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Moon phase  作者: 檸檬
アウロラの花嫁
76/123

phase-71 【終焉の前日】

「ローズ家にいる、だと?」

 ベルフェモッド家への訪問を済ませた後、予定通り廃屋で落ち合う4人、唯一スゥイの居場所を調べられた俺の情報を告げると同時に怒りに染まる彼ら。


「どういうつもりだお姉様……、なぜ私に連絡してくれないのだっ」

 ダン、と古ぼけた机を叩き付けるリリス、長年放置していた為だろう、叩くと同時に埃が舞う。


「で、でも居場所が分かったのなら前進じゃない? 後ローズ家ならお願いすれば……」

 そんなリリスを見てフォローするライラ、ローズ家とフォールス家の関係を知っているのもあり、またリリスの姉だ、お願いすれば何とかなるのではと淡い希望を告げる。

 

「無理だな」

 しかし、現実は甘くない。


「え?」

 

「此処まで事を起こして今更、はい、わかりました。等で済むはずがない。なにより今回の件、仕組んだのはナンナだ交渉は無理だな」

 きょとんとした顔でこちらを見てくるライラ、君だって分かっていないはずは無いだろうに、そう心の中で呟き現実を告げてやる。


「なっ」


「どういうことだスオウ……!」

 驚きこちらを見てくるアルフにリリス。ライラは唇を噛み俯いている、おそらく予想していたのだろう。


「彼女には彼女の事情があったのさ、六家の一つローズ家、それもコンフェデルスで今や一番力を持っているといっても良い。だからこその立場があったのだろう。彼女は自国、そしてカナディル連合国家を守りたかった、それだけだ」


「どういうことだ……、なぜそれにスゥイが関係してくる」


「正確には関係してくるのは俺だ、そしてスゥイは俺の弱みでもあった。だからスゥイが使われた。それだけの話なんだよ」

 吐き捨てるように言い放つ。


「だ、だがそんな事をすればお前が敵に回るのは分かっているだろう? それに私やアルフだって味方をするのは目に見えてる。どう考えてもリスクが高いだろう!」

 幼い頃から優しかった姉がそんな真似をするわけが無い、だが、だが、スオウがこんな事を冗談で言うわけがない。でも、それでも信じたい、唯一優しかった姉なのだから。

 

 搾り出すような声でスオウに詰め寄るリリス。アルフもライラも同意見なのか俺を見てくる。


「あぁ、確かにな。だが、それも必要な事だったからだ」

 リリスから目を逸らさずに答える、苦笑が漏れる、いやはや直ぐに気が付かない俺もまだまだ修行が足りないな。


「なに?」


「どういう事?」


「今回の件、元凶はおそらくカナディル連合国家、そして仕掛けてきたのは帝国、それを利用したのがナンナだ」

 目を見開きこちらを見てくるアルフとライラ、彼女らをゆっくりと見渡した後告げる。今回の騒動の裏を。


「な……、お父様が?」


「違う、たぶん……、軍部だ」

 後ずさり青褪めるリリス、姉に続き父上もと思ったのだろうか、だがおそらく違うだろう。予想される内容を青褪めるリリスに告げる。


「どういうことだ? 俺の親父が関係しているのか?」


「違うよアルフ、軍部と言っても戦争に出る兵と指示を出す司令官は別だ。今回はその司令官さ、おそらくだがな」

 今度はアルフが声を荒げて聞いて来る、だがそうではない、アルフの父親は軍でも上位に位置するが大きな目で見れば兵士に過ぎない。動いたのは更にその上、戦争を数字だけでしか見ない人間達だ。


「わかんねぇよ! どういう事だ!」


「推測に過ぎない話だ、が。ほぼ間違いない。あとはフィナーレを飾った後にナンナに聞くさ」

 怒鳴ってくるアルフ、微笑んだ後答える。くるりと彼らに背を向けて天井を見上げる、さぁ、答え合わせはナンナとの逢瀬でやろうじゃないか。


「なに?」

 急に後ろを向き天井を見出した俺を不思議に思ったのか、それとも聞こえなかったのか、疑問声で声を掛けてくる。

 そんなアルフにゆっくりと振り返り、先ほど一番最初に仕入れた情報を告げる。


「結婚式は明日だ」

 身内のだけどな、と続けて話す。


「なっ!」


「なんだと!」


「ええっ!」

 驚愕に染まる3人、どうやら市井にも広まっていないようだ、となると本当に秘密裏に、か。ナンナが上手くアウロラのご長男を宥めたのかね。


「どうするんだスオウ、こんな所で話してる暇は無いだろ!」


「いいや、問題は無いさ、動くのは明日、式の最中に動く。開始は11時だそうだ」

 予想通り、アルフが詰め寄る。ちらりと見た後に次の予定を話す。納得がいかないのか不満顔の3人。まぁ、そうだろう。


「はぁ? ローズ家に居るのがわかっているのにどうして?」


「式の最中に攫うのさ、悪党宜しくな」

 代表して、なのかアルフが続けて聞いてくる。そんなアルフにニヤリと真っ黒な笑みを浮かべ告げる。


「なにを、派手にするなと言ったのはお前だろうスオウ!」

 思わず横から口を挟むリリス、そんなリリスを鼻で笑い発破をかける。


「なんだリリス? 怖気づいたか?」


「なっ」

 一瞬硬直するリリス、そして段々と目が細まり髪が少し浮かび上がり、パリッと紫電が一瞬走る。




「派手に行こうじゃないか、思惑が何だ、国が何だ、世界が何だ、踊って見せようじゃないか。そして魅せ付けよう、忘れることの出来ぬ最高の劇を」

 頼もしいリリスを見つめ、両手を広げて話す。既に台本は出来ている、だが残念だ俺に届いた台本は此処から先、白紙にしか見えない。

 だけど心配するなナンナ=アルナス=ローズ、お眼鏡にかかった一流の役者として舞台で最高の劇を広げて見せよう。


 喜劇だろうと悲劇だろうと、オーディエンスが少ないのだけが不満だが、今回だけは感謝しよう。 

 

