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Moon phase  作者: 檸檬
蠢く世界
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phase-55 【交渉の前日】

「アルフ、ここ間違ってる。あと、これは略式じゃない、詠唱内容が違う」

 馬車の中、アルフが解いている問題集を横から指摘する。

 

 コンフェデルスへ向かう途中の馬車の中、今年は高等部への進級試験もあるため、学力に不安のあるアルフは移動中も勉強だ。

 勉強の為ライラを連れて来るか、アルフを置いていくか悩んだが、武器の件はアルフが居ないと始まらないのでアルフを置いていくのは無理だろう。



 という事で。



 アルフとライラ、両方つれてきた。リリスは暫く帰ってないからな、と、城に一旦戻るそうだ。


「ぐっ……」

 指摘された所を見直すアルフ、横からライラが答えを教えている。

 サイドポニーにした髪がアルフに当たる、いや、あれはべしべしと叩いている。彼女なりにむかっとするのだろう……。微笑ましいが、その内手が出そうだ。


「ライラ、あまり教えるとアルフの為になりませんよ」

 本を読んでいたスゥイが、目だけをライラに向けて話す。


「うーん、わかっているんだけどね~。このままじゃ進まないんだもん……」

 アルフがやっている問題集から目を離し、こちらを見ながら言ってくる。学院を出てから直ぐは、彼女も自分でやらせないと、と言っていたが、今や諦めた様だ。


「ぐぅ……」


「せめてコンフェデルスに着くまでに、中等部基礎学問だけでも完璧にしとけよ。魔術詠唱の公式は最悪できなくても、お前なら実技でカバーできるだろう。基礎学問を優先しとけ。後は、最後の1ヶ月で地獄の詰込だ」


「うう……」


「コンフェデルスについたら私も自分の復習もかねて手伝うから! 頑張ってアル君!」

 握りこぶしを作って励ますライラ、目には闘志が宿っている。高等部にさえあがってしまえば、後は卒業試験だけだ。俺もアルフも研究部に行くつもりはないし、ライラもそうだと言っていた。そういえばスゥイとリリスは如何するんだろうな。


 リリスはまぁ……、立場的に色々難しそうだが。


「あぁ……、すまねぇライラ……」

 疲れた目でライラを見る、その目は悲壮と絶望と、後なんか色々混ざってそうだ。わからんけど。


「最早毎年の風物詩ですね」

 スゥイが、ふむ、と言いながら話しかけてくる。これが無いと夏になった気がしませんね、とか呟いているが……。


「それもどうなんだ……」

 もっと清涼感のある夏の風物詩を希望する!




 コンフェデルスまで後6日間、アルフの頑張り所だ。















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・














「さて、まずはライラ、すまないがアルフを連れて宿を探してきてくれ」

 コンフェデルスに着き、馬車を降りた後。ライラに宿の確保のお願いをする。


 今回はベルフェモッドと交渉だ、さすがにローズ家に厄介になるわけにも行かない。なにより加護持ちがローズ家に泊まったとなると面倒な話になる。考えすぎかもしれないが。


「ん? わかった~、二人部屋二つでいいかな?」

 ライラが此方を見、指を二本立て、いいかな? と首をかしげて聞いてくる。


「あぁ、こっちはアルレ鋼の交渉だ、スゥイちょっと付き合ってくれるか?」

 頷き、返す。スゥイに声をかけ此方は此方で下準備だ。


「えぇ、構いません」

 

「俺は交渉に行かなくて良いのか? 俺の武器なんだし申し訳ないんだが……」

 スゥイと話をしているときにアルフから聞かれる。たしかに気持ちはありがたいが、小さな親切なんとやら、だ。


「そうだな、正直に話すがアルフ、お前が来ると纏まるものも纏まらない、ので却下だ」

 

「ぐっ……」


「アルフに駆け引きは無理でしょう。あぁ、いえ、物理的な脅しと言う意味の駆け引きは可能でしょうか?」

 当然です。とばかりに返すスゥイ。途中、ふと気付いたかの様に物騒なことを話し出す。


「お前はコンフェデルスと喧嘩する気か……」

 六家に喧嘩を売るということはすなわちそういう事だ。同盟中とはいえ、ろくな事にならないだろう。


「わかった、すまん。交渉は任せる。じゃあ俺は前に会ったブルムさん所に顔を……」

 自分でも自覚があった様で、少しへこんだ様だが直ぐに気持ちを切り替えて話してくる。


 どうやら剣が待ちきれないようで、以前会ったブルムさんと話をしたいようだ。先ほどのへこんだ顔は何処へやら、うきうきとブルムさんの作業場へ向かおうとする。


「お前は宿で勉強だ」

 はぁ……、と、ため息を付き言ってやる。


「勉強です」

 即断即答するスゥイ。


「勉強だよアル君」

 作業場に行こうとしていたアルフの腕を掴みながら、宿に引きずっていくライラ。なんか最近彼女も強くなったなぁ。


「なぜだ……」

 俺に休みはないのかぁぁあぁ! と叫んでいる。日頃の積み重ねをしないのが悪い。自業自得である。 













「スオウ、なにを?」

 何をするのか教えていなかった為、聞いてくるスゥイ。


「あぁ、どうせ俺達が町に入ったのは分かってるだろうからな。適当にぶらついて顔を出しておく、と言う事と」

 斜めに掛けた皮製の鞄に手をいれ、目的の物を取り出す。


「事と?」

 

