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Moon phase  作者: 檸檬
アウロラの花嫁
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phase-75 【広域の結界】

「ライラとリリスが増援を引き付けている、今の内にワイバーンで逃げるぞ」

 横を併走するアルフと目を合わせた後、後ろのスゥイにも聞こえるように話す。俺達が乗ってきたワイバーンは外の森だ、そこまで駆け抜けるのは難しい、だから此処、コンフェデルスで調達する。


 ネロさんに既に準備はしてもらっている。大聖堂、いや大聖堂の一番近い詰め所とは反対に位置する場所、そこに用意してもらっている。


「スゥイ、着替えられるか?」

 人目に付き難い裏路地に走りぬけ、持っていた鞄から服を取り出しスゥイに渡す。


「スオウ、女性にこんな所で着替えろと言うのですか?」

 はぁ、とため息を付き此方を睨んでくるスゥイ、気持ちは分かるがその格好では明らかに目立つ。出来るだけ上から羽織れる様な物にしたのだが。

 もって来た服を見た後少し考えたスゥイは湖月(コゲツ)を貸してください、と言って来る。何に使うのか疑問だったが取り合えず貸す。礼を言ってきた後くるりと回転しながら剣を振るう。

 パサリと落ちるドレスのスカート、膝より上の部分で綺麗に切り取られ動きやすそうな服装になる。


「それはまた、なんか凄い格好だな」

 ミニスカートより若干長いが、綺麗な素肌が見えている。


「おや、此方のほうがお好みだったのですか、これは良いことを知りました」

 くすくすと笑いながら剣を返してくるスゥイ。


「いや、まぁ、ううん……」

 別に足云々ではなく、スゥイを意識するようになってしまったからなのだが、これ以上言うと付け上がるから黙っておこう。

 黙ってしまった俺を不思議に思ったのか、渡した服を上から羽織此方を見てくる。


「このくらいですか?」

 つつつ、とスカートを上げてくる、この野郎……!


「良いから行くぞ……、追っ手が来る前に此処を出る必要が有る」

 はぁ、とため息を付いた後スゥイを見て言う。アルフはどうやら気を使って後ろを向いて少しはなれている。どうせなら止めてくれ。


「つれないですね、先ほどはあんなに情熱的だったと言うのに」

 残念そうに目を伏せて言うスゥイ、明らかに流していない涙を拭う仕草をした後此方を上目遣いで見てくる。はやまったかなぁ俺……。


「まったく……」

 頭をがりがり掻いた後、ぐいっと引き寄せて抱きしめる。


「さぁ、いくぞ」

 額に軽くキスをして告げる、真っ直ぐにスゥイの目を見て、少しだけ驚いた彼女は直ぐに微笑み答えてくる。


「ふふ、はい、仰せのままに」

 















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
















「よし、ライラ、そろそろスオウ達と合流するぞ。スオウの計算ではそろそろ増援部隊が到着する、蒸気世界(スチーム・ワールド)もそろそろ維持限界だろう?」

 展開してからおよそ4分、十分な足止めも出来た、そして増援部隊をこちら側に引き付ける事も出来ただろう。いくら奇襲とはいえそろそろ相手側も冷静に対処してくる時間帯だ。なにより増援部隊が来ると騒ぎが大きくなる。抜け出すのも一苦労になるだろう。


 私やアルフはいいが他の面子までそうは行かない。


「うん、わかった! 私が離れても数秒は維持されたままだから一気に離脱しよう」

 

「あぁ、ライラ置いていかれるなよ」

 空から返事を返してくるライラに声をかける。全速力で走る私に着いてこれるのはアルフだけだ。


「あら、リリちゃん空に居る私に追いつけるの?」


「ぬかせ」

 くすくすと空で笑っているライラ、そういえば最近は飛んでいるライラが全速力で移動しているところを見たことは無かったな。

 

 ふん、と鼻で笑い答える。どうやら無意味な心配だった様だ。


「いくよっ」

 空で聞こえる友の声、同時にギュン、と空気を切り裂き空を舞うライラが見える。なるほどこれは私もうかうかしてられないな。足に力を篭める、全身に行き渡る強化魔術、同時にドゴンと地面が爆発、土柱が立ったと同時にリリスがその場から消え去った。

















