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Moon phase  作者: 檸檬
アウロラの花嫁
71/123

phase-66 【飛竜の強奪】

 舞い落ちるリリス、およそ5階に近い高さから落下した彼女は重力に従い落ちていく。

 このまま黙って落ちていけば、見事に綺麗な潰れたトマト、地に咲く赤い花となるだろう。


「くっ……!」

 地面が急速に近づいてくる、両手を構え魔術詠唱。

 両手が青白く光る、パリパリと雷光を纏い。



「はぁぁっ!」

 地面に向かって殴りつける。






【Tonnerre Un poing】《雷撃(ボルトハンマー)













―――――ズドォォオオン













 地面にクレーターを作り、その反動で再度空に舞う。パタパタとはためくスカートの裾を押さえ、空中で一回転しクレーターの脇に着地する。


「ふん、急がなくてはならないな、ライラは宿だろう、手が回る前に行く必要があるな」

 そう言いながら飛び出してきた城の城壁に空いた穴を見上げる。どうやら先ほどの轟音で兵士が駆けつけてきたようだ、こちらを見下ろし何か騒いでいる。


「ちっ、こんな時くらいは優秀じゃなくても良いのだがな、どちらにせよ足が必要だ、スオウと合流する必要もあるし。ワイバーンを貰っていくとするか」

 途中でライラを回収して向かうとするか。そう考えた後、ニヤリと黒い笑みを浮かべたかと思うと。



「姫様! 何をなさっているのですか、至急城に……!」

 駆けつけてきた兵士に向かって雷撃を放った。


 どうやら先ほどの音で外に居た兵士が駆けつけて来た様だ。残念だ、私を見つけなければ良かったものを。




「ぐぉっ……」


「ぎゃぁっ……」

 問答無用で倒されていく近づいてきた兵士達、逃げる暇も避ける暇すらない。残りの兵士は警戒し距離を取る。


「何度も言わせるな、私の前に立つのならばそれ相応の覚悟をしろっ!」

 城の中にまで響くほどの声で怒鳴りつけ、悠々と歩いていく。


 歩くたびに雷が放電し、パチパチと音を鳴らしながら周囲にある木や草が焦げていく。その姿はまさに威風堂々、まるで神が通るかのように兵士達が道を空ける。

 


「貰っていくぞ」

 ワイバーンの飛竜舎に向かい、閉じられていた鍵を指先から放った雷撃で消し炭に変えた後、ドガンッと扉を蹴破り中に入って行く。


 中に居たワイバーンの拘束用鎖を外し、ひょい、と飛び乗った所で下から誰かに声をかけられる。


「姫様、いい加減にして頂かないと我らとしても考えが御座いますぞ!」

 どうやら隊長格が出てきたようだ、装備は重厚で剣はかなりの業物だろう、吸い込まれるような刀身をこちらに向けて怒鳴ってくる。


「いい加減に? 笑わせるなそれこそ私のセリフ。何度も言わせるな、いい加減にしないと手加減できんぞ!」

 ふん、と鼻で笑った後、怒鳴り返す。と同時に指先から放たれる電撃、その向けていた剣が避雷針となったか一撃でその隊長格の男を焼く、ぷすぷすと鎧の隙間から煙を出すが目だけはこちらを睨みつけている。


「ぐぅぅう……、姫様、いけませぬ……、ここで貴方様が出られては……! 国を守るものとしての自覚をっ!」

 剣を杖になんとか身体を支えている状態、震えながらこちらを見て搾り出すように言ってくる。


「姫様、姫様、姫様だ?! 笑わせるな! 友一人救えない者が国を守れるかっ!」

 手綱を持ち上げる、ワイバーンへの飛び上がる合図だ、その長い首を上に向け嘶くワイバーン。

 同時に天井に向けて雷撃を放つ。









―――――ドォォオオン








 パラパラと木屑が回りに落ちる。たったの一撃で天井にワイバーンが飛び上がれるほどの大穴が開いた。


『キュィィィイイイイィ』

 まるでリリスの気持ちに呼応したかのように力強く嘶いた後、その大きな翼をはためかせ空へ舞い上がっていく。

 

 剣を杖にしてこちらを睨みつける男と周りに集まってきた兵士を見下ろし、聞こえるように叫ぶ。


「父上に伝えておけ、クソ食らえ! とな!」

 舞い上がるワイバーン、必要高度に達した後、全身にワイバーン特有の風魔術が全身を淡く光らせ覆う。




 城が下に見える、良く見ると城の屋上に誰か立っている、茶髪に大きな体、あれは確かアルフの父親の。

 何かしゃべっているが遠すぎて聞こえない、最後だけ口の動きで何を言っているか分かった。


 ニヤリと笑う、さすがはあのアルフの父親だ。期待に答えて見せようじゃないか、その後ギュン、と城の上空から飛び去った。 









「グラン副長! ここにいたのですか! 何をしているのです、下はもう大騒ぎです、いえそれよりも警備の責任追及が、あぁどうすれば……」

 部下の男が人生の終わりだ、とでも言いそうな顔で問い詰めてくる、騒いだところで状況は進展しないのだから体力の無駄だと思うのだがな。


「おう、まぁしゃーねーだろ、相手は加護持ちだ常備軍じゃ止められねぇよ」

 手を振り、カラカラと笑いながら答える、どうやらそれが気に入らなかったのか悲壮の顔から不満げな顔へ変わる部下。


「そういう事を考慮してくれるような上ではありません、だいたいこんな所で何を!」

 詰め寄って怒鳴られる、いやはや真面目な奴は大変だねぇ……、これを言ったら怒られそうな気もするが。


「あぁん? まぁちぃと一言言いに来ただけさ」

 暴れてきな、ってな。




















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

















 ワイバーン、飛竜種の一種。生活している環境によって性格が変わる生き物である。

 物品の郵送や人の送迎等色々な活用方法があるが、使われることは殆ど無い。理由としては個体数の少なさと、維持費の高額さ、そして従順にさせる為には卵の頃から育てなければなら無いと言う手間がかかるため、使用時は高額な料金が発生する。そのため使用する人、所持している人はごくわずかである。

