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Moon phase  作者: 檸檬
アウロラの花嫁
68/123

phase-63 【思考の放棄】

「ルナ!」

 実家の玄関の扉をバンッと開き、ルナを呼ぶ。到着時間を予想していたのだろう、すぐに奥から出てくる。

 

 手にはおそらく俺達が付くまでに集めたのであろう資料を持っている。


「ご無沙汰しておりますスオウ様、手紙は既に奥様の元に、此方でも調べていますが……」


「何かわかったか?」

 挨拶もそこそこに、連絡事項の通達に移る。ルナの顔から見るに芳しい結果は得られていないようだが問いただす。家に付くまで数日間の猶予もあったのだ、少なくとも今の俺よりは詳しい情報が入ってきているはずだ。


「はい、当家にスオウ様からの手紙が届く数時間前にアウロラ家より手紙が届いておりました。相手方の名前が記載されておりませんでしたので特になんとも思わなかったのですが、スオウ様の手紙を確認した後理解いたしまして」

 

「何の手紙だ?」

 俺の手紙が届くより早く来ているなどと、やはり予め計画していた事か、これで確定したな。しかしアウロラ家だと? あの家との関係は無かったはずだ。まさか今回の件の相手は……、疑問に思いルナを見て聞き返す。


「結婚式の招待状ですよ、既に名家や有名所には通知が終わっているようです。カナディル王家にも通知済みの様ですよ」


「やってくれる。相手の名前が記載されていなかったと言ったな? それは他に通知されているのも同様か?」

 ルナからの返答を聞き、さらに状況の最悪さを理解する。やってくれる、本当にやってくれる。これで事実上アウロラ家で結婚をするのは確定の話になっている。ローズやレイズ、ベルフェモッド程の力は無いが六家の一つだ、今更取り下げるなんて事は絶対にしないだろう、名前が記載されていないのは救いだが、唯一付け込めるのはそこか?


 念のため他家にも通知されている内容も確認する。当家にだけ名前が記載されていないのでは意味が無い。


「はい、同様に記載されていませんが、六家とカナディル王家には既に通知済みの様です」

 

「ずいぶん手回しの早い事だな、時間的に考えて通知後にスゥイを迎えに来たという形か」


「おそらくは」

 どうやら主要所は既に抑えていたようだ、手回しが早すぎる。いくらなんでもフォールス家に知られずにここまで進めるなどと、フォールス家は今や唯の造船会社では無い、レイズ家の関係もあり、裏にもかなり顔が利く、このような話、入って来ない訳がない。俺が傍に居ることを警戒して口出しできない状況に一気に持って行くつもりか。


「アルフ、聞いたとおりだ。国の情報はリリスが持ってきてくれるだろうが、グランさんにも当たってくれないか。どういった情報がカナディルで流れているか、軍で流れている情報と市井に流れている情報、二つ知りたい」

 後ろに着いてきたアルフに向かって声をかける。リリスは既に城で情報収集、ライラもそれに付いて行った。カナディルに滞在予定は1週間を考えていたが、結婚式は来月の中旬、あと10日しか無い。ふざけやがって、ここからコンフェデルスまで6日かかる、余裕は4日だけ、いや、コンフェデルスに付いてからの行動も考えると今直ぐに出たいくらいだ。これでは城に向かったリリス達と合流できない。


「わかった、直ぐに行って来る」

 頷き走って外に出て行くアルフ。その後姿を見ていたルナが声をかけてくる。


「スオウ様、市井に流れている情報でしたら此方でも集めてありますが?」


「アルフは冒険者としてそこそこ名が知れている、得られる情報も違ってくる可能性がある」

 だが時間が無い、しかし中途半端な情報では意味が無い。向こうに行って路頭に迷っても困る。ならば移動時間を短くするしかない。


「わかりました、ご主人様は夕食前には戻るとのことです、まず奥様に会われますか?」

 執務室に向かいながらルナから話しかけられる。おそらく其方の手配も既に済んでいるのだろう、スゥイが好きだった母上の事だ、時間を作って待っているに違いない。


「ああ、頼む。それと」

 ワイバーンの手配を、そうルナに告げた。

 















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


















 数日前、寮の自室での話を終え、各自出立の準備をしている時




「スオウ君、これ! スゥちゃんの机の上に」

 学院長室に向かい、これから暫く出かける旨と情報がはいったらフォールス家にまで連絡してくれ、と、学院長に伝え、出る準備をする為、寮の自室に戻る途中ライラに呼び止められる。


「ライラか、何か見つかったのか?」


「手紙が……、皆にって」

 声をかけられた方を向くと、走ってくるライラが居た。何か手に持っている、傍にまで来てその手に持っていた紙を見せてくる。封筒にも入っていないただの2枚の紙、ライラが言うには手紙との事だ。

 紙面を見ると文字が書かれている、おそらく話の流れからスゥイの手紙だろう。時間が無かったのだろうか、いつもの綺麗な彼女の字ではなく若干乱れている。


「内容が……、スオウ君……」

 心配そうに此方を見るライラ、一体何が書いてあった。


「見せてくれ」

 