「おいおい……」


「はぁ……」


「裏事情は後でじっくりと聞かせてもらうからの」

 額に手を当ててため息を付くアルフとライラ、リリスは腰に手を当てて此方を睨んでいる。


「……、あぁ、大丈夫だ。聞かせるさ、ゆっくりとスゥイも含めてな」

 その時彼女は俺を許してくれるだろうか、いやどちらでも良い。許してくれようと許してくれなかろうとそこは問題ではないのだ。

 



















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
















「おばあ様、スオウ様は何を?」

 場所は変わってベルフェモッド当主室、二人の女性が机を挟んで話をしている。一人は当主ローザ=ベルフェモッド、そしてもう一人はエイリーン=ベルフェモッド。当主の孫娘である。

 内容は先ほど家を尋ねてきていたフォールス家の長男、スオウ=フォールスだ。

 我々の眼に見つからず、既にコンフェデルスに進入していたことも驚きだったが、問答無用でおばあ様の部屋に押し入り、何事か呟いたと思ったら急におばあ様が二人だけで話すと言い出した時は更に驚いた。


 挙句の果てに話が終わって出て行った彼を見送った後、楽しそうにしているおばあ様を見て再度驚くという一体今日は何回驚けば良いのだろう、とため息一つ付きたくなる気分でもあった。


「ふん、従業員を買収しろ、だとさ。あとは利権の購入だね、早急に見える現金を用意しておけ、と言って出て行ったよ」

 ひゃひゃひゃ、と笑いながら告げてくるローザ=ベルフェモッド。おばあ様の考えが読めない、彼が此処にいるということは明日の結婚式無事で済むはずがない、拘束するべきだったのだろうか、少しだけ考えるが、当主の指示で拘束もローズへの報告もされていない。

 ローズ家、後はレイズ家辺りはもう潜入している事に気づいているのかもしれないが、話さなかったことを後々他家から付けこまれると面倒な話になると思うのだが。


 一度は自分の結婚相手にまでされそうになった相手では有る、個人的に好印象でも有る。しかし六家の一つに属している以上甘えや情に流される訳にも行かない。家の利益と存続、それが自国民の平和に繋がるのだから。


「一体どういう?」

 いろいろと思う所ではあるが、おばあ様の言っている内容も気になる、なによりあのスオウが言ったことだ、確実に意味が有る。

 

「はん、どうやらあの餓鬼が予想した可能性の一つが起きただけの話さ、ちぃと予想以上に面倒事にはなってるけどねぇ」


「以前の手紙ですか?」

 机の引き出しから以前彼が当主に、と渡してきた手紙、どんな重要な内容が書かれているのかと思ったが……。

 

「あぁ、あれにはね自分の行動によって起こる可能性が有る弊害が書いてあったのさ」


「なるほど、それと今回の関係が?」

 ほぅ、とため息を付き答える。

 なるほど、どうりでおばあ様が楽しそうにしていたわけだ、そこまで読みきることが出来るとは。あぁ、だからこれが本当なら、と、そう言う事だったのか。

 

「ふん、あれの一つにね力を持ちすぎた人間の末路が書いてあったんだよ」


「持ちすぎた、ですか?」

 机から出した手紙を指で叩きながら此方を見て言ってくる。人……、今回の件で力を持ちすぎた人? 少しだけ疑問に思う、人、いやこれは比喩表現、おそらく対象となるのは別の物。


「あぁ、今回はそいつは人じゃなくて国だったけどねぇ……」


「どういうことですか? 帝国の事でしょうか?」

 やはり予想通り国が対象の話し、だが力を持つ国といえば今は帝国くらいしか思いつかない。たしかに帝国なら何か裏で動いていても不思議ではないが。


「ふん、ちがうね我らが同盟国さ」

 即断される。おばあ様のその顔は、嫌悪感を隠そうともしない、分を弁えぬ愚か者を想像し、嫌悪しているのだろうか。


「カナディル連合国家ですか? ……まさか?」

 顎に手を当て考える、いや、まさか、だが辻褄は合う……!


「ひゃっひゃっひゃ、恐ろしいよ、恐ろしいねスオウ=フォールス。だがまだまだ詰めが甘い、読めていても情に流され本質を見抜けない。だがまぁ、十分だ動いてやろうじゃないか」

 高級そうな皮に、艶の有る特殊な木造の手すり、深く深く座り笑うローザ。スオウから渡された手紙を手に持ち、透かす様に上に上げて目を細めて見た後に、エイリーンに視線を移して指示を出す。


「買収ですか? まずは何から」


「決まってるだろう?」

 頭を下げて指示を請う、返事は簡潔。採掘屋だよ、アルレ火山のね。

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