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Moon phase  作者: 檸檬
アウロラの花嫁
74/123

phase-69 【序章の閉幕】

 クラオスチャーチ大聖堂

 

 建築のベルフェモッド家が作った5国最大の大聖堂であり、まさに荘厳、およそ10メートル以上はあると思われる正面に構えた正門、いや扉は重厚でそして美しい装飾がなされている。


 外観は純白の白、どれだけの維持費がかかっているのだろうか、常に美しい白さを保っているその大聖堂は、およそ5階建てほどの高さであるにも拘らず、その内部は1階だけ存在し、吹き抜けのフロアとなっている。唯一奥に、屋根に付けられている鐘を鳴らすための階段が有るのみだ。


 天井はおよそ半分がステンドグラスであり、丁度太陽が真上に来ると、7色の光が壇上に降り注ぐように設計されている。


 その圧倒的なまでの美しさに各国の有名人がこの場所で結婚式をあげる事が多い。カナディル王家の結婚式もここで行われることがあり、六家の一つローズ家のガウェインとナンナの結婚式もここで行われた。




 その大聖堂に一人の男が嬉々として作業の指示を出している。アウロラ家の長男、バナード=アウロラ。濃い青色の髪を半分だけ前に垂らし、もう半分は後ろに流している。顔立ちは良いがその振る舞いや態度から無能の烙印が押されている。当の本人は気づいていないが……。


「あぁ、あぁ、だめだよ君ぃ、そんな燭台安っぽすぎて僕には合わないね、もっと高いものを置いてくれよ」

 準備をしている女性たちに声をかけ、ため息を付きながら注意する。腐ってもアウロラ家、物を見る目くらいはある。しかしまぁ、大人しくしてろよ、とはその場に居る従業員の総意であろう。





「精が出ますねバナード様、予定までまだ6日もありますが」

 そんな結婚式の準備が行われているさなか、バナードの後ろから声がかかる。声の主はナンナ=アルナス=ローズ、ローズ家当主の妻であり、カナディル連合国家の元第2王女でもある女性だ。


 その顔は微笑を絶やさずに、従業員にあれこれと注文を付けているバナードを見ている。 


「あぁ、これはナンナ様、お忙しい所ご足労頂きまして有難う御座います。なに、正式な結婚式は6日後ですが、身内だけでの挙式を先に上げるものでしょう? それの準備ですよ。明後日にはあげる予定になっていますから。それよりお約束をお忘れではないですね?」

 声をかけられて振り返る、ナンナである事を理解した彼は満面の笑みを浮かべ彼女に近づいていく。軽く握手を交わしながらナンナに此処へきて頂いたことを労い、礼を告げた。


 そして口を吊り上げ微笑みナンナにだけ聞こえるように小さく呟く。


「えぇ、当然ですわ、お互いにメリットの有る話ですから」


「なら構いませんよ、加護持ちは国内に押さえつけて頂けてるのでしょうね?」

 手を口に当て、くすくすと笑いながら答えるナンナ、その回答を得られて更に笑みを深くしたバナード。更に駄目押しとばかりに加護持ちの件も含めて聞いて来る。


「えぇ、お父様にお願いいたしましたから。今頃城で大人しくしている所でしょうね」


「さらにフォールス家のご長男は国外に出れない、と。ですが確実に彼の性格なら国を何らかの方法を使って出てくる、そこを国境警備隊で捕縛、ですね」

 少しだけ目を伏せ、答えるナンナ、どことなく哀愁を漂わせ、姉としての苦悩を滲み出しているようにも見える。そんな彼女を見るもニヤニヤとした顔を隠さずに話を続ける。いや、予定通り行った後の事を考えているのか高揚しているようだ。


「違反者として捕らえられればフォールス家の増長に牽制も効きますし、当家としては今後の船の仕入額を落とせそうで何よりですわ」

 そんな彼を見てにっこりと微笑み、さすがバナード様、と告げる。


「悪い人ですねぇナンナ様も」

 国家反逆罪で息子が捕まれば一気に立場は弱くなる、まさに破竹の勢いで六家を脅かすような存在になって来たフォールス家を牽制するには良い手だ、そう思いながらナンナを見て話す。

 