「……うん」

 少し悩んだ後、心配そうな目で此方を見ながら手紙を渡してくる。











『皆へ


 突然の退学となり、申し訳ありません。何分急な話で皆さんにご挨拶できなかったこと、お詫び申し上げます。


 理由と致しましてはこの度名家との縁談が纏まりまして、そちらへ嫁ぐ事となりました。相手方も申し分ない程良い方ですのでご心配は無用です。

 

 本来であれば卒業後の結婚の予定でしたが、どうやら先方の都合で時期が早まりました。皆さんと卒業できないのは大変残念ですが、今まで有難う御座いました。


 リリス様とはもしかしたら結婚式場でお会いできるかもしれません。その際再度お詫びさせて頂ければと思います。


 落ち着きましたら今までのお礼と、急な話でまともにご挨拶も出来なかったお詫びにお伺いいたしますので、宜しくお願いいたします


 スゥイ=エルメロイ』






 およそA4サイズほどの紙に文字が書かれている。間違いなくスゥイの字だ、若干乱れてはいるが10年間見続けた字だ、間違えるはずが無い。







「……、なんだこれは」

 おもわず呟く、何を考えているあの野郎。


「スオウ君、2枚目……、ごめんなさい。これ、本当は封筒に入ってて、でもごめんなさい、見ちゃって」

 持っていた2枚目の手紙も渡してくる、その顔は泣きそうな顔をしている。俺を? 俺を心配しているのか?


「なに……?」

 不思議に思い手紙を受け取る。封筒に入っていたのだろう、1枚目の手紙とは違い折りたたまれた後がある。













 

『スオウへ


 いろいろ悩んでいるかと思いますが、幸せに結婚できるので問題ありません。


 もともと私は実家の家の格を上げる為に貴方に迫っていただけですので。

 

 当時出会ったころは有名ではありませんでしたが、将来性のある蒸気船等を開発しており、私どもの家としても正直落ちぶれておりましたので、大きな家に行き成り迫るのは難しく、まだ子供であり、同年代だった貴方を利用させて頂きました。


 残念ながら靡いてはくれませんでしたが、今となってはそれに助けられた形になります。フォールス家より上等な家と関係を結べそうですので今まで有難う御座います。

 

 学院室にお呼びしたのは、この旨をお伝えする為です、ですが、さすがに先生方がいる前で言うのも酷だと思い、手紙にてお伝えいたします。


 それと、申し訳ありませんが余計な事をしないで頂ければ助かります。


 それではお元気で。



 スゥイ=エルメロイ』










「スオウ君、大丈夫……?」

 心配そうな目で此方を見てくるライラ、なるほど、そう言う事か、おかしいとは思った、いや本音を言えば思ってはいなかった、が、今更ながらに思えばおかしい事だらけだ、最初から好意的な態度だった彼女、普通に考えれば加護持ちを友人に持ち、貴族をぶちのめした相手と行き成り親密になろうとするのはおかしい。

 だが、彼女の性格が違和感を与えなかった、冷静な判断が出来るものだと考え、ただの見た目だけで判断する人間ではないのだろう、と。

 

 よくよく考えてみれば当時彼女は6歳だ、判断が出来たとしても、いや、どうなんだ、6歳ならそこまで考えるのか……、わからない、彼女の本音は何処にある。


「ふぅ……」


「スオウ君……?」

 思わずため息を付く、体から力が抜ける、ライラが心配そうな目で此方を見ている。漏れ出る声は掠れていて今にも泣きそうだ。


「あぁ、なんか疲れた」

 疲れた、本当に疲れた、なんでこう、もう、面倒だ、本当に面倒だ。


「え……、ちょっと待ってよ、このまま引き下がるの? こんなの絶対嘘に決まってるよ! こんな事考えるわけ無いよ!」

 俺の力の無い声に反応してライラが声を荒げる、その目には涙が薄っすらと溜まっていて、今にも零れ落ちそうだ。


「あぁ、違う違う、悩むのが疲れたって事」


「え?」

 そんなライラに向かって手を振る、きょとんとした顔で此方を見るライラ、真意を掴みかねているようだ。


「関係ない、どうでも良い、直接聞けばすむ事だ。それに本当にこの通りなら俺を利用したツケを払ってもらわないとな」

 

「えぇぇ……」

 考える暇があれば行動しろ、そうだまずは行動しろ、手紙なんてふざけた媒体ではなく直接聞かせて貰おうか、そしたら大人しく引き下がってやる。俺を利用したんだ、その分の利息は払ってもらうぞ。

 目には意志と決意が戻る。そうだ、冗談じゃない、この程度で引き下がれるか、守ると誓ったんだ、本人から直接聞くまで挫折できるかっ!


 先ほどまでの悲しい顔は何処へやら、今度はライラが力ない言葉を発する。やはりどんな状況でも結局苦労するのは俺とライラかもしれんな。

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