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Moon phase  作者: 檸檬
アウロラの花嫁
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phase-65 【皇女の決意】

「なんだと! 城から出るなとはどういうことだ!」

 カナディル連合国家、首都オールド。その中心に立つ城、カナディル城。その城の中の一室で叫び声が響き渡る。

 

 場所は彼女の自室、綺麗な調度品と、高級なベットが鎮座するその部屋で二人の女性が話し合っている。


「リリス様、お願いですから城内で大人しくしていてください。国王の命令でもあるのです。それに今回余計なことをされますと司法部の人間が黙っておりません」

 相対するのは30歳半場ほどであろうか、リリスの古くからの世話係であるララ=ホルウィン、リリスと同様の金髪を短く切りそろえており、メイド服を着込んでいる。

 

 口調は穏やかで、謙った喋り方をしているが、言う事を聞け、と目が語っている。彼女とも長い付き合いだ、学院に入る前は彼女が一番の話し相手だった。私の気持ちが分からない訳が無い。


「ふざけるな! どう考えてもおかしい話だろうがっ、それに依頼しておいた調査資料、ふざけているのか、何だこの内容は!」

 先ほどララに渡された資料を叩きつける。全て既に知っているような内容、そして殆ど調査中としか書かれていない。

 舐めきった報告としか思えない、仮にも第三皇女にこのような報告をするなど、所詮私は皇女といえど役職を持っているわけではない、明確な権限が無い以上強制する事は出来ないのかもしれないが、役職が無いといえどこの報告、上の人間から指示されているとしか思えん。


「リリス様、申し訳ありませんが伝えられる内容とそうでない内容、そのくらいもうお分かりでしょう?」

 

「なんだと!」

 叩き付けた資料を拾い集めながらこちらを見て話すララ。冷静な彼女が何処か腹だたしい、調査資料の件も合わさって怒鳴り、問い詰める。


 国の調査機関を使ってこの程度などありえないだろう。当然調査機関とて万能ではない、全てを知りたいといっているわけではないのだ。だと言うのに欠片すら知らせないとは……。


「もう少し冷静になってお考え下さい。今回のこの件ただの結婚式ではありません」


「当たり前だ、行きなりこんな話になる等と、明らかに裏があるとしか思えんわ」

 明らかに様子がおかしいと聞いているスゥイの件、急速すぎる六家の結婚。普通王家は当然として六家とて遅くても1ヶ月は前に連絡をするはずだ。それにも関わらず連絡が来たのが10日前だと? ふざけている。


「正直な所申し上げますと、何を目的としてこのような事を行っているのか不明なのです。どうやら司法部の人間と国王の側近が何名か知っているようですが」


「なに……?」

 国王の側近が知っているとなると父上も知っている可能性が高い、もちろん完全な一枚岩と言うつもりは無いが。それに司法部だと……、なぜあいつ等が出てくる。あいつらはあくまで国内の法律違反者を取り締まるのが仕事だ。相手が国族であれ逮捕権限を持ってはいる、しかし身内贔屓ではないが現状カナディルの政治は上手く回っている、今回はコンフェデルスで起こっている話だ、今回の関係で出てくる意味など……。


「リリス様、これは想像で御座いますが……」


「なんだ?」

 少しだけ目を伏せ話しかけてくるララに答える。


「フォールス家に対する警告かと」

 それに動いているのはコンフェデルス側の様で……。と続けるララ。

 

「どう言う事だ、悪感情を持たれるのは当然だろう? なぜ態々このような事をする」

 カナディルからの牽制や力を持ちすぎたフォールス家に対する抑圧行為なら分かるが、それにしたってスゥイに目を付けるのはおかしい、もっと別の方法があるだろうしこれでは唯の嫌がらせ、落とし所も見つけようが無い上お互いにメリットすら無い。まさにただの関係悪化だ。

 むしろこれが元でフォールス家に臍を曲げられ帝国に船を出荷するなどといわれたら目も当てられない。そもそも商人は売れるところには売るのが常識だ、国内優先としているフォールス家こそ稀なのだ、態々関係を悪化させる必要が無い。

 コンフェデルスとて同じだ、スオウの動きもあって三家との繋がりも有る、船だってコンフェデルスには普通に卸しているのだ、ローズ家の仲介があるにせよ価格面がべらぼうに高くなるわけではない。拗れさせる必要性が無い。


 私やアルフも友人だと言うことだって分かっているはずだ、本当に何を考えている。自分の首を絞めているだけではないか。


 帝国が裏で何かやっているのか……? いや、まさか……。


「それは……、申し上げられません」

 