「商人として当然ですわ」


「怖い怖い、それよりあんな女と結婚してやるんだ、融資のほうは?」

 何を今更? とまでの顔でこちらを見てくるナンナ、いやはや女と言うのは恐ろしい。そう思いながら口には出さず融資の件の再確認を行う。

 今、アウロラ家は当主が倒れてしまい、危機的状況だ。曲がりなりにも六家の一つ、このままでも暫くは持つがいつまでも俺を認めようとしなかった父上だ、ここで今や六家で頭一つ抜き出ているローズ家から融資を得、一気に攻勢に出る。そして父上の病気が治ったら驚くような結果を残して見返してやる。

 そう思い、どの事業から手を付けていくべきか頭の中で考えていく。


「ええ、もちろん。船の仕入額が減額出来るならその分差し上げても良いくらいですわ」

 

「ははは、これは太っ腹だ、楽しみにしていますよ」

 考え出したバナードに声をかける、どうやら思考に陥っていたようで、少しだけ申し訳なさそうな顔をした後、笑いながら返してきた。


「えぇ、こちらも結婚式楽しみにしておりますので、それではまた」


「はい、それでは」

 お互い目礼だけした後、ナンナは大聖堂の外へ、バナードは先ほどと同様に従業員に指示を出し始める。

 

 バナードの視線から完全に離れたナンナの顔は愉悦に歪んでいた。

 
















「どうでしたか?」

 大聖堂を出、迎えに来ていた馬車に乗り込むと同時にモノクルを掛けた執事が目に入る。


 どうやら待っている間本を読んでいたようで、その本をパタンと閉じた後こちらを向いて声を掛けてくる。


「予想以上の無能ね。使いやすくて助かるわ」

 もう楽しくて我慢が出来ない、とまで満面の笑みで返すナンナ。出して、と執事に一言だけ告げ、自分は席に座り御者に指示を出す執事を見つめる。



「演技という可能性は?」

 御者に指示を出した後、正面に座りこちらに問いかけてくる。しかしけして疑っているわけではない、所詮確認程度、彼自身も演技などとは思って無いだろう。


「ふふふ、何年人間を見てきていると思っているの? 城の中ほど腹に抱えた何かを見せない人間は多かったわ、彼程度、雛にすら劣るわね」

 笑いながら答える。私は生まれてきてから城の中で育ってきた、父は賢王であったが、部下までそうだとは限らない。下らぬプライドで他者を蹴落とし、流した涙を笑いながら啜り、倒れた人を踏み台に使う人間がごまんと居る世界だ。それに比べれば彼などかわいい者。

 そう、かわいい者と言えばスオウ=フォールス、彼もかわいかった、一生懸命で、自分の知識を駆使して、あんな男より組むならスオウ君だろう。何より彼には陰がある、何を抱えているのか分からない謎めいた部分、そこを人は恐れ、そして興味を抱く。

 

「父親のほうは予定通りに」


「そう、アウロラ家も大変ねぇ」

 続けて彼が報告を続けてくる。アウロラ家の当主は重態で床に伏せっている。全身が麻痺を起こし、舌がしびれ、指が麻痺しているそうだ。毒ではないかと言われているがいまだ原因は不明。六家の一つの当主がその様な状況など、いやはや本当に大変な話である。


「リリス皇女の方は?」

 どうやら真剣に聞いていたつもりが口だけ少し微笑んでしまっていたようだ、彼と二人になるとどうも気が緩んでしまう。良くない兆候だ。少しだけ戒める目で見られた後、愛しの妹の事を聞かれる。


「ええ、拘束するように父上に伝えてあるけど、あの子が大人しくしているわけがないじゃない。私はあの子の姉なのよ?」

 城全員で拘束にかかったところで蹴散らされるのが目に見える。かといって軍を出して拘束するほどの甲斐性は父上には無いだろう。国境警備隊に手を回す様には、既に司法部に伝えてある。上手くやるだろう。

 

 後はどれだけ足止めが出来るか、だが、おそらくアルフ君も来るだろうし大した時間稼ぎにならないだろう。出来れば警備隊数人に怪我人を出してくれればありがたいのだけど。


「そうでしたね、失礼致しました」


「くすくす、さぁスオウ君、プレリュードは終わったわ。悲劇のお姫様を助けるナイトはどの様な喜劇を見せてくれるのか、楽しみだわ」

 手を胸に当てて少しだけ頭を下げて謝罪を述べて来る執事を横目に窓の外を見る。もう夕日も落ちる、明後日には結婚式。


 さぁ、舞台は用意した。最高の役者として貴方を指名したのだから、是非最高の喜劇を見せて欲しい物ね。




















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




















「後どのくらいだ?」


「そうだなこのスピードなら後3時間と言ったところだが、流石に上空から忍び込むのは下策だ。何処か近くの森に降りた後、徒歩で忍び込むのが無難だろう」

 ワイバーンの後ろに座るアルフから声がかかる、さすがに長時間飛び続けてただけあり全員に疲労が見える。そろそろ一旦降りて休憩を挟むべきだろう、何よりこのまま上空から特攻隊の如く突撃するつもりは無い。

