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Moon phase  作者: 檸檬
アウロラの花嫁
72/123

phase-67 【最高の友人】

「スオウ様、アルフ様がお戻りです、ワイバーンの準備も同様に出来ました、何時でも申し付け下さい」

 自室に入って出発の準備を進めている所にルナから声がかかる。おかしいな、出て行ってからまだ半日も立っていない気がするが。首を捻り扉のほうに顔を向ける。

 

 ワイバーンの方は予定より早かったな。あとは書類上の手続きだけか、上手く国外に出れれば良いが。 


「わかった、今向かう」

 とりあえずルナに返事を返し、殆ど纏まっていた荷物を鞄に詰め込み閉じる。もしかしたら緊急で伝えるべき内容が出てきたのかもしれない。

 自室の扉を開け、前にいたルナに促され玄関へ向かう。そこには申し訳なさそうな顔をしているアルフがいた。


「どうした?」

 不思議に思い問いただす、大した情報をつかめなかったか? まぁ、情報自体はフォールス家より手に入るとは思っていなかったし、念の為の様なものだったから構わないのだが。せめてグランさんから情報が少し仕入れれば、程度の話だ。


「すまねぇ、親父は今城にいるそうだ。だから親父の情報は得られない。リリスの情報待ちだな。

 後冒険者ギルドに当たってみたがアウロラ家の結婚は、知ってる奴は知ってるみたいで話が広まっている。まぁ、国の代表の一人が結婚するんだから知れ渡るのも当然だが」


「ちっ、名前は?」

 どうやら目的としていたグランさんは居なかったようだ。それにギルド内にも広がっているとなると、コンフェデルスでは市井にも広がっている可能性が高いな。

 そういえば、とふと思い、念の為名前の件も聞いてみる。


「そこまでは分かってないみたいだ」


「分かった、ありがとう」

 おかしい……、名前が広まっていない? どういうことだ……、落ち着いて考えてみればおかしい、名前を知らせないメリットなど有るのか? 最初はスゥイに反対される可能性や、俺達が何かする可能性を見込んで代役を立てることも視野に入れた考えだと思ったが、ここまで根回しが済んでいて、さらに国内待機の指示を国から出すほどだ。名前を出したほうがさらに動きにくくさせれると思うのだが……。


 リリスとアルフを警戒しているのか? たしかにこの二人ならその辺の軍じゃ止められないが、まさかそこまで牙を剥くとは考えないだろう。

 

「なぁ、スオウ」


「なんだ?」

 一人思考に陥っていた所にアルフから声がかかる。顔を上げアルフを見ると真剣な顔をしてこちらを見ている。


「一人で行くつもりか?」


「なぜそう思う?」

 暫くこちらを見た後言って来る、内心驚くが顔には出さず、淡々と答える。


「何年の付き合いだと思っているんだ?」

 ふん、と腕を組みこちらを見てくる。いい加減はぐらかすのはよせ、と目が語ってくる。


「5歳の頃からだから、もう12年だな」


「お前の考えていることは分かるよ、なんとなくだけどな」

 普通に年数を答えたのが気に入らなかったのか、はぁ、とため息を付いた後言ってくる。


「そうか、なら言わなくてもわかるな。今回の件、お前が動くと面倒事が大きくなる。大人しくしとけ」


「まぁ、そうだな。その通りだと思う。だけどなスオウ、これはお前だけの問題じゃねぇんだ」

 わかっているのなら言う必要も無いだろう、それだけ告げて自室に戻ろうと後ろを向く。そこにアルフから声がかかる。


「なに?」

 首だけアルフに向き直る。悔しそうな、そして怒りを秘めた顔でこちらを見ている。

 なにが問題じゃない、と言うのだ。たしかに俺だけの話しではないのはわかってはいる。そんな事は分かってはいるんだ。


「確かにお前の考え方は正しい、正しいよ。俺が動く事によって起こる不利益は、俺が考えられないような事が一杯あるんだろうよ」


「そうだな、わかっているなら」

 話は終わりだ、そう告げる前にアルフが告げる。


「だがな、スオウ。これは俺の、俺達の友達が巻き込まれたんだ、大人達の都合でな!」

 手を振り払い、声を荒げる。手に力が入っているのだろう、握られたこぶしは硬く、白く震えている。


「おそらくな、さらに言うならフォールス家の、だろう」


「そうだな、でもそんな事は関係ないんだよ、お前の家の事だろうとなんだろうと、俺達の知らない所で勝手に巻き込みやがった。何の関係も無いスゥイを!」

 淡々と答えた俺に腹を立てたのか、この今の状況に腹が立っているのかはわからない。だが今居るフロア所か、家中に響き渡るほどの声で叫ぶアルフ。両手を握り締め、今にもこちらに飛び掛ってきそうだ。


 気持ちはよく分かる。いや、俺もそうだ。その通り、勝手に巻き込んだ事お前より頭に血が上っている自信が有る。

 

「わかっているさそんな事は! だから俺が落とし前を付けに行く、ただじゃ済まさん、産まれてきたことを後悔させてやる」

 思わず語尾に力が入る、顔だけ向けてしゃべっていたのが体後と向き直り、アルフに詰め寄り話す。そうだ、後悔させてやる、俺に、俺達に手を出したことをっ。


「あぁ、あぁ、そうさ。俺も、いや、リリスもライラだって一緒のはずだ! 冗談じゃねぇ、都合よく使われてはいそうですか、なんて言えるかっ」

 珍しく怒る俺を見て嬉しそうに笑うアルフ、不思議そうな顔をしている俺に向かって話してくる。扉の外を指して、城に向かっているはずのリリスとライラも同じだと、俺と同じだと、気持ちは嬉しい、嬉しいが。


