表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Moon phase  作者: 檸檬
蠢く世界
58/123

phase-53 【漁業の思惑】

「ベルフェモッドと接触したようです」

 モノクルをかけた執事が執務室で書類と格闘している主人に報告をする。


「そう、有難う。話の内容までは?」

 視線は書類を向いたまま返事をする。


 美しい金髪が、さらさらと開けた窓から入ってきた風に吹かれて揺れている。

 ナンナ=アルナス=ローズ、20歳になり、ますます美しさに磨きをかけてきている。


「申し訳ありません、そこまでは」

 申し訳なさそうに頭を下げて返す。流石に他家の家の中の会話までは分からない、それも相手は同じ六家だ。


「まぁ、いいわ。アルレ鋼の件でしょう。それよりアウロラとの会談の手はずは?」

 その辺は理解しているのだろう、とりあえず一応聞いてみた、程度の話だったようだ。書類から目を外し、此方を見て早々に話を切り替えてくる。


「そちらは明日の夜、時間を取って頂きました」

 頷き、返す。こちらを、と予定表を渡す。


「そう、助かるわ。しかし、エルメロイ、ね。こんな所に使える駒があるとは思わなかったわ」

 その予定表を見ながら答える、くすくすと笑うその顔は楽しそうだ。


「しかし宜しいので? スオウ=フォールスが敵に回るかもしれませんよ?」

 口では確認をしているが、表情は全く気にしていなそうだ。


「ふふふ、それは無いわ。あの子は賢いもの。此方の思惑まで見通すでしょうね」


「なるほど、予想通りに動かなかった場合は?」


「それならそれで一人の少女が不幸になるだけよ」

 まぁ、不幸かどうかは分からないけれどね? と笑いながら話す。

 そう、むしろ彼女にとって幸せかもしれない、確実に余計なお世話だろうが。


「帝国の方は予想通り裏で色々と動いているようです、それと例のトロール騒ぎの件ですが……」

 そうですか、と答えた後、次の報告に移る。帝国の件は正確な所は分からないので割愛、もう一つ、コンフェデレスにも魔獣の増加、という形で影響が出ているトロール騒ぎの件だ。

 

「分からないのでしょう? 仕方が無いわ、おそらくですけどリメルカが関わっているでしょうからね。後……」

 最初の報告と同様に、申し訳ない顔をしている執事に向かって話す。正直あまり期待していなかった上、リメルカが関わっている、となると、得られる情報の価値以上の金が掛かる。出し惜しみして後手に回るわけにはいかないが、無駄に出費をすることが良い事ではない。

 他家が掴んだ情報を掠めるか、帝国経由で仕入れるほうが良いだろう。


 後、トロールがなぜ動いたか、だ。これは後ほどの調査で、大量に埋められていたモノを見つけ、原因が発覚した。

 

 

「トロールの子供の首、ですね。アウロラから大量の塩と樽が出荷された形跡がありましたので、おそらく関係があるかと」

 その数は凡そ50のトロールの子供の首、腐っていないところを見ると塩漬けされていた可能性が高い。それが麓の村の近くに埋められていたのだ。

 

 残虐なのは魔獣か人か、一番恐ろしいのは人かもしれない。


「ふふふ、帝国と王国、両方に良い顔をしようとしているのかしら。さて、あそこの当主は何を考えているのかしらね。アルレ火山のお山の大将で満足しておけば良いものを」

 

「しかし、場所的に両国にある程度の顔を持ちたいのは、やむを得ないでしょう」

 アウロラ家の統括している場所はコンフェデルスの右上、北東、アルレ火山のある辺りである。外輪船ができた為。リメルカ王国に対する警戒と、深遠の森があるとはいえ、帝国の属国であるスイル国にも近い、警戒するのも当然の話だ。


 うふふふ、と笑い。まぁ、それだからこそ外輪船をあの国に売ったのよ、と話すナンナ。


「帝国からは?」

 そろそろ報告が届く頃でしょう? と執事に促す。


「此方に報告書が」

 ナンナに厳重に封をされた封筒を渡す。封筒は何処にでもある物だが魔術刻印を施した印で封をされている。特定の人間以外が開くと、燃えてしまう様に細工されている。











 指に嵌めた指輪で印を解き、ペーパーナイフで封を切る。宛名はナンナ=アルナス=ローズ、差出人はR/Hと書いてあった。














・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・














 冬が終わり、また春が来る。カリキュラムも後半に差し掛かり、今年は高等部の試験も控えている。

 スオウ、スゥイ、アルフ、ライラは16歳になる年、リリスは17歳だ。本当に早いものだ。




 今年の夏はアルレ鋼の商談がある、金貨200枚はまず無理、問題はどちらから買うか、だが。机の上に置いてある本を見る、念のために作っておいた技術書だ。正直な所、俺は建築分野はそれほど詳しくはない、精々触り程度だ。その程度の技術なら既に確立されているだろう。そのため、出せる技術は別の部分になる。


 前回は日本人特有の木造加工技術をレイズ家経由で渡した、となると次はコンクリート、か。しかしこれは活用方法が広すぎる、これを渡すにはそれなりの関係を結べる核心が無いと困るな……。


 が、フォールス家では無く、俺個人と関係の強い家が欲しい所でもある。ローズ家は確かにフォールス家に協力的だが、フォールス家に寄り過ぎている。使えない場合も出てくる可能性がある以上は手札は増やしておくべきだ。