「レイズのおっさんに手土産を、な」

 そう言ってA4サイズ程の茶封筒を取り出した。

















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・















「ご無沙汰しておりますスオウ様、申し訳ありません、主人は只今出かけておりまして」

 久しぶりに会うレイズ家メイド長、バラナ=ラドナである。突然訪問したのにメイド長が応対するとは、それなりに買ってくれているようだ。


「えぇ、ご無沙汰しておりますバラナさん。そうですか、では此方の手紙をボルゾ様にお渡し頂けますか?」

 そう言って先ほどスゥイに見せた封筒を渡す。


「手紙、ですか? 分かりました、主人に渡しておきます。ご用件は以上ですか?」

 手紙を受け取り、若干怪訝そうな顔をした後、手紙から目を離し、こちらを見てくる。


「はい。有難う御座います、宜しくお願いいたします。それと此方も宜しかったら皆さんでどうぞ」

 私どもの製品ではありますが、と、鞄から予め取り出しておいて袋に入れておいた菓子箱をスゥイから受け取り渡す。


「おやおや、販促ですか?」

 菓子箱を受け取りながら返してくる。目尻が下がっている事から冗談で言っているのだろう。


「是非、メイドの皆様でお召し上がりになられて、今後うちの物を買って頂ければ、と思いまして」

 笑顔で返す。自慢の和菓子だ、職人がこの世界にも誕生した事が何より嬉しい。お茶がないのが本当に悔やまれる。

 

 母上に話したら絶対に探してみせるわ! って息巻いてたからその内見つかるかもしれないけど。


 ちなみに和菓子職人、一番の腕は母上だったりする。子育てどこいった……。いや、きちんと両立してるだろうけど。頑張れロイド。この交渉が終わったら構ってやるからな……。

 

「ふふ、では有り難く頂戴いたします。しばらく此方に滞在されるのですか?」

 菓子箱を受け取り、近くのメイドを呼びつけて渡す。少し驚いた顔をした後、こちらに礼をし、菓子箱を受け取り下がっていった。

 メイドが下がったのを確認した後、滞在期間を聞いてきた。


「そうですね、1週間は間違いなく居ると思います」

 交渉は然程時間は掛からないと思うが、アルフの意見やらなんやらを反映しなくてはならない、そんなにしょっちゅう来れる訳ではないから綿密に打ち合わせをしていないと出来上がった後に後悔する事になる。


「ローズ家に?」


「いえ、今回は町の宿屋に、あまりお世話になりすぎる訳にもいきませんから」

 

「そうですか。では何か有りましたらまたお尋ね下さい」

 

「はい、有難う御座います。お忙しい所失礼致しました」

 頭を下げ、屋敷を出る。






 


 さて、少し街中を回った後宿に戻るとするか、予め連絡をしていた日にちは明日の昼だ。当主に会えるかどうかは分からないが。

 

 最終的にアルフ、いや、俺達が稼いだ金は金貨で87枚だった。最後の追い上げが思ったほどではなかったのだ。

 

 理由としては討伐系が減った事、あとは傭兵ギルドから移った人の為に冒険者ギルド側で調整を行ったからだ。もちろん余計ないざこざは求めていないので、特に何も言わなかった。ただでさえ、あまり良い顔をされていなかったのだ。

 

 俺も抜けていたのだが、予想以上に俺に対する風当たりが強かった、もちろん正面切って何かを言って来るわけでは無いのだが。

 フォールス家の名前は、良くも悪くも知れ渡っている。そんな人間が冒険者ギルドで金を稼ぐ、つまり、金を持っている人間が人の仕事を奪っているのだ。不満が出るのは仕方が無い。リリスも同じ事が言えるのだが、女性と男性の違い、皇女としての話題性、まぁ、いろいろな事情がありもっぱら俺に不満が募ったわけだ。


 そんなわけで最後の追い込みもしなかったし、冒険者ギルドの調整はむしろ有り難かった。



「その代わり、家の力を使うことにしたが、な」

 そう、足りない分はフォールス家から出した、今、俺はおよそ300枚の金貨を使える立場にある。もちろん、使う気はないが。

 

「アルフにばれたら怒られるのでは?」

 

「まぁ、その時はその時さ」

 アルフには言わなかったが今回の件、別にアルレ鋼は副産物に過ぎない。ベルフェモットとの関係を作り、レイズと疎遠にならず、そしてローズの関係を維持する。いやはや、あまり欲張るべきではないのだろうが。欲張ると必ずどこかに弊害が起きる、しかし……。


「ローズ家はフォールス家と船の取引で繋がっている。レイズ家は一部の船を格安で降ろす事によって繋がっている、であれば……」

 ローズ家もレイズ家も俺の能力を買ってくれているところも大きい、とくにレイズ家はそうだろう、が。


「別ルートからの関係を持つ相手がほしいと言う事ですか」


「まぁ、な」

 しかし、ここまで手広くやると暗殺か、誘拐か、可能性が出てくるな。俺はともかく周りの人間が危険になる可能性がある。だからこそ、ローズ家との繋がりをあえて大々的に流したわけだが。

 ぽっと出の造船会社より、数百年続くローズ家の名は大きい。庇護下に入ることにも然程違和感はない、多少の金を払ったとしても、だ。


 ナンナ様は他にも目的がありそうだが……、読みきれんな、面倒な事でなければ良いが。













 その後、スゥイとコンフェデルスの町を回り、いくつかの店を冷やかした後、宿屋に向かった。













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