り上げを言ってきたとの事。これは我々の部隊で当たることではないので、別部隊にそのまま流れるのだが、気分としては複雑だ。
潜入している者からの報告ではベルフェモッドから購入するような話だが、強気に出ているのはアウロラ、どうなっているのやら。
同時に此方の上部もキナ臭い人間が数名。義父の部下が付いて回っているようだが、裏でアウロラと取引をしている可能性がある様だ。他国との癒着など自殺志願者としか思えんな。
「副長、それとこれも上がってきました」
「ああ、そこにおいといてくれ」
執務室の机の上が資料で溢れかえる、長期間外に出ていた為仕事が溜まってしまっていた。やはり私は剣を振るっていたほうが楽で良い。
そう思いながら書類と格闘していると一つの資料に目が留まる。
フォールス家の技術開発力の不明点及び脅威。
フォールス家、カナディル連合国家における造船会社の一つ。しかしおよそ15年前の塩田による技術開発で一財産を築き、名前を聞くようになる。その後和菓子といった特有の菓子、そしてドーナッツといった一般普及されていたパン菓子をさらに一捻りした菓子で一躍有名となる。
さらに極めつけとなったのが魔昌蒸気船、そして外輪船である。この船を持ってフォールス家はカナディル連合国家だけではなく、五国全てに名を知られる事となる。
しかし、不明点が多くある。取引を行っている商店会社数点話を聞くと、当主であるダールトン=フォールスは経営には類稀なる才能を見せるが、六家と比べればやはり劣る。さらに開発を行えるような人間では無いとの事。
また、妻であるサラ=フォールス。彼女はどちらかといえば開発の才能が有るとは思われるが、先に述べた内容を考えつけるほどとは思えなかった。
補足では有るが、サラ=フォールスは20年ほど前にカナディル連合国家で有名になった血染めのサリファラである、情報を掴むのに大変苦労したが一部の人間が顔を覚えていた為ほぼ間違いないと思われる。突然と名前を聞かなくなった為、死んだとも噂されていたがまさか此処に居るとは思わなく、今後の調査も寄り注意を払う必要があるかと思われる。尚、フォールス家に勤めているメイドのルナであるが、おそらく当時共に居た悪魔付きの殺し屋で間違い無い。
カナディル連合国家がこの情報を掴んでいるかは不明だが、下手に手を出せば大蛇が出る可能性がある。対応は十分に気を付ける必要有り。
技術に関しては数名の優秀な人間が開発チームに雇われていることが判明、しかし設計図、および概案の考案者は不明。記載上は開発チームのリーダーの名前になってはいるが、取引時此方の人間を紛れ込ませ、開発の原点等の質問をしたが曖昧にはぐらかされた。開発者本人ではないから、という可能性は早計かも知れないが視野に入れて置くべきだろう。
以上が現状での不明点である。
脅威点としては二つ、その発展速度と開発力である。
開発力で特に脅威とするべき所は途中経過と思われる物、あるいは失敗作と思われる物が無いことである。帝国で手に入れた魔昌蒸気船を確認したが、スクリューと呼ばれる仕組みの羽の角度、どうやら最初から決まっていたようである。また、船体の形や蒸気の流用方法等、試行錯誤が必要であろう部分が既に最初から出来上がっていたとの情報がある。
これは天才で済む話しではない、図面上、想像上だけで物が作れるのであれば苦労はしない。この点に関しては継続して調査を続行する。
最優先とするべきは本当の開発者の名、此方を早急に確認致します。
「ふむ……、ゼウルスと同じ意見か……」
「どうかされましたか?」
「フォールス家の件だよ」
「またですか……」
「今度はコンフェデルスとの関係ではなく、フォールス家そのものの話しだ、読んでみろ」
またフォールス家か、と疲れた顔をしている部下に資料を渡す。
机に戻って資料を読み出したのを確認。机の上に山積みになっている資料を見て此方も疲れた顔をして次の資料に取り掛かった。
◇◇◇◇◇
夜、月が昇り人気が無い裏路地で男が二人話しをしている。紙切れを相手に渡しながら小声で何かをお互いにしゃべる。
「至急アベル隊長とラウナ副長に報告を、アウロラの当主が意識不明で倒れたそうだ」
「なに? わかった、至急伝えよう」
「いや、話しはそれで終りでは無い。この件帝国の仕業との事だ」
「ばかな、何処の誰がそんな馬鹿なことを」
「どうやら魔術研究所のマッド共が人工加護の予算稼ぎの為に色々火種を撒いているらしい」
「あの馬鹿共が、至急証拠を集めて報告するぞ」
「わかった、俺はこのまま継続してコンフェデルスに潜伏する、報告は頼んだぞ」
「ああ、任せとけ」
頷き、周りを警戒した後その二人はその場を後にする。
その後何事もなかったように大通りに出て闇に消えていった。
明くる朝、報告に行くと言っていた男がコンフェデルス首都の外にある森の中で死体となっていた。発見されるのはおよそ1週間後の話である。
◇◇◇◇◇
沈痛な面持ちで報告を受ける隊長室、同時にダン、と机をたたく音が響く。報告は発見された部下の死と届けるはずだった報告だ。
「何処の誰がやりやがった! さらにこの情報、結果的に2週間も遅れている、くそっ、先日あの豚共が動いていたのはこの件か!」
「どうされますか? 家捜しすればいくらでも潰せると思いますが」
「駄目だ、既に話は進んでしまっている。さらに面倒なのが上が黙認した事だ」
「な……?」
「今回の件、成功すれば技術書が入手できる、失敗したら暴走した馬鹿を切れば良い、らしいぞ」
「腐ってますね、ですが私としても静観するのが良いかと。かの国の同盟に罅が入るのならそれでも良いですし」
「どうだろうな、そう上手く行くとは思えないが……」
ローズ家の対応が早かった事も有り、アウロラの当主は存命だ、暫定的に長男が実権を握っているため豚が群がっているが、あいつらとて当主の意識が戻り約束を反故にされる可能性だって考えているだろう。それを理由に今後の取引を優位に持っていくのかもしれないが。
しかし疑問なのは他の5家だ、なぜアウロラの暴走を見逃している? その気になれば帝国の人間が関わる前に長男を消せた筈だ、態々生かしている理由は何だ?
それにスゥイ=エルメロイと言ったか、なぜ彼女を選んだ?
スオウ=フォールスとやらが動くのを期待したのか? 馬鹿らしいそんな希望的観測で動くわけが無い。
六家は何を狙っている……、アウロラの処分か? これ以上ないくらいの汚点を付けて六家からの追放。
いや、まさか……、まてよ、同時にアウロラの利権を買い取れば金にはなるな、後は分家を頭に付ければ。
上手くいけば帝国側の豚も釣れるか……? 事態によっては此方で始末を付ける必要が有る、か。
アウロラ家の頭は分家では無くフォールス家に褒美でやるつもりか、名は十分、実力と資本もある。
カナディル連合国家がそれを許すか? だからこその長男か? いやそうすると権力がフォールス家に偏る。そこはどうするつもりだ。
恩でも売るのか? まてよ加護持ちのリリス皇女とアルフロッドが親友だと言う話もあったな。こいつ等を理由に使うか? カナディルから保護する代わりにこちらに付け、と。
スオウ=フォールスがそれを飲むか? 調べた性格からして飲む可能性は低い、何処に終着点を持って行くつもりだ。
情報が足りないな、さらにコンフェデルスに人数を送る必要がある。面倒な話になって来たものだ。