「だが、お前は連れて行けない、下手をすれば国家間の問題に発展する!」

 

「上等じゃねぇか! 国家間だ? 上等だ、俺達のダチに手を出したんだ!」

 ダン、と足を叩き付けて話してくる。俺の襟首を掴み上げ顔を近づけて言ってくる。


「アルフっ!」

 そんなアルフを睨みつけ、戦争を起こすつもりか! そう怒鳴ろうと思ったとき。








―――――バンッ








 アルフの後ろの玄関口が開け放たれる。入ってくるのは金、金色の髪と街中を歩けば10人中10人は振り返るであろう美貌、それでいて近づきがたい神々しさを併せ持つ女性。まるで我が家の様に堂々と入ってきたかと思うと、押し問答を繰り返していた俺とアルフを睨みつけて言い放つ。



「なにをちんたらやっている! まとめて吹き飛ばすぞ!」

 入ってきたのは第三皇女、リリス=アルナス=カナディル。


 なんか前にも同じようなセリフを聞いたなぁ……と頭の隅で思った。

 













「リ、リリスか、なぜここに?」

 突然入ってきたリリスに毒気が抜かれ、思わずなぜここに居るのか聞く、聞いたところで特に意味が無いのに……。


「既に着いておったわっ、アルフがお主を呼びに行くからと言うから外で待っていたが、いつまで経っても出てこん! 猶予が無いのは分かっているのだろう!」


「あ、あぁすまん。そうだリリス城の情報は?」

 どうやら既に着いていたようだ。いや、あれ? おかしくないか? どうやってここまで来たんだ、当家は首都に近いとはいえ馬車でもそれなりに時間がかかる。俺が実家についてから半日……、学院からの距離的に先に城についていたのは間違いないが、計算があわない。


 いや、そんな事はとりあえず後で良い、城の情報だ、城の情報を手に入れないと。そう思いリリスに聞いて見ると。


「ないわっ!」


「えぇ?」

 即答された、ない? まさか情報規制されたか? くそ、遅かったか、まぁいいとりあえず現状の情報だけで、と考えていた所にリリスが爆弾を投下した。


「くだらん! 全て吹き飛ばしてきた! さぁ、さっさと行くぞ。コンフェデルスに喧嘩を売りに行くんだろう!」

 

「はぁぁぁぁああああ!?」

 言い終わると同時にバン、と入ってきた時と同じように玄関のドアを開け放つ、その先にはライラがすまなそうに此方を見ている。その後ろに居るのはワイバーン、どうやらワイバーンで来たからこれだけ早く来れた様だ……、っておい!


 今何て言った、なんて言ったあぁぁぁああ!


 oh my godとでも言いそうなくらいのテンションで頭を抱える、何をやってくれているんだこいつ! カナディルに喧嘩を売るつもりは無かったのに、その国の王女が喧嘩売って如何するの!? 何考えてるの!? ちょっと! どうすんのこれ!


 落し所、落し所どうすんだよおいっ! 思わずライラを見ると目をそらされる。くそっ、やはりライラだけでは駄目だった、俺が行くべきだったっ!



「お前はわかっておらん! スオウ、お前の問題ではないのだ、これは私達の問題だ! 私達全員に売られた喧嘩なのだ!」

 いろいろと頭の中で考えている俺に対して怒鳴ってくる。どうやら前回の説教の仕返しなのか、楽しそうに話してくる。

 

 腰に手を当て言い放った後、ゆっくりと右手を此方に差し出して言う。


「なぁ、スオウ、祭りは大人数でやるものではなかったかの?」

 くすくすと笑いながら此方を見てくるリリス、後ろに居るライラも笑っている。



 まったく、こいつらは……。






「はぁ……、お前ら、国に指名手配を食らうかも知れんぞ」

 まったく、もう、本当に。色々後の事を考えて動いているというのに、こいつらは本当に。

 

 苦笑しながら彼らを見る。


「あぁ」

 手をひらひらと振り、だからどうした、と此方を見てくる。


「軍と戦う可能性も出てくるぞ。特にリリス、国に帰れなくなる可能性も有る」

 

「わかっておる」

 既に帰る気は無い、と続ける。


「スゥイが望んでいるかどうか分からんぞ」


「それはスオウ君が一番わかっているでしょ?」

 ふふ、と笑いながらこちらに返してくる。


「本当に……、馬鹿共が」


「本当に……」

 最高に馬鹿共だ。









「わかった、じゃぁ……」


「ふん、決断が遅いわ」


「まぁ、それがスオウだしな」


「スオウ君らしいと言えばらしいね~」

 言い切る前にワイバーンに向かいながら好き勝手言う彼ら。


「お前ら……」

 はぁ……、と額に手を当てて、荷物持って来ないとならないんだけどなぁ、と思いながら彼らの後姿を見る。

 

 既に外に出ている最高の友人達。さっさと来い、と睨んでいるリリス。首を鳴らしながら腕が鳴るぜ、と話しているアルフ。予想通りの展開かな~と苦笑してるライラ。

 

 そして、俺の横には……。


「何をしているのですかスオウ、早く行きますよ」

 一瞬だけ彼女が居るように見えた。あぁ、まったく……、居なくても君は俺を引っ張ってくれるのか。困ったものだよ本当に。


 くっくっく、笑えてくる。


 あぁ、今行くぞ。

 


「行こうか、どこぞのお姫様をお助けに」

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