 この後の予定を後ろに居るアルフに話しながら、少しずつ高度を下げていく。 


「蹴散らせばいいんじゃねぇのか?」


「あほう、確かに指名手配食らう可能性は既に十分どころか100%あるが、態々騒ぎにする必要は無いだろう。忍び込んで攫えればそれで済む」

 お前の頭はそれしかないのかっ、と思わず突っ込みたくなるがとりあえず理由を説明してやる。なんかもうどうでも良くなって蹴散らす方向に偏ってしまいそうだが、別に問題を増やしたいわけではないのだ。たぶん。


「なんか私達悪人みたいじゃない?」


「ふむ、城を壊して、ワイバーンを強奪して、兵士をぶちのめしたからな。悪人だろう」

 

「偉そうに言わないでよリリちゃん……」

 俺の攫うという発言に反応したのか隣で飛んでいるワイバーンの上でリリスとライラが話している。改めて詳しく聞いたが聞かなきゃよかった気がする。悪人だという認識は有るようだがだから何だ? とばかりの態度もどうなんだろう。同様に感じたのかライラが胡乱な目でリリスを見ながらため息を付いている。


「はぁ……、とりあえず一度降りるぞ、首都が見える手前辺りが良い、巡回兵に見つかったりしたら面倒だ。加速魔術を使って走ればそこまで時間もかからないだろう」

 ため息を付き指示を出す。人数は4人だ、ワイバーンで移動するより見つかる可能性は格段と落ちる。唯一リリスの服が目立つ可能性が高いが、そこは汚して見難くするしかないだろう、高そうな服だがしかたがあるまい。


「丁度夜だしな、忍び込むには丁度良いか」

 

「じゃあ森に降りた後、2時間ほど休憩を取って朝日が昇る前に忍び込むぞ、一番人が少ない時間だ見つかる可能性も少ないだろう。日が昇ったら、まずはスゥイの居場所の情報収集だ」

 

「了解、わかった」


「うん、わかった!」

 アルフの同意と同時に隣を飛んでいるリリスとライラにも指示を出す。頷きながら返事をしてくる彼女達後は降りる適当な森を見つけなければな、と思っている所でリリスが声を掛けてきた。


「そうだスオウ、私とアルフは首都に入った後、変装したほうが良いのではないか?」


「あぁ、そうだな特にリリスはまず確実に目立つ。髪を切るか?」

 もっともな意見をリリスが言ってくる。彼女の顔はまず間違いなく目立つ上に有名人だ、どたばたとあっという間に状況が動いてしまい頭が回っていなかった。いや、無意識に後回しにしていたのだろう。


 少しだけ考えたが特に明確に思いつかなかったので、取り合えず手っ取り早いのを伝えた、が、言った途端空気が固まる、いやリリスとライラが固まっている。


「…………、私とアルフは変装したほうが良いのではないか? 何か被るとかで」

 微笑みながら言ってくる、何処か不思議と怖い、さらに何故か先ほどは無かった言葉を追加してきた。


「髪は……、いや何でも無い。そうだな、男装して帽子を被るか、じゃあ潜入した後服屋に忍び込むぞ」

 思わず聞こうとするがリリスと、さらにライラまで微笑んでみてきたので黙る。次案と言うわけでもないが取り合えず無難な所を告げる。


「ああ、わかった」


「あれ、なんか強盗になってないかな……?」

 満足そうに頷いてくれたリリス、後ろに座っているライラは複雑そうな顔をして聞いて来る。なってないか、というか最早まさにそれだ。


「ライラ、気にしたら負けだぜ!」


「アル君はもうちょっと気にして行動してよ!」

 馬鹿だなぁ、と言いながらライラに声を掛けるアルフ、当然怒鳴り返されて怒られている。まぁ、当然だろう。

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