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
















「ふふふ、さすがはスオウ君、中々の見世物だったわね」

 ステンドグラスが地面に散らばり、無残に切り裂かれ崩壊している扉、あちらこちらで怒声が聞こえ現場の収集に右往左往している六家の重鎮達。

 じゃりじゃりと音を鳴らしながらその中を歩き、アウロラの私兵だろうか、介抱されているバナード=アウロラを一瞥する。


「ナンナ様、早急に対応を。予定されていた内容よりかなり派手です」

 

「構わないわ、あれだけの役者を雇ったのだから報酬も弾まないとね」

 後ろから声を掛けられる、確かに予定以上の派手さだ、だがこの位のほうが良かったかもしれない。やはりあの男を指名してよかった。手の甲を口に当てくすりと笑う。


「左様ですか、それとアウロラより首都の広域防御結界の発動申請が来ています。既にアウロラは当然、スーリとディルスも同意しました、それと……、ベルフェモッドも同意しています」

 しかし、どうやら予定していなかった報告が告げられる。首都広域防御結界、それはコンフェデルスの首都を覆う五国最大と言われている防御結界。各所に配置された大型の黒魔昌石に結界魔術を刻み込み、数十人がかりで発動させる結界だ。


 その結界は外からの進入も内からの脱出を許さない、コンフェデルスの技術の粋を集めた結晶だ。


 その結界を展開する為には六家全ての承認が必要となる。おそらく三家は申請すると思っていたがベルフェモッドもその話に乗るという。四家が同意したとなると断るのは少々まずい、ベルフェモッドは拒否すると思ったのだが……。


「なんですって? そんな事をしたらいくら彼らとてこの首都から出られないわよ」

 報告してきた部下に告げる、いくら加護持ちが二人居るといえどトロールの戦闘報告を見た限りでは打ち破るのは不可能。


 そもそもが帝国等の加護持ちに対抗する為に作り上げた結界だ。1万の軍勢に攻められても耐え切れる、と声高々に話していた技術部の連中、なにより実験も行っている。これでは脱出できずいずれ炙り出されてしまう。


「はい、そう思うのですが……、ベルフェモッドのローザ様より伝言でして」


「なに?」

 ローザ? あの鬼婆が何かしら、と思い先を促す。そうすると信じられない返事が返ってくる。 


「あの餓鬼は了承済みだ、だそうです」


「ふ、うふふふ、レイズは?」

 思わず笑いが漏れる、ふふ、ふふふふ、甘く見ていたわ、さすが最高の役者、ああ、こんな立場じゃなければ、こんな状況にならなければ貴方と輪舞を踊りたかったわ。

 

「我々の意見を考慮して頂けると」


「分かったわ、申請に許可を出しておいて」

 指示を出し跡形も無いステンドグラスがあったその天井を見上げる、見えるは空、透き通るまでに青い空。まるで彼らを祝福しているかのように残った残骸と化したステンドグラスが太陽の光をその身に当てて7色に輝いている。


 さぁ、感動のフィナーレを、最高のフィナーレを。見せてくれるのでしょうスオウ=フォールス。





















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




















「礼を述べるのは無粋なのでしょうね」

 空を舞う2匹のワイバーンの背の上、1匹には4人、そしてもう1匹にはリリスだけ乗っている。


 俺の後ろに座って居るスゥイがアルフとライラ、そしてリリスを見て言う。

 誰も何も言わない、全員が分かっている、笑顔でスゥイを見る、やり遂げた顔で。後悔の無い顔で。


「ま、なによりまだ全部終わってないからな」

 そんな彼らに告げる、そう、さいごのフィナーレ、最高の幕引きがまだ残っている。


「そろそろだ、リリスいけるな?」

 首都を抜けるまであと数分、しかしぐるりと囲んでいる城門が淡く光っている、そしてその光は一瞬で上空まで駆け上りドーム状に首都を覆う。


「当然だ、私を誰だと思っている」

 ワイバーンの背の上に立つ、パリパリと毛先から空中へ放電、体全体を淡く光が包む。













 さぁ、締めだ、フィナーレだ。


 3年、たったの3年だが私には最高の時間だ、最高の友人だ。


 城の箱庭では感じられなかった最高の気分。







 初っ端から説教をしてきたスオウ、同年代とは思えない落ち着きと冷静さを兼ね備える、でも考えすぎるのが玉に傷。その割には王女だろうと加護持ちだろうと関係なく怒ってくる彼、今回は国相手に喧嘩までやらかした。