 また、馬よりも騎乗が難しいと言われ、1週間もあればとりあえず乗れる馬と違い、ワイバーンは1ヶ月近い訓練が必要となる。正直な所、高高度での高速移動に恐怖心を無くすための訓練が半分を占めるので、それさえ克服してしまえば乗れてしまう乗り物でもある。


 固体によってサイズの差異はあるが、翼を広げればおよそ10mは有るかと思われる巨大な体、背には最大で4人は乗れるほどには大きい。もちろん荷物を積む事を考えれば人数も減るが。

 なによりその特徴は移動速度、ワイバーン特有の風魔術を独自に詠唱し空気抵抗をほぼ0にする事により高速での移動を可能とする、その最高速度はおよそ200k、もちろん全速力で飛ぶことは殆ど無い。なによりそんな速度で飛ばれては乗っている人間はひとたまりも無い。

 



 だがそんな常識は何処へやら、最高時速に近い速度でライラが居る宿へ向かうワイバーンが1匹居た。



「ここで旋廻してろ」

 目的地の上空にたどり着いた後、乗っていたワイバーンの背を数回叩き声をかける、理解しているのかしていないのかキュィィ、と嘶く。


 それを確認した後ワイバーンの背から宿の屋根に向かって飛び降りた。

 










「うーん、リリちゃん遅いなぁ、って、あれ城の方が何か……」

 宿の一室、窓際に腰掛けて城の方を見ていると、何か煙が薄っすらと上がっているのが見える。なんだろう、と見ていると暫くした後、城の上空に何かが飛び上がってきている。目を凝らすが遠すぎてよく見えない、なんだろう。


 そう思っていると段々とそれが近づいてくる。


「あれ、ちょっと……、え?」

 見間違いではない、あれは、まさかリリちゃんが乗っていたように見えたのだが。


 物凄い勢いで宿の上空に来たようだ、ワイバーンの羽音がここまで聞こえる。どうやら真上に居るようだキュィィとワイバーン特有の鳴き声が聞こえる。


 一体何事か、と思って窓際から離れて上を見上げた途端。














―――――ガァァアン












 



 宿の屋根をぶち抜いてリリスが降って来た。



「え、な!? ちょっとリリちゃん?」


「すまんライラ、急ぎだ、直ぐに出るぞ」

 埃と瓦礫と粉塵と、色々なものを撒き散らしながらリリスがこちらに声をかけてくる。

 

 あぁ、どうしてくれるの! 借り物なんだよここ! 宿屋なんだよここ! どうするのぉぉぉ! と、頭を抱えそうになるが、内心の葛藤は知ったことではないと上を目で指し、急げと言って来る。


「え、ちょっと! 城の情報は?」

 とりあえず気を取り直し、まず城の情報を、と思い聞きただす。嫌な予感がする、いやもう絶対だこれはもう絶対確実100%当たる嫌な予感だ。


「価値観の違いと言うやつだ」

 頬をかきながらそっぽを向いて答える。


「えぇ? 説明になってないよ!?」


「意見の相違か?」

 腕を組み、うーん、と悩んだ後聞いてくる。


「私に聞かれても困るよ!」


「まぁ、なんだ、やってしまった」

 ふっ、と長い髪を後ろに払い言って来る、無駄に決まってるから性質が悪い。


「あぁ、まぁ、そうだろうなって思ったよ……」

 やっぱり予想が当たっちゃった、もう、もう、ばかぁぁああ! 半泣きで睨みつけるがどうやら全く効きそうに無い。


「そういう訳で直ぐに出るぞ、荷物は?」

 少しは悪いと思っているのか目を逸らし、自分の荷物があったであろう場所を見る。

 

「纏めてあるよ、直ぐに出れる」

 はぁ……、と、ため息を付き答える。ある程度不測の事態に対応できるようにとこの長い付き合いで覚えた、アル君で慣れてたのもあるけど……、あぁ、スオウ君に会いたいな、唯一の常識人の仲間に……。


「予想通りか?」

 にやりと笑い聞いて来る。


「予想通りね」

 こちらも笑い答える、あくまで苦笑ではあるが。

















 空を自由に飛び回るワイバーンの上、向かうはスオウの実家だ。風でバタバタと棚引く髪を押さえ、前を向く。そこには同様に前を向いているリリス。長い金の髪が風に舞い夕日が反射して幻想的だ。


「それでリリちゃん何したの?」

 落ち着いたとはいえないが、とりあえず宿を後にして(クレームが来る前に飛び出した)ようやくゆっくり話が出来そうになったので聞いてみる。


「壊した」

 こちらを見ないで一言だけ告げてくる。


「え……?」

 内容が掴めず聞き返す。


「ちょっとな、壊したんだ」


「え? なんか壷とか? あ、椅子?」

 また簡潔に告げてくる、壊したって……、嫌な予感はするがとりあえず無難な所を聞いて見る。

 

「壁だ」

 あぁ……。


「…………」


「ついでに守護隊長ものして来た」

 あぁぁ…………。


「…………」

 夕日が……、まぶしいな……。

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