「あまり露骨に結びついて今までの関係を壊すのは困るが、ローズ家はあくまでフォールス家、とだ。やり過ぎなければ俺個人とベルフェモットが繋がる分には、ローズ家の面子も保てる。屁理屈では有るがな」

 本をぺらぺらと捲りながら呟く、その中にはセメントの作り方、炭化カルシウムの石灰石の活用方法から見分け方、けい石等の適切な分量が書かれている。


「しかしこの技術は悩む所だな、カナディルに渡すか、自分の家で作って名を上げるのも手だが……」

 今で既にかなり名前が知れ渡っている。あまりこれ以上力を持ちすぎるのも敵を増やす。分散させるのが適切ではあるが、これが元で敵に回ったとき面倒事になっても困る。


「やはり対応次第、か。当主と会いたいところだな。以前渡した手紙を当たるにせよ、当たらないにせよ、此方を買ってくれていると良いのだが」

 六家は常に切磋琢磨している、完全に無視する事は無い、とは思うが。

 

 今日の朝ライラから貰った紙を見る、アルフの剣の材料を買うにあたって資金が必要な事を話し、管理をお願いしたのだ。今日までに溜まった金貨の報告である。


「資金は今現在で金貨63枚、か思ったより稼げてはいるな。このペースだと100枚くらいにはなるな。スゥイにライラ、リリスも手伝ってくれたのが大きいな」

 その分武器を購入した後には全員に3倍返しをする、とアルフが息巻いていたが、借金で首が回らなくなるんじゃないかアイツ。


 今回、討伐依頼を片っ端から処理した事で、カナディル連合国家とスイル国の冒険者に顔も大分知れた。とはいっても有名になったわけではないが、加護持ちのアルフと、特にリリスはちょっとした騒ぎになった。だがやっている事は世の為人の為、と言うやつだ。

 そこは上手くフォールス家の菓子店舗に来るおばちゃん方を使って噂を広めておいた。


 カナディルの姫が自国の為に魔獣の討伐を行っている、と。


 英雄談は皆が好きな話だ。まぁ、あまりにも美談過ぎると問題があるが、最低限の情報だけしか流さないで後は想像で広めさせた。


 訓練の合間で行って来た村で、絶世の美女が魔獣を駆逐している、とかいう噂が広まっていた時は、リリスが真っ赤になっていた。絶世の美女、かぁ? と言ったアルフが殴られていたがいつもの事だ。


 そんなこんなでカナディルからは、特に表立って文句は来ていないようだ。学院長にも確認したから間違いは無いだろう。裏はどうかは分からない、が。レイズ家の当主からも特に何も連絡が無い、おそらく大丈夫だろう。

 

「実力も抑えてやってるしな、見られない可能性の高い奥地はともかく、他の冒険者がいるときは俺とスゥイ、ライラが基本で動いている。出さないのが一番良いのだろうが、リリスの手伝いたいという気持ちを無碍にするのも思うところが無い訳ではないし、なにより戦いの場にいるだけでも違うはずだ」

 お陰で一時期増加していた討伐系の依頼案件は殆ど無くなってしまった。一部の傭兵上がりの冒険者から不穏な空気が上がっていたようだが、一国の姫、それも加護持ち二人だ、直接何か言ってくるような奴は居なかった。


 念のためにライラはアルフかリリスが一緒にいたし、スゥイは確実に俺と一緒にいたし、な。


 お陰様で予想以上にお金が溜まったというわけだ。

 

「ま、実際の所、金を渡す気はないんだがな。この技術だけで十分過ぎるくらいだ。が、金はインパクトがでかい。交渉の場で使えるに越した事は無い」

 それに加工代でも金がかかる、200枚はまず必要ないだろうが刻印を入れることを考えると50枚でも微妙な所だろう。100枚は必要ないとは思うが。







 ガチャ、と扉が開く音がする。



「スオウ、そろそろ時間です。あまりアルフにばかり任せていると、悲惨な事になるかもしれません」

 スゥイが部屋に入ってきて声をかける。その姿は珍しく前掛けをしており、肩で切り揃えていた髪を後ろで縛っている。


「その為にお前がいるんじゃないのか?」

 じと目でスゥイを見つめる。ライラも居るとはいえ、アルフとリリス二人で騒ぎ出すとライラ一人では不安な所がある。


「勿論、危険性の高いものや、取り返しの付かない物は止めますが、面白そうな物は止めませんよ?」

 それも出来る範囲で、の話ですからね。面白そうな物は増長させるかもしれませんけど、とくすくすと笑いながら言ってくる。


「いや、うん、わかってたけど、わかってたけどさ……」

 はぁ……、と、ため息を付き席を立つ。



 今日は新入生の歓迎会、年長組みではないが、上の年齢になった俺達が新しく学院に入ってきた子を歓迎するパーティーである。

 主に屋台が基本となるが、希望者のみであり、年によって数が変動するそうだ。


 正直あまり参加するつもりはなかったのだが、アルフやライラ、リリスが乗り気だったので急遽参加する事にした。



 作るのは勿論、屋台の定番? たこ焼き! は無理だったのでクレープを作る事にした。


 大丈夫、作るのはライラと俺だ、問題無い。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