 私と同じ加護持ちのアルフ、馬鹿で粗暴で、何も考えていない、彼なりに考えているのだろうけど感情で動く彼は見ていて有る意味気持ちが良い。加護持ちである事に何も感じていない、最初は不思議だったかおそらく……。いや、ただ馬鹿なだけかもしれない。



 翼人のライラ、唯一の良心だとスオウは言うが、彼女はそう見えてかなり激情家だ。最初こそ皇女として扱ってくれたが最近は扱いが酷い気がする。最近は彼女と一緒に居ることが多かった、たまに疲れた目で見てくるがなんだかんだで付き合ってくれる。



 そしてスゥイ、大人の都合で、国の都合で巻き込まれた私の友。いつもスオウと一緒にアルフと私を言葉攻めにする。明らかにスオウが好きなのは見て分かるのにお互い付かず離れずだ。スゥイの気持ちも多少は分かる、あそこまでして反応が無いのだ多少殴っても良い気がする。


 

 初めて出来た友達だ、皇女ではなく、加護持ちでもなく、リリスと見てくれる友達だ。








 あぁ、最高だ、最高だ。


 私がこんな感情を持つとは思わなかった。私の世界を壊し、私の箱庭を壊し、私の国を裏切ってまで動くなど。


 3年前は思わなかった、こんな事になるとは、こんな状況になるとは。



 それでも、それでも気分は最高だ。







【Donnez-lui Dieu le pouvoir】《神よ、寄越せその力》








 私は私の道を行く、たとえそれが理解されない道だとしても彼らとなら何処までも歩いていける。


 今日の私はどこまでも電圧を上げられる、世界すら相手に出来る。




 力が溢れてくる。一捻りで万の軍勢を倒せるかのような錯覚に囚われる。




「あぁ、最高だ。そうだ私はリリス、名を刻んでやろう。この国に、この世界に」



 あふれ出る力を左手に、巨大な雷球が生み出される。もはやプラズマと化したその雷球は周囲の空気を焼き尽くす。

 乗っているワイバーンが声を上げる、同時に光る翼、どうやら熱さから身体を守るために風魔術を強化したようだ。


 すまないな、直ぐに終わらせる、もう少しだけ我慢してくれ。








【Ma volonté et destin que je le file】《私は紡ぐ、私の意志と運命を》









 正面に見えるはコンフェデルスの技術の結晶、最高作、首都を守る広域魔術結界。万の軍勢に耐えると言われる結界だ。




「コンフェデルス最高作? 笑わせる」

 身体を半身に正面を睨む、右手を後ろに拳を握る。








【Ouvrez, et ouvert la porte de Dieu】《開け開け、神の門》








「私を止めたいのならば」

 右手が青白く光り輝く、バリバリと雷が腕全体を纏、光を放つ。







【Mon nom est Lilith】《我が名はリリス》



【La personne qui file Dieu et une personne】《神と人を紡ぐ者》







「世界最強を持って来いっ!」

 リリスの背中に6翼の半透明な羽が広がる、その姿は幻想的でまさに神がその身に降りたかのよう。

 そして紡ぐ、最後の言葉。凛と空に響くその美しい声で世界を切り裂く一撃を放つ。











【Souffle de Dieu】《雷神の吐息(ゴット・ブレス)













 右手を振りぬく、同時に踏み込む右足。打ち抜かれた直径およそ3mにも達したプラズマ球が音速を超え、光速で広域魔術結界に直撃する。

 そしてまるで紙の様に結界を切り裂いた。

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