「なに?」

 悩んでいる所でララから返事が来る、言われた内容が信じられず眉を顰めて聞き返す。


「申し上げたらリリス様は必ず出て行かれるからです」


「なんだと! ならば申せっ、私の命でも聞けぬか!」

 淡々と答えられる、変わらぬ表情が私を苛立たせる、思わず怒鳴り、権力を使ってしまう。


「自分のお立場をご理解下さい! 今貴方様が動けば諸外国も反応します。最悪結婚してから対策を取れば時間も有りますしいくらでも……」


「スゥイの感情は無視かっ!」

 愚かだ、どいつもこいつも愚かだ。所詮書類上でしか見ないのだろう、彼女がどうやって笑い、どうやって怒り、そんな事は何も知らない。ライラからスオウに書いた手紙の事も聞いた。彼女がどんな気持ちであれを書いたのか、それが分かるか、貴様らに分かるのか。


「リリス様……」


「もう良い! 私は出て行く、スオウと共にコンフェデルスに行く」

 最早ここに様は無い、私は私の意志で動く。


「お待ち下さい、いくら同盟国とはいえ刺激するものではありません。どうしても出て行かれるというのなら」

 衛兵! と扉の外に呼びかける。部屋の外に待機していたのか、10名近い完全武装の兵士がリリスを取り囲む。


「どういうつもりだ」


「申し訳ありませんが拘束させていただきます。国王の許可も既に得ておりますので」

 思わずララの方を向き問いただす、どうやら私の行動は予測済みだったようだ。ガチャガチャと鎧を鳴らし剣を抜いて構えてくる、私を中心に円を描くように配置し少しずつ迫っている。だが、だがしかし。


「違うぞララ、この程度の人数で私を止めれる等、どういう考えだと言ったのだ」

 笑わせてくれる、傑作だ、たかが衛兵、精鋭なのかも知れないがたかが10人程度で私の前に立つ?

 どうしたララ、何を驚いている、私が誰か忘れたのか?


「なっ……」


「どけっ!」

 ギロリと衛兵を睨みつける。愚かな、私の先に立つ愚かさをその身を持って思い知るが良い。



 金の長い髪がふわりと浮き上がったと思うと、毛先からパリパリと地面に放電現象を起こし。












【Un corps entier choc électrique】《領域放電(エリア・スパーク)














―――――バチン














 全身から雷撃を放ち、部屋が一瞬閃光に埋め尽くされる。半分開いていた扉からは廊下にまで光が漏れている。取り囲んでいた兵士を一瞬にして感電させ倒す。ピクピクと動いているところを見ると死んでは居ないようだ。 


 ファサ、と金色の髪が重力に従い垂れ下がる。部屋の中には最早立っているのはリリスだけ、横を見ると震えながら顔を持ち上げ、両手で懸命に身体を持ち上げようとしている女性が映る。





「ララ、彼女は私の友達なんだ、初めて出来た友達なんだ。こんな所に居るわけにはいかないんだっ」


「ぐっ……、リリス様……」

 上半身だけを何とか持ち上げこちらを見ているララに告げる。他の兵士から離れていた事もあり、未だ意識があるララ、いやリリスが意図的に手加減したのかもしれない。


「すまない」

 倒れている兵士にも心の中で謝り、魔術詠唱を再度唱える。

 おそらく先ほどの雷撃で衛兵が集まってくるだろう、なにより抜け目の無いララの事だ、既に出入り口は封じられている可能性が高い。前を向く、馴染みのある部屋だ。自分の自室、子供の頃から使っていた部屋、ララとここで話す時間が何より楽しかった。


 壁を見る、壁一つにも思い出がある。落書きこそ無いが子供の頃から見ていた壁だ。15年間の箱庭、でも、今の私にはそれよりも大切なものがある。






 雷球が左手に出現する、パチパチと放電しながら少しずつ浮かび上がり。




 












【Tonnerre Une balle Un pistolet】《雷弾砲(ブリッツ・ブラスター)














―――――ドォォオオオン















 右手でその雷球を打ち抜く、同時に轟音、目の前の壁が崩壊し、青い空が見える。


 青い空を見上げ呟く、室内との気圧の違いか、外の風が強いだけなのか彼女の金の髪が後ろに舞い、ドレスがバタバタとはためいている。


「すまないな、私はどうやら姫にはなれない、自分勝手かもしれない、そうだスオウにも前に言われた。あの時は本当に困ったよ、皇女相手にあそこまで怒る人間がいるとは、ふふふ……。

 しかし結局私は何も変わっていない。けれど、こんな分けの分からない策略に使われて踏みにじられてっ、冗談じゃない、私の友人をなんだと思っている。国が相手? 上等だ私はリリス=アルナス=カナディル、運命の女神クロトの守護を持つ者。私の友に害をなすなら、この私が全て薙ぎ払ってくれる!」

 虚空を睨みつけ、崩壊した壁の穴から飛び降